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工夫の呪文。

造形作家の夫と結婚した。夫は作品制作をしたり、造形教室を営む。私はそこに居合わせることになった。

夫は「工夫のひと」である。あらゆる場面で、工夫癖が発揮される。わが子がグズっても夫は工夫で難局を乗り越える。もちろんモノづくりも工夫癖が効く。造形教室でお子たちとモノづくりをしているとき、夫は作業のやり方を改善してゆく。隣で私はお子たちの応援をしている。そしてあわよくば、お子たちの中に「困ったときは、工夫」の呪文が残ってくれたらと企む。

工夫は、困難を乗り越えることもあるし、回避することもある。助けを求めることも工夫だし、退散することも、ときには工夫だ。

アメリカから帰省中の生徒さんのいとこを受け入れたときのこと。工作をしながらおしゃべりをした。アメリカ暮らしは困難でいっぱいのようだ。私は「その経験は必ず彼らの強みになる。なんとか、心のチャンネルを切り替えて、アメリカ暮らしを堪能できたら」とおせっかいながらに思い、別れ際にこう話した。
「ここではモノづくりで困ったら、工夫をしたよね。大事なことだよ。モノづくりじゃなくても困ったら工夫。アメリカに帰っても、何か困ったことがあったら、工夫する。」
彼らはうなずいて、そしてアメリカに帰っていった。彼らの中に工夫の呪文が残ったかはわからない。けれど、私の中でこれって大事なんじゃないかと感じていたことが言語化され、ストンと腑に落ちた。

人生に、工作キットのようなマニュアルやぴったりの材料があったら楽だろうけど、人生はマニュアルや過不足のない材料では構成されてはいない。しかし、いつも工夫を胸に、視界に転がっている無数の材料の中から、「スキ」を選び取りながら、人生を構築してゆけたらどんなに素敵だろう。幼少期に知らなかったことが悔やまれる。困難に直面すると「あぁ、どうしよう」と絶望して、肩を落としてあきらめたり、しっぽを巻いて逃げ出してきた。でも、いまは不器用なりに工夫を試みるし、わが子に、教室のお子たちに伝え続ける。工夫ネイティブの夫には、当たり前過ぎてむしろできないことである。
「困ったら、工夫だよ。」
困難に直面したとき「あぁ、どうしよう」を「さぁ、どうしよう」へと心機一転、カチャリと心のチャンネルを切り替える。
私は伝えてゆく。誰にも言われてないけど、使命だと思ってしまったから。
お子たちは未来。工夫せよ。輝け、未来。

#未来のためにできること  

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