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20240504 思想上のトンカツ

たとえばみんなで居酒屋で働いているとして、あるときバイトのチーフが他店に研修に出かけたとする。研修に行った先が日本屈指のとんかつ店で、帰ってきた彼はとんかつという料理の奥深さや極上の豚肉の脂の旨味について力説する。曰く「この店でもトンカツを看板メニューにしたい。賄いもこれからぜんぶとんかつにするから」と。彼の言っていることはわかるのだがしかし困ったことに、私はイスラム教徒なのだった。

▼これはあくまでただの喩え話だけれども、長く生きていればそういうこともまあ起こりうるのだった。たとえば居酒屋のカウンターなんかだと「政治と宗教、そして野球の話はするな」という不文律があったりする。

▼日本に生きていると、日々の生活の中であんまり宗教や信仰のちがいで気まずい思いをすることはない。そこまで激しい思想上の対立ということにも出会さない(差別やヘイトは日常生活の中に現にあるからそれはまた別として、ここではあくまで宗教の問題に限定する)。

▼信仰上豚肉が食べられないという人に向かって、「これが店の方針だから」と無理に豚肉を食べさせるなどということはあってはならない。個人の思想信条の自由というのは基本的人権としてこの国で守られているもので、それがたかだか仕事の都合だったりあまつさえ店の方針という理由で侵害されていいということには絶対にならない。

▼冒頭のバイトのチーフにとってのトンカツのようなものに、しかし(劇団主宰としての)私はしっかりと出会ってしまったのだった。いまさらそのトンカツを忘れろ、なかったことにしろ、出会わなかったものとして元やっていた居酒屋を続けろと言われたって、もう無理なのだった。

▼トンカツに魅せられたバイトチーフと敬虔なイスラム教徒の彼とは、普通なら相容れないからさっさと袂を分って別のお店で働きだすかと思いきや、「トンカツは絶対に揚げられないし食べられないが、付け合わせのキャベツの千切りなら上手に切ることができる」というところで妥協点を見つけたのだった。そしてそういう妥協点を見つけて働き続けてくれる彼に対して、バイトチーフは頭が上がらないくらいには感謝しているのだった。

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平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co. 第8回公演
戸山公園野外演劇祭参加作品
『若き日の詩人たちの肖像』
2024年 5月17日(金)ー19日(日)
各日18時30分開演(17時45分受付開始・開場)
※雨天決行
於:戸山公園(箱根山地区)陸軍戸山学校軍楽隊 野外演奏場跡
https://g.co/kgs/Ksc4VNJ
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【公演詳細】
https://hiraoyogihonten.com/2024/02/24/hiraoyogi8th_info/

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