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20240415 そもそも走り出せるのか。

「走りながら考える」という言葉が結構好きでなんでだろうと考えてみるに、この言葉自体いろいろ元ネタはあるのだろうけれど、個人的には2016年に聞きに行った早稲田小劇場完成のシンポジウムで、前早大総長の鎌田先生がおっしゃっていたのがたぶん耳に残っているんだろうと思い至った。鎌田先生は今の早稲田小劇場どらま館が建った時のシンポジウムで「とにかく劇場は建ったので、あとは走りながら考える」と仰っていたのだった。

▼私自身も何度かお世話になった早稲田小劇場どらま館については解せない点がいくつかあって、劇場入り口の、本来であればチケットなどを販売するボックスオフィスがあるはずのところの部屋によくわからないテナントが入っていて、確か最初はコーヒーなどを売るカフェ的なものから始まって確か最後はコッペパン屋さんになったのだが、そこもすぐに営業をやめてしまい、今となってはすっかり謎のスペースになってしまっているのだった。

▼そして午後になるとどこからともなく「カン……カン………」という音が聞こえてくるのだけれど、原因がさっぱりわからず、なんだろうと思って調べてみると裏の早稲田高校のグランドから聞こえてくる硬式野球部のノックの音だったりした。劇場としての防音性能ということに思いを馳せながら、なすすべなくノックの音が響き渡る劇場というのもなかなか乙なものなのだが、静かなシーンになると困るよなと思ったりしていた。

▼まあそうしたことはひとまずおくとして、劇場の難しいところはただ建てただけではなかなか有機的にその役割を果たしていかないということなのだった。劇場を稼働させるにも人的なリソースが必要で、魅力的なプログラムを組まないと人は足を運んでくれないし、実験的な企画や挑戦的な企画を仕掛けようと思ったらそれなりのコストがかかる。建ってから数年間は割と精力的にいろいろ企画が立てられていたのを楽しみにみていた分、(コロナの影響もあって)尻すぼみになっていったのを感じた時の寂しさもそれなりだった。建てた劇場がその地域で、あるいは小劇場界の中で一つのポジションを獲得しようと思うと持続的な美学やフィロソフィーが必要になってくる。

▼ハードだけあってもダメだし、ソフトがあってもそれを発表できるようなハード、場所がなければ仕方がない。そのどちらもそれなりの水準で維持しようと思うと想像以上のコストがかかる。人もお金も思った以上にかけないことには、文化の拠点を担うような大事業には乗り出せないのだなと思ってぷるぷるしてしまう。他人事ではなくて、本当に大変なことだと思う。

▼「走りながら考える」といった時に、どれくらい長く遠くまで走り続けるのかということも真剣に考えなければならないのだなと、8年経って鎌田先生の言葉を思い出してみてしみじみ思う。勢いだけでもだめだし、かといって慎重になりすぎてはなかなか成果が上げられない。志を絶やさずに、楽観的に、元気に走り続けられること。小劇場に限らず舞台芸術なんてこのまま放っておいたらどんどん尻すぼみになって先細りしていってしまうという危機感は年々強くなっている。自分の場所で、自分にできることは、と、深く自問自答する。

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