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20240612 型を守ること、祈ること。

「戯曲に書かれているのは、変化」と教えてくれたのは演出家の鵜山仁さんだった。幕が開いた瞬間から幕が降りるその時まで、舞台上のものも人も、空間もまた絶えず変化し続けていく。だから何かしらの要因で変化を怠った瞬間に何かが滞って、うまく流れなくなるような感覚が生まれたりするらしい。

▼ある状態からある状態への変化の連続、というのがあるいは生そのものなのかもしれない(鵜山さんは音楽の楽譜もまたそうして”変化”というキーワードで語ってくれた)。「舞台上で発語された言葉が一つの波紋となって、次の波紋を連れてくる。そうして最初の一言から最後の一言まで、水面の波紋が連なるようにして舞台上に言葉を置いてこられるのが演劇としての理想」と語っていたのはまた別の演出家の方だった。

▼万物は流転する、ではないけれど、そうしてミクロでもマクロでも自然の中ではありとあらゆるものが絶えず変化していく中で、「変わらないもの」に心惹かれることがある。たとえばそれは歌舞伎の型だったり、空手の型だったり、能や狂言の型、あるいはバレエのポジションだったり、そういうものだ。

▼脈々とつづく人間の営みの中でおよそありとあらゆるものは放っておけば時の流れとともに変わってゆく。それは合理的だし、そうして変わっていくことこそ本質だとも思う一方でそうした自然に抗ってまで「型を守る」ということの尊さみたいなことを、時に感じたりする。

▼沖縄のエイサー、というとなんとなくのイメージでもカラフルな衣装を着て大きな太鼓を鳴らして派手に舞い踊るそれをイメージされる方も多いと思うけれども、沖縄各地の数々のエイサーの中にひときわ異彩を放つエイサーが一つだけあって、それがうるま市の平敷屋エイサーなのだった。中世の踊り念仏にルーツを持つとされる平敷屋エイサーは、古来からその衣装も踊りも頑なに変えることなく、型を守り抜いてそのままの形で現代まで伝承されてきていて、その踊りを一目みた瞬間に心を強く掴まれてしまった。

▼「型を守る」という営為に、私自身これほどどうしようもなく心惹かれるのはなんでなのだろう、と平敷屋エイサーに出会ってからずっと考えていた。折しも最近Xで玉川奈々福さん「#伝統芸能稽古事のススメ」というハッシュタグが大活躍したりしているのを見かけたりもして、ずっと考え続けていた。

▼ある時「型を守る」ことは祈りなのではないかと、ふと思った。放っておけばすべては変わっていってしまう中で、竿を差してそこに留まる。変わっていくための理由が100あるとしても「型を守る」という一点に留まる。今の自分の感覚とは異なる身体感覚があるということをわかり、その未知の感覚に対して常に自分自身を開いておく。やりやすいように、自分のやりたいようにやることはもちろん可能である。けれども並々ならぬ努力と時間をかけてこれまでに積み重ねられてきた先人たちの「美」の込められた型をその身で受け継ぐということをたぶん、私はとても大切で尊いと思っている。

▼わたしは、祈りたいのだと思う。自分一個の人生では手が届かないような美しいものに、どうにか触れてみたいと思っている。一回きりのこの生を、どうにかより良いものにしてみたいと願っている。そう願う時に、今このありのままの自分にあるだけの材料では少し心許ないのである(そんなに大した人間じゃないから)。先に生きたすべての先達の智慧と経験の肩に立って、もうすこしだけ遠くを見てみたいと願ってしまった。何もかもが変わりゆく世界の中で変わらないものを自分の人生でひとつでも見つけられたらそれは希望になるからと、わたしは祈りたいのだ、と思う。

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野外で自由に演劇を上演できるようにするための所作台をつくりたい。」

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平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co. 第8回公演
戸山公園野外演劇祭参加作品
『若き日の詩人たちの肖像』
2024年 5月17日(金)ー19日(日)
各日18時30分開演(17時45分受付開始・開場)
※雨天決行
於:戸山公園(箱根山地区)陸軍戸山学校軍楽隊 野外演奏場跡
https://g.co/kgs/Ksc4VNJ
【チケット】
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【公演詳細】
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