イベントレポート:トーク#1《落とし穴の輪郭》
こんにちは。HAM2020ディレクターの阿部です。
この記事では10月25日のトークセッションの様子を、ファシリテーターをつとめた私の視点から振り返ります。
ライブ配信された動画をIGTVで見ることができますので,まずはこちらをどうぞ。前編と後編に分かれています。
〈スライド資料〉
https://drive.google.com/file/d/1ePJfJsoKRng_HqRLHyupifGIs3PcbyRe/view?usp=sharing
トーク#1 落とし穴の輪郭─なぜ今ここでアートなのか
「トーク」ではOpen Spaceに様々な人の意見や言葉を蓄積させていくことを目的に、毎回異なるゲストとHAM2020ディレクターズメンバーが対話をします。
初回となる今回のゲストはフィンラガンのマスター、松島さん。
これから展開されていくOpen Spaceの輪郭を参加者に共有することを狙いとして、発起人である松島さんとHAMのディレクター5名が互いに質問し合う様子を見てもらうようなトークを企画しました。
日曜の21時スタートにもかかわらず、トークを目当てに10名ほどの方がいらっしゃいました。
フィンラガンのお客さん方も時折耳を貸してくださっていたようです。
《落とし穴の輪郭》は、次の6つの質問を軸として進みます。
なお、回答者には事前に質問内容を伝えています。回答者の中で思考が深められた上で問答を繰り返すほうが、相手の意図を推し量ることも含めて会話の意義が深まると考えたからです。
全体のざっくりとした流れとしては、
はじめに自己紹介を兼ねてつくばの土地と私たち個人の関係性を参照し、そこから松島さんがつくばに居つくようになった理由を掘り下げ、発案者である松島さんの思いを確認しながら、つくばセンター広場でアートをやっていくことについて意見を交わしていきました。
その後、商売人である松島さんがお金・価値提供という切り口からアートへの疑問をもちかけ、アートと価値についての話が展開されました。
質疑応答を軸とした会話の展開
ボリュームたっぷりのトークセッションとなったのですが、この記事の執筆のために配信動画を見かえしてみると、私はその内容ではなく会話の様相に興味をひかれました。
【前編】35分ごろ
阿部に質問を促され、岡本が発言。松島さんと話す。
このとき、岡本と松島さんの2人は問いでも答えでもない発言を投げ合っています。相手の発言を自分の視点に手繰り寄せ、自らの経験を口にする。それをまた相手が引き取って話す。
その繰り返しによって会話が紡がれていく様子に、会話とは,私たちの間にそれぞれの言葉を置いていくような行為なのだと感じました。
また、【後編】では松島さんとHAMメンバーが,それぞれ返答を返せずに「うーん」と唸るシーンが見られます。
それらの反応が現れているのは、話題に対する意見を述べようとしても、相手と自分の立場から異なっているために質問と応答の噛み合わなさを感じながら話をしなければならないような場面です。
たとえばQ4に端を発する「アートの価値をいかにお金に変換していくのか」という話題。(後編の20分ごろ)
アーティストとして回答を任された栄前田が松島さんへの回答にてこずっていると、観客からも質問が投げかけられていきます。
観客の質問は松島さんの質問を補助するように発されていて、発問者の経験(経営者・デザイナー・編集者)や興味によって噛み砕かれ方が変わるため,少しずつ発問が異なってはいます。
ですがその差異以前に、栄前田と発問者たちは根本的な思想から異なっていました。
栄前田は「アート活動と生活のための仕事は切り離されていて全く構わない。だからお金を産んでいくことはどうでもいい。」と考えます。
「お金がなければ生活もやりたいこともやっていけない」という視点に立つことはありません。
だからこそ、その視点を前提とした質問と回答の場面で何を発言すべきかが見当たらなかったのだと思います。
広場に言葉を置いていく
今回のトークでは、質問者と回答者の思想が異なっていて、そのことを互いになんとなく感づいていても、その異なりが指摘されることはありませんでした。
私は事後になってその違いに気がついたのですが、「なんか噛み合ってないな」と感じながら話していたというディレクターもいます。
このように他者との思想の異なりに鈍感になった状態を作り出すのが、質疑応答という形式です。
例えば、質問だけでなく相手の質問の前提となっている思想や価値観に巻き込まれて言葉に詰まることは、相手の質問の前提を汲み取り、その前提を崩さないように自分の立場からなにかを返すことが回答者の務めであると自覚しているからでしょう。
そして他者との前提の違いに鈍感になっている状態は、相手の発言を自分にとっての可能性として捉えることを可能にします。
私は《落とし穴の輪郭》における会話について、私たちの間に言葉を置いていくような行為だったと書きました。
私たちがつくばセンター広場で交わした会話が、誰かの思考のきっかけとなるたねをあの場所に蒔いていて、Open Spaceの可能性を広げていくことにつながっていくことを期待しています。
写真撮影:沼中秀薫
◎次回イベントのお知らせ
《Sketch the Pit/ 写生大会》11月1日(日) 12:00〜17:00
つくばセンター広場を観察するための方法として,つくばセンター広場をスケッチします。どなたでも気軽にご参加ください。
・紙や画材は自由にお持ちよりください
・完成したスケッチはフィンラガン駅前店に貼り出します
・HAMディレクターとのおしゃべり目的の来場も大歓迎です