20240711『若き日』セルフライナーノーツ⑫
Photo by Mikio Kitahara
ふと思い立って先の公演のセルフライナーノーツを書いてみようと思った。私たちの『若き日の詩人たちの肖像』は上演時間60分の作品で、オープニングとエンディングを合わせて20のシーンからなる。リハーサルではひとつひとつのテクストを俳優たち自身で選定し、シーンを立ち上げていった。私たちの創作はどことなく音楽のアルバムを作るときのそれに似ているような気がして、せっかくなのでセルフライナーノーツとして、覚えている限りでその過程を書き留めておければと思った。
「13 マドンナの泡盛」は河野竜平が選んだシーンだった。今回の『若き日』を上演するにあたって沖縄というのがひとつのキーワードになるのではないかと考え始めて、河野にはリハーサルに先行して三線を購入して練習を始めてもらっていた。
▼今回河野はバイオリンと三線というまったく異なる楽器を二台弾くことになったのけれど、元々弾けるのはバイオリンの方だけで、三線は今回が初めての演奏だった。もともとバイオリンで培った運指と音楽的な勘で巧みに演奏するあたり同僚ながらに見事だった。
▼『若き日』の物語のなかで、その後日本で唯一の凄惨な地上戦を経験することになる沖縄に亭主をもつマドンナという女性と、マドンナが歩むことになりそして現に歩んでいる運命と、過去・現在における日本の中での沖縄というものたちの底に流れる「虐げられる弱きもの」とでもいうべき事柄について思いを馳せられる時間になったら、ということを考えていた。
▼主人公であるところの若者、堀田善衞氏が生まれ育ったのも北陸の海沿いの街で、日本は島国なのでそれらの海は方角はまるで異なるけれどもつながっている。本州から遠く離れた沖縄のことを、これだけの距離を隔てても尚どれくらい真剣に我がこととして考えることができるだろうかということを、一度沖縄に足を運んでからというものずっと考え続けている。
▼今回劇中で歌った沖縄の歌を教えてくれたのは平敷屋エイサー保存会会長の新里正幸さんだった。沖縄のエイサーのなかでもひときわ硬派で、荘厳なたたずまいをしているのが平敷屋エイサーで、私は一撃でその虜になってしまった。今回劇中で歌わせてもらった歌は「月や月影の美しさをみんなで出かけて見に行こう、さあ早く、この島は最高に美しい」ということを歌っている。素朴できれいな、とても好きな歌である。
▼美しいその島も、沖縄戦を経て周りの海をぎっしりと埋め尽くしていたのは米軍の艦船で、命令ひとつでいつでも本土を焼き尽くすために東京へ押し寄せる予定だったという。「ぼろいけれど自分の家だから」と、沖縄へ向かった夫と遠く離れて別居する道を選んだマドンナがいて、この世はつくづく思うようにはならないものだと思う。どんなブルシットな時代でも、社会でもか弱く小さなものはいて、そういうものと心を寄せ、ともにすこしでもマシな未来を選び取るために生きられたら、と思う。
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平泳ぎ本店／Hiraoyogi Co. 第8回公演
戸山公園野外演劇祭参加作品
『若き日の詩人たちの肖像』
2024年 5月17日（金）ー19日（日）
各日18時30分開演（17時45分受付開始・開場）
※雨天決行
於：戸山公園（箱根山地区）陸軍戸山学校軍楽隊 野外演奏場跡
https://g.co/kgs/Ksc4VNJ
【チケット】
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【公演詳細】
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