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グルテンフリー食で新型コロナウイルス感染症を部分的に予防できる!?

APMISという医学雑誌に、デンマークのバルトリン研究所の研究者が書いた論文が昨年10月に掲載されました¹⁾。タイトルは「グルテンフリー食は新型コロナウイルス感染症を部分的に予防できるか?」です。

新型コロナウイルスが世界的に広まって間もなく1年4か月になりますが、これに関する研究が世界中で行われ、多数の論文が出ています。アメリカ国立医学図書館が運営する医学・生命科学分野の文献検索エンジンPubMedでCovid-19と入れて検索すると、12万件を超える論文が見つかります。きょうはその中から、グルテンフリーと新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の関連性について書かれた論文を紹介したいと思います。なおこれは、一般的な学術論文であるFull Paperではなく、著者の主張を短くまとめたLetter To The Editorとして掲載されたものです。

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ウイルスの感染にはACE2受容体が関わっている

まず最初に、なぜウイルスは人や動物に感染するのか説明します。ウイルスは遺伝子(DNAまたはRNA)とそれを取り囲むたんぱく質の殻だけでできているため、ウイルス単独では増殖することができません。そのため宿主となる細胞に潜り込んで、その細胞が持つアミノ酸や核酸を使って自分の体を複製することで、はじめて増殖することができるのです。ウイルスの感染とは、ウイルスが宿主となる細胞に入り込んだ状態です。では、ウイルスはどうやって宿主となる細胞に侵入するのでしょうか。細胞に侵入するメカニズムがわかれば、細胞への侵入、すなわち感染を防ぐことにつながります。

新型コロナウイルスSARS-CoV-2が細胞に侵入する際には、まず細胞の表面にあるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体に結合するところから始まります(下図)。ACE2受容体を介して細胞に結合した後は、ウイルスの外膜と宿主細胞の細胞膜が融合して、ウイルスの遺伝子(RNA)が細胞の中に入っていきます。遺伝子は細胞の中の核酸を使って複製され、その遺伝子の情報をもとにたんぱく質も作られます。そして1個のウイルスが何百個、何千個にも複製され、細胞の外へ出ていきます。つまり、ACE2が多く存在する細胞は、新型コロナウイルスに感染しやすく、ACE2が少ないと、感染しにくいということになります。
なお、ACE2と新型コロナウイルスの感染については、国内でもわかりやすい解説記事が出ていますので、参考にしてください²⁾。

東大医科研プレスリリース

         図 SARS-CoV-2の感染メカニズム ³⁾

グルテンフリー食はACE2受容体の数を減らす

今回紹介する論文では、グルテンフリー食にすることでACE2の発現量が減り、結果的として新型コロナウイルスへ感染しにくくなる可能性があると述べています。どういうメカニズムなのか、説明していきましょう。まずグルテンを含む食事からグルテンフリー食に切り替えると、炎症誘発性サイトカイニンのレベルが下がります。炎症誘発性サイトカイニンとは聞きなれない名前ですが、このレベルが高いほど、炎症が起きている状態だと思ってください。一方、ACE2は炎症が起きるほど、多く発現することもわかっています。つまり、グルテンフリー食を摂る → 炎症が起きにくくなる → ACE2の量が減る → 新型コロナウイルスに感染しにくくなる、ということです。

グルテンを含む食品を摂ることで、炎症反応が起きる病気があります。即時型アレルギー反応が起きる小麦アレルギー、遅延型アレルギー反応が起きるセリアック病などです。これらの病気の患者さんは、グルテン(小麦アレルギーの一部は別のたんぱく質)が原因で炎症反応が起きているので、グルテンフリー食にすることで、炎症は起きなくなります。ですから、ことさら取り立てて言うほどのことではないか、と思われるかもしれません。ここで注目すべき点は、健康な被験者を対象にした研究で、グルテンフリー食に置き換えたことで、炎症誘発性サイトカインが減少したというデータがあることです。グルテンフリーなんて健康な人には意味がない、という意見もあるようですが、わたしはそうは思いません。ブログの別の記事で、グルテンがいろいろな不快な症状と関係していることを説明していますので、ぜひご覧ください。

欧米人とアジア人の発症率の差はグルテン摂取量

さらにこの論文では、欧米人とアジア人の間で見られる、新型コロナウイルス感染症の発症率の差についても触れています。例えばイタリアでは人口10万人あたり349人が感染していますが、日本では12人と10倍以上の差があります。これは欧米諸国では1人1日あたりの小麦の消費量が33gであるのに対し、日本では10gであり、グルテン摂取量が少ないことと関係しているのではないか、と述べています。そして、アジアでのグルテンの摂取量が少ないことは、新型コロナウイルス感染症を部分的に予防しているとみなされるべきだ、と結論付けています。さらにグルテンフリー食という簡単で安全な方法で新型コロナウイルス感染症を予防できる可能性があり、この仮説を検証するため、さらに研究を行うべきと主張しています。

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この論文の著者は、喫煙者は新型コロナウイルス感染症の発症率が低いというフランスでの研究結果に着目して、この論文を書いたようです。タバコに含まれるニコチンはACE2の発現を抑えることが知られており、また潰瘍性大腸炎や他の自己免疫疾患の症状を抑える効果があることがわかっています。グルテンフリー食によって、ニコチンと同様の効果が得られることから、グルテンフリー食によって、新型コロナウイルスの感染リスクを下げることができるのではないかと考えたようです。喫煙は慢性閉塞性肺疾患(COPD)の原因となります。COPDの患者さんは、そうでない方と比べて、新型コロナウイルス感染症の死亡率が2倍というデータもあるので、喫煙は勧められませんが、グルテンフリー食ならだれでもできると思います。

先ほど述べたように、このメカニズムは、効果がきちんと検証されているわけではありませんが、科学的に説明することはできます。これは、機能性表示食品やサプリメントと同じです。高価な機能性表示食品やサプリメントを愛用している方は、たくさんおられます。私は、グルテンを抜くだけで、感染リスクを少しでも下げられる可能性があるのなら、やってみる価値はあると思います。みなさんはどう思いますか。

1) Martin Haupt-Jorgensen et.al., Can a gluten-free diet be partly protective for COVID-19 infection? APMIS, 128(10) 558-559 (2020)
2) 新型コロナウイルスの症状の多様性とウイルスの受容体の関係、東京都医学総合研究所ウェブサイト、2020年9月8日
https://www.igakuken.or.jp/r-info/covid-19-info20.html
2)東京大学医科学研究所プレスリリース、2020年3月18日
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/about/press/page_00060.html

まとめ

・新型コロナウイルスは細胞表面にあるACE2受容体に結合することで、感染が起きる。
・ふつうの食事からグルテンフリー食に置き換えると、ACE2受容体の数が減少する。そのため、新型コロナウイルスへ感染しにくくなる可能性がある。
・欧米人とアジア人で新型コロナウイルスへの感染率に大きな差があるが、これはグルテンの摂取量と関係があるかもしれない。
・グルテンフリー食にするだけで、新型コロナウイルスへの感染リスクを下げる可能性があるが、
さらなる検討が必要。

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