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スペルト小麦への誤解

みなさん、スペルト小麦ってご存じですか。
グルテンフリーに関心がある方なら、耳にしたことがあることがあるかもしれません。
スペルト小麦は、ふつうの小麦よりグルテンの量が少ないと信じて、利用されている人も多いのではないでしょうか。
でも、入っているグルテンの量は、ふつうの小麦とほとんど同じなんですよ。
今日は、このスペルト小麦について、解説したいと思います。

スペルト小麦は古代小麦の一種

現在栽培されている小麦は、もともと野生種であったものを、品種改良しています。品種改良される前の小麦を古代小麦と呼んでおり、大きく3つに分けることができます。
・一粒系 ゲノム形式はAA 例)ヒトツブコムギ(アインコーンEinkorn)
・二粒系 ゲノム形式はAABB 例)フタツブコムギ(エンマー Emmer)
・普通系 ゲノム形式はAABBDD  例)スペルト小麦
もっとも原始的な小麦は、一対の遺伝子(AA)しか持っていませんでしたが、進化の過程でそれが二対の遺伝子(AABB)となり、さらに三対(AABBDD)となりました。

同じ古代小麦でも、ヒトツブコムギが最も原始的で、次がフタツブコムギ、そして、今回説明するスペルト小麦は、現在私たちが食べている小麦と同じ、普通系の小麦です。

スペルト小麦は、現在広く利用されている普通小麦(パン小麦)の原種にあたる穀物で、7000年前から栽培されています。特に青銅器時代から中世までは、ヨーロッパで主食として用いられてきましたが、小麦の品種改良のため次第に姿を消し、ヨーロッパの一部で栽培されるだけとなっていましたが、昨今のオーガニックブームで、生産量が増加しています。日本でもネット通販で購入することができますが、値段はふつうの小麦粉の3倍程度です。

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現在私たちが口にしている普通小麦は、人工的に品種改良されたものですが、スペルト小麦は遺伝子操作を含め、人工的な手がほとんど加わっていないといわれています。ドイツではDinkel(ディンケル)、イタリアではFarro(ファッロ)、スイスではSpelz(スペルツ) と呼ばれています。

なお少し前まで、スペルト小麦の学名は、Triticum speltaまたは Triticum speltoidesでしたが、最新の研究論文では、Triticum aestivum ssp. speltaとなっています。普通小麦の学名は、Triticum aestivum ssp. aestivumなので、現在は、普通小麦の亜種(spp. とはsub species=亜種)となっています。

スペルト小麦はグルテンが少ない?

このスペルト小麦が注目されている理由はいろいろあります。栄養価が高いとか、低GIだとか、あるいは品種改良される前だからカラダによいだとか。これらについては真偽を検証できないので、今回は触れないことにします。
グルテンフリーとの関係でいうならば、普通小麦と比べて、含まれるグルテンが少ないから、あるいはグルテンの性質が違うから、グルテンに弱い体質の人への負担が少ないという記事が多く見受けられます。でも、その根拠はどこにも載っていません。

2009年に第10回国際グルテンワークショップで発表された、普通小麦(4品種)とスペルト小麦(5品種)のたんぱく質の分析結果¹⁾ を示します。

スペルト小麦たんぱく質

スペルト小麦が、普通小麦よりグルテンの量が少ないというのは、全くのウソです。また小麦にはグリアジンとグルテニンがほぼ同量含まれていると言われてきましたが、この報告ではグリアジンの方が多く、普通小麦ではグリアジン:グルテニン=2:1、スペルト小麦ではグリアジン:グルテニン=3.5:1という結果になっています。

もう一つ、2018年にベルギーの農業研究所の研究者が書いた論文の内容を紹介しましょう²⁾。195の普通小麦品種と240のスペルト品種について、グルテンの含有量(厳密には、セリアック病のモロクロナール抗体への反応性)を調べています。
結論は、普通小麦とスペルト小麦で、グルテン含有量には差はなかったばかりか、最も多くグルテンを含んでいた品種は、スペルト小麦のひとつであったこともわかりました。

スペルト小麦のたんぱく質を研究する理由

日本ではあまり聞きませんが、ヨーロッパではスペルト小麦のたんぱく質の研究が盛んに行われています。なぜだと思いますか。もちろん、小麦アレルギー、セリアック病の原因となるたんぱく質を調べる、という側面もありますが、スペルト小麦と普通小麦を正しく判別することが目的です。冒頭で述べたように、昨今のオーガニックブームで、人の手が加わっていない(遺伝的に改良されていない)スペルト小麦に注目が集まり、需要が増えています。スペルト小麦として流通している粉や、スペルト小麦から作った製品として販売されているものの中に、価格が安い普通小麦が使われていたとしても、それを確かめる方法がありませんでした。新しい方法が考案され、グルテンのたんぱく質を細かく分析できるようになり、普通小麦には入っていて、スペルト小麦には入っていないグリアジンの一種が見つかりました。

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スペルト小麦でパンが膨らまない理由

スペルト小麦でパンを焼いた方もおられるかもしれません。うまく膨らみませんよね。パンが膨らまなかったから、スペルト小麦に含まれるグルテンが、普通小麦より少ない、とは言えないのです。
スペルト小麦100gには、12.4gのたんぱく質が含まれています。一方、製パンに使われる強力粉には、粉100gあたりたんぱく質が14.5g含まれ、うちグルテンが12.3gと推定されます。薄力粉の場合は、粉100gあたりたんぱく質が8.3gで、うちグルテンは7.0gです。スペルト小麦に含まれるたんぱく質のうち、グルテンがどれだけなのか分かりませんが、少なくとも強力粉より少ないことは間違いありません。これがパンが膨らまなかった理由ではないかと考えられます。

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いかがでしたか。
スペルト小麦には、普通小麦にはない長所があるかもしれませんが、グルテンに関しては、普通の小麦とほとんど同じです。普通小麦よりもカラダに負担が少ないと思って食べている方は、食べるのを控えたほうがよいかもしれません。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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参考文献
1) Koenig et al., Distinguishing wheat and spelt using typical protein markers, Proceedings of the 10th international gluten workshop 142-145 (2009)
2) E. Escarnot, et.al., Reactivity of gluten proteins from spelt and bread wheat accessions towards A1 and G12 antibodies in the framework of celiac disease, Food Chemistry 268, 522-532 (2018)

まとめ

・スペルト小麦は品種改良される前の古代小麦の一つだが、普通小麦に比較的近い品種。
・スペルト小麦と普通小麦で、含まれるグルテンの量に差はない。


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