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純愛ラプソディ(仮) 三

「いいわけない……。いいわけないじゃない!」目を真っ赤にして彩花は言った。「常務のお嬢さんは同期入社なの。たった二人の総合職。部署は違っても、いつも助けあってた。私がコンプライアンス室に配属になったと言ったら、社長になったみたいに喜んでくれた。『これから会社を変えるのはあなたたちなのよ』って。自分もできることは何でもするって、言ってくれた。それなのに……」彩花がくちびるを噛む。その音が聞こえるようだった。「それなのに彼女、もう働けなくなって……あんなに優秀で人望もあって、将来は事業部長かって言われてたのに……」まさか……ふと浮かんだ考えに、我ながら恐怖を感じた。

まさか、誰かに陥れられた……? 口にするべきか迷っていたら、彩花が言った。「はる香が考えてることはわかる。私も考えた」「え……」「でも証拠は何もない。調査すらできない」「そんなーー何か問題があるなら調査できるはずでしょう? コンプライアンス室なんだから」「コンプライアンス室だからよ」彩花は力なく笑って、それが私には自虐的に見えた。「コンプライアンス室なんてお飾りなの。形だけ整えましたと言うためのもの。課長も私も、今回のことで思い知った」「あきらめるわけ?」「あきらめはしない。あきらめないで出世して、必ず会社を変えてみせる」

彩花の目は力強い光に満ちていた。出世して、会社を変える……。「もちろん、友梨香のためにもね。あ、友梨香っていうのはー」「知ってる。常務のお嬢さんでしょ」彩花は笑ってうなずき、行こうか、と歩き出した。私は彩花の背中を見ながら、少し遅れてついていく。

やっぱり彩花には言えない。課長の旦那様と不倫してたなんて。課長は、相手が私だと知っているのかな。妻に知られた、と彼は言ってたけど……。でも正直、どうでもよくなっていた。コンプライアンス室有名無実問題のほうが重要だ。彩花は出世して会社を変えると言った。契約社員の私には、いったい何ができるのだろう。


(『純愛ラプソディ(仮)』四へ)

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