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20240209 みんな俳優だったから

かつて通っていた養成所が一応は新劇と呼ばれる劇団だったので、なんというかまあ「新劇の劇団ってこんな感じ」というのは今の劇団のメンバーの共通認識として持ってはいた。稽古の仕方、演出家の物言い、俳優の振る舞い方、戯曲の読み方などなど。

▼「だいたいこういう風にやれば演劇は出来上がる」というような基礎文法はあって、旗揚げの第一回公演はそれで新劇っぽいことをやってみたのだが、せっかく劇団を卒業したのだし、もうちょっとやりたいことをやりたい方法でやってみたい、という気持ちになって第2回公演ではぜんぜんちがうつくり方を試してみることになった。

▼今思えば結構風当たりは強くて、メンバーの中にも台本がないことに不安を示す人も多かったし、旗揚げの時に手伝ってくれた結構有名な美術家さんに第二回公演の企画書を見せたら「で、これは結局何がやりたいの?」「何がしたいかぜんぜんわかんないんだけど!?」と呆れたように聞き返され、あまりまともに取り合ってもらうことができずに物別れになってしまった。簡単にわかってもらえるとも思っていなかったけれども「そんなにけんもほろろにしなくてもいいじゃん…」とさすがにちょっと思ったのを覚えている(それくらいとりつく島がなかった)。

▼そもそも既製の台本を新劇っぽく上演することに飽きていたので、「台本を使わない」「演出家を立てない」「俳優だけで創作する」「やりたいことをそれぞれ持ち寄って形にする」ということで創作は進んでいった。結局台本らしい台本は最後まで用意しなかったし、シーンによっては冗談抜きで「なんかいろいろあってだいたいこういう感じになりますので、舞台上がこのような状態になったら、明かりをこのようにしてください」みたいなきわめてフワフワした感じで場当たりも進めて行った。スタッフの人たちも優しかったから、こちらが一生懸命やりたいことを伝えるとなんとか音も明かりもいい感じに誂えてくれた。

▼身体表現も多く、ダンスっぽいといえばダンスっぽいと言えなくもない。思い切り身体も使ってぶつかり合ったりもする、いくつものシーンのつなぎ合わせ(コラージュ)からなるうちの劇団の一つの軸となる作風の第一作目になった。ずっと頭にあったのは、かつて金杉忠男さんという劇作家・演出家が率いた劇団中村座というアングラ劇団と、会場となった早稲田小劇場(どらま館)でかつて上演された鈴木忠志さんの『劇的なるものをめぐってⅡ』だった。物語の筋とかではなくて、俳優の存在そのものの詩性を見てみたいと願い始めた。

▼一応は新劇の養成所から出てきて、アングラの方向へと舵を切り始めた。硬質な会話劇を旨とする新劇からフィジカルと思想が炸裂するアングラ演劇へ。頼まれてもいないのにたどたどしい足取りで、現代日本の演劇史を勝手に自分たちでたどり始めたような格好になった。今のメンバーと養成所で出会った時、私も含めてみんな俳優だったから、俳優だけでおもしろい演劇がつくりたいというのが今あるそもそもの出発点だった。

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