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20240405 大声、痙攣、ときどき白目 

「あの時はナイフで◯◯さんを刺して……魚肉ソーセージを食べて白目を剥いていました」というのは、前に私の劇団の公演に出てくれた方の話してくれた思い出話である。「そんなことさせたっけ??」と思いつつ、話を聞くだに私の劇団の作品に相違なく、若い女性の方にそんなことをさせて申し訳なかったなと、ちょっと思ったりする。

▼映像が残ったりもするけれど「風に書いた物語」という言葉の通り、演劇は基本的にはひとつひとつのシーンが思い出になっていく。断片的に思い出すと「なんでそんなことしたんだよ」と我ながら思ったりもするけれど、創作の過程では確信をもってやっていることなので不思議な気持ちになったりもする。

▼これはもう端的に自分の好みなのだけれど、「舞台上で大きな声を出している人」「舞台上で痙攣している人」「舞台上で白目を剥いている人」というのにめっぽう弱い。出てきたら無条件で笑ってしまう。「お前を駆り立てるものは一体なんなんだよ」という気持ちになり、アンダーグラウンドな演劇への憧憬みたいなものがスパークして笑ってしまう。

▼やってみるとわかるけれども舞台上で白目を剥くのも大声を出すのも痙攣するのも結構たいへんなことである。普通の俳優ならわざわざそんなことをしない。リアリズム的にちゃんと考えるような俳優さんだと意味がわからないからそんなことはできない。意味や文脈から積極的にこぼれていった先にしか「大声・痙攣・白目」は存在し得ない。

▼だからもし外部から出演してくれる俳優さんから「え、私そんなことできません」と言われたら「そうか…まあそうだよな、じゃあ劇団員で白目剥くか…」という話になってもおかしくないのだが、冒頭の俳優さんは積極的に白目を剥き、魚肉ソーセージを頬張っていてくれたのだった。若いのに「訳がわからない」と言われがちな私たちの演劇に付き合ってよくぞやってくれたと、感謝の念に堪えない。

写真中中央が冒頭の俳優、森彩華さん。

▼劇団員は劇団員で、元々は新劇のお芝居をきちんとやっていたはずの人たちなのだが、今となっては誰もがほとんど躊躇なく「大声・痙攣・白目」をやってくれるし、それに加えてそれぞれが勝手に独自の演技体を開発しているので俳優の集団としては独自進化を遂げている。「平泳ぎで演劇をやるのなら進むべき道はこっち」みたいな了解がお互いの中にあって、それが年々熟成されていっている。曲解したアングラを体現することもできればどストレートな会話劇もできる。そういう節操のない幅をもっているのが、平泳ぎ本店というカンパニーの強みだと思っている。

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