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20240311 観客は眠らない

舞台を観ていていちばん難しいのが「寝てしまう問題」だと思う。せっかくチケット代を払って観に行ったはいいものの、うっかり眠気に襲われてうつらうつらしてしまい、舞台の半分以上を見逃してしまったというようなことが、現実問題としてたまに起こる。劇場で人は寝てしまいうるのである。

▼「オペラを観に行って歌を聴きながら居眠りするのが最高の贅沢」みたいな物言いも聞いたことがあるが、演劇に関しては寝てしまったらもうそれまでである。何が起こったのか皆目検討がつかない。戯曲があるなら観劇の前後で読めばいいかもしれないが、オペラハウスほど椅子もフカフカとしていないし、小劇場だと小さくて硬いパイプ椅子で耐えて耐えて、それでも寝てしまうということだってありうるから困るのである。ピュアな時間とお金の損失である。

▼「こいつはヤバそうだと思ったら開演前にコーヒーをね、飲むんだよ」というのは学生の頃舞踊について教えてくれていた先生の言葉だった。その道が長い観客になると「こいつは眠ってしまいそうだぞ」という作品を事前に嗅ぎ分けることができるようになるものらしい。確かに事前にコーヒーなどでカフェインを摂取しておくと、仮に寝落ちしてしまったとしても傷は最小限で済む。集中していれば15分くらいで戻ってこられるという実感がある。飲んでいないと最悪終演まで小一時間寝続けてしまうことだって全然ありうるから油断ならない。

▼逆にどれだけその日早起きだったり寝不足といったコンディションが悪い状態でも、不思議と目が冴えて、しっかり起きて見ていられる作品というのもある。静かだから寝てしまうというわけでもないし、やかましかったら必ず起きていられるかというとそうでもないのが不思議なところである。どれほど楽しみにしていた作品だって寝てしまう時は寝てしまうのだ。

▼結局のところ「縁」なのではないかと、最近は思うようにしている。何かしら今の自分にとって縁がある作品ならコンディションがどうであれ起きて見られるし、縁がなければどんなコンディションでも眠ってしまう。観劇していて居眠りしてしまうとそれなりに罪悪感を感じるけれども、あまり自分を責めすぎると観劇という行為そのもののハードルがどんどん高くなってしまって心理的な負荷が強くなりすぎてしまう。なんであれリラックスして観ていられる状態がいちばん良いと思う。観劇にマナーはまだしも武道的な「道」みたいなものを求めるのは何か根本的な筋が違っている気がしてならない。観客は誰しも観たいものを好きに観る自由がある。

▼自分が多少そう思うから、ということなのだが、もし舞台を観ていて眠ってしまったとしても、そんなに申し訳なく思わなくてもいいと思っている。寝たら寝たで夢を見られるのだから。その客席でしか見られない夢もあると思えば、観劇中の居眠りもまた少しは有意義なものだと思えはしないだろうか。昔そこそこの中劇場クラスの劇場で上演されたある舞台を観ていて、ふと客席を振り返ったら冗談抜きで観客の四割の首がガクンと落ちているのを目の当たりにしてゾッとしたことがある。あれだってそれぞれが夢の中で別の舞台を観ていたのだと思えば、それほど腹も立たない。目を開けていようといまいと観客は眠らず、ただ夢を観ているのである。

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