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20240729 演出の手習い

とある小劇場の企画でエドモン・ロスタンの『シラノ・ド・ベルジュラック』の演出をしたことがあった。「演出家が正しく傷を負うこと」を目標として開催されたその催しは演出プランのコンペから始まって、数日掛けて修道院のシーンを形にするところまでを目標として進められた。

▼正直なところ、それまで真剣に演出という技能のことを考えたことがなかった。誰かに習ったわけでもないし、何冊か「演出の仕方」みたいな本を読んだとてできるようになるほどライトな技能でもないと思っていた。養成所の頃は演出というのはいわば「先生」みたいなもんだったので、俳優としてはとりあえず演出の言うようにやってみる、くらいの認識でしかなかった。自分の劇団で演出的な側面を少し高いレベルで担えるようにならなければならなかったので、さながら武者修行の心持だった。

▼だいたい演出って何をどうすればいいんだよ、というのは自分にとっても長い間疑問であったところ、冒頭の劇場の催しに参加することでなんとなく知ることができたらいいな、と思っていた。「正しく傷を負う」という目標が掲げられることからも分かる通り、演出の人間にとってはきちんと針の筵を行くような道のりが用意されていた。

▼普段自分の劇団だと多少言葉が足りなくても周りのメンバーが要領よく察したり汲んだりして進めてくれる創作を、はじめましての人と一緒にやらなければならない。そしてそのためにはきちんと自分の考えていることを言葉にして伝えて共有して、それに対して賛同を募らなければならない。いろんなタイプの演出家がいたけれど、やっていることは結局のところ「合意形成」なのかな、と思いながら過ごしていた。

▼そしてその数日間、過程のありとあらゆるコミュニケーションを通じて演出はジャッジされるので本当に気の休まるときがなかった。技術的なこと、芸術的なことを一旦脇に置くとして、「ああ、日本人ってこういう時に攻撃的になるんだな」「誰を叩いていいのかみんな空気読んでるんだな」「『これ』という自分の感性を持っている人の方が少ないんだな」「内容よりも言い方や伝え方の方を重視するんだな」といった、日本人の集団心理とコミュニケーションの傾向みたいなものをしみじみと感じたりしていた。

▼自分の場合蓋を開けてみると、演出というものを考えるのに一番強いフックとなっていたのは戯曲に対する読解だった。いろんなタイプの人がいるとは思うけれどもシンプルに戯曲を読み、何度も何度も読んでいるうちに「この戯曲のこのシーンはこういう風になっていなければならない」という気持と、「この台詞はこのように聴こえ、見えているべき」という感覚が生まれてくるのを感じていた。音も明かりも空間も、現実の俳優や創作のグループのメンツと照らし合わせながら「こういう風にしたい」という自分の欲望があるということを見つけられるようになっていた。今度はその欲望を、未だ見ぬ観客の欲望とすり合わせることを考え始めたりしているのだけれども、それはまた別の話である。

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平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co. 第8回公演
戸山公園野外演劇祭参加作品
『若き日の詩人たちの肖像』
2024年 5月17日(金)ー19日(日)
各日18時30分開演(17時45分受付開始・開場)
※雨天決行
於:戸山公園(箱根山地区)陸軍戸山学校軍楽隊 野外演奏場跡
https://g.co/kgs/Ksc4VNJ
【チケット】
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【公演詳細】

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