イベントレポート: 犬room/人room
ディレクターの阿部です。
この記事では、2021年3月21日・22日に開催したイベント《犬room/人room》をレポートします。
※サムネイル画像は作品写真ではありません。作品写真は少し下の解説部分で紹介しています。
はじめに
《犬room/人room》はつくばセンタービルの1階、アイアイモールの通路に展示されました。
アイアイモール通路。2018年にレストラン街がすべて閉店し、仮設壁(画像左)が遺構を覆っている。
アイアイモールは1990年にオープンしたショッピングモールです。
「学園都市」つくばの都市機能の象徴としてつくられたつくばセンタービルの一部として設けられ、レストラン街や花屋、薬局が並びました。
そのラインナップからは市民の生活の一部になるような商業施設という印象を受けます。
(公式サイト:http://www.aiaimall.com/floor_guide/index.html)
オープンから30年が経過した現在も朝6時半から夜中の12時まで毎日休まず明かりが灯り、警備員や清掃員の働きによって安全と清潔が保たれています。
その一方で、アイアイモールがつくばという街に対して担う役割や人々にとっての意味は変化しました。
現在入っているテナントはコワーキングスペース、法律事務所、献血ルーム。
買い物や食事にやってくる人はいません。その代わりにベンチに座って作業する人や食事をとる人、モールを通って駅やマンションに向かう人、遊び場にする子どもがいます。
《犬room/人room》は、このアイアイモールに展示されました。
2点の作品で構成されていたので、ここではそれぞれを作品A、作品Bとして記述します。
◎作品A(つくばセンタービル1階 旧ボンド入口脇)
椅子の上にブラウン管テレビが置かれ、映像が再生されています。
映像は一匹の犬の様子を定点から記録したものです。犬はケージの中にいて、柵越しにこちら(カメラ)に向かって吠えています。
ケージと犬を映す画角に変化はありませんが、突然に陽の当たり具合が変化すること、また不自然に犬が吠えることを繰り返すことから、長く撮影したものを切ってつないだ映像であることがわかります。
ブラウン管テレビが映し出す映像は小さく不明瞭でした。テレビの目の前に立たなければケージの中の犬の姿を見ることができません。
その一方でオーディオが再生する犬の咆哮は通路中に響き渡っていました。
この作品において映像と音は、まず咆哮が聞こえ、その発生源として画面が認識されるという関係にありました。
◎作品B(つくばセンタービル1階南東 広間)
作品Bはアイアイモールの東側と南側をつなぐホールの中心に置かれていました。布に覆われた台座とそこにはめ込まれた平たい枡、水で構成されています。
枡のふちまで注がれだ水は断続的に揺れています。例えば風や人の歩みといったかすかな衝撃やちいさな振動で波立ち、こぼれそうに揺れていました。
作品の頭上は吹き抜けになっていて、差し込む光が昼間の作品を照らしていました。日が暮れると吹き抜けの内側についた照明が点灯し、外光に変わって作品を照らします。
作品に落ちる光は枡のアクリルや水で分散して、紫の台座の上に虹色の線を散らしていました。
ホールの吹き抜け。天井を突き抜けてペデストリアンデッキのフロアに飛び出ている。
二日間の展示が終わり、大脇が作品を解体していく様子を見ていた私は、この場所を日常的に利用している人々が作品Bを見るときのことを考えていました。
作品Bを照らしていた照明はこの作品のために用意されたものではなく、普段から下向きについていたものでした。
照明は毎日夜間に点灯し、ホールの中心に据えられた何も置かれていない台座を照らします。照らす先にある50センチ四方ほどの黒い台座は配線を覆うもので、動かすことはできず、普段は三台のベンチで囲われています。
私はホールの真ん中にある台座の存在には気がついていたのですが、それを照らす照明には気がついていませんでした。
この照明の発見に着目してみると、《犬room/人room》は意味を失った照明に新しい役割を与え、それが無意味なものではない可能性をひらいてみせたといえます。
照明の存在は、役割から遊離したアイアイモール自体に置き換えることもできるでしょう。
この作品の展示が日常的にこの場所を利用する人の発見の機会となっていたらいいなと丁寧に解体されていく《犬room/人room》を見ながら思いました。
写真撮影: 大脇僚介(作品写真)、阿部七海