在日ロシア大使館の日経新聞非難コメント

5月5日にフェイスブックに公開された在日ロシア大使館の日経新聞社説非難のコメントが、とても長いロシア語からの直訳調の大作で、加えてウクライナ関連プロパガンダの総決算的な内容となっています。しかもこれが公式のコメントで、日本語版があることから、ロシアの対ウクライナ偽情報を紹介するのに使えそうだなと思ったので、以下に主なものを取り上げてコメントします。

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■「米国率いるNATOはソ連およびロシア首脳部との約束に背き、確固たる目標の下に東方への拡大に一方的に着手、その軍事インフラをロシアとの国境ぎりぎりまで近づけた」
※ロシアは、この件につき確認しようのない「口約束」を根拠に主張を続けている。そもそも本当に「口約束」があったかどうかは当事者しか確認ができないし、合意の文書化にこだわるロシアの主張としては、特に「らしくない」内容となっている。なお、NATO加盟については、各国が主権的に選択できるという原則がある。またウクライナとジョージアは、2008年のNATOブカレスト首脳会談の決定により将来の加盟が認められている。

「2014年2月、ウクライナで憲法違反の軍事クーデターが勃発」
※抗議者と治安機関の間で衝突は生じたし、大統領の罷免は政治的決定だったが(そこが革命と呼ばれる所以の一つ)、順序としてはまず大統領が逃亡し、その後に当時の与党議員と野党議員が協力して国会の決定でもって政権交代を実現しているため、軍事クーデターという表現は不適切。

「ネオナチズムと反ロシアを公然と標榜する勢力が政権につき」
※民族主義勢力はいたが、さすがにネオナチズムは標榜していないし、新政権にもそのような政策はなかった。マイダン革命中も後も、社会にネオナチズム的な事件・現象は起こっていない。なお、その後の総選挙では民族主義勢力はほとんど/全く議席を獲得できていない。さらにはユダヤ系の首相や大統領も誕生した。

「米国、NATO、EUはこれを支持した」
※マイダン革命後のウクライナの新政権を支持したのは、日本も。在日ロシア大使館こそ知っておいた方が良い。

「このクーデターにより生じた大規模な内戦では、現在に至るまで多数の人的犠牲が生じている」
※正しくは、ロシアのクリミア武力占領(露軍投入の事実はプーチンのお墨付き)、東部での武器ばら撒き、傭兵・エージェント投入による工作・占拠・戦闘、ロシア領からウクライナ領に向けた越境砲撃による国境コントロール奪取、2014年8月には露正規軍も投入、占領軍の組織、コントロールを奪った国境を通じた人員・兵器・燃料の継続的供給、等によりウクライナ・ロシア間では実質的な戦争状態となっており、現在までに多数の人的犠牲が生じている。G7外相は、2021年3月の声明で「ロシアはウクライナ東部における紛争の当事者であり、仲介者ではない」と断言している。

「こうした状況下、クリミアは歴史的祖国であるロシアとの再統合の途を選択し、」
※まず順序がおかしい。2014年2月にロシアが武力でクリミアの議会を占拠したことがことの始まり。他国軍の占拠下に置かれた議会の「決定」は全て無効。

「またドンバス地方に住む約50万人のロシア国民の安全が脅かされる状況が生じている」
※今回特筆すべき新しいプロパガンダ。ロシアはドンバス在住ウクライナ国民に50万強のロシア国籍を付与したことを公表しているが、このメッセージでは、自らが生み出した「約50万のロシア国民」の「安全が脅かされる」と主張している。不安を掻き立てる内容。

その他、アレクセイ・ナワリヌイ関連の文も西側諸国が到底受け入られないような内容となっています。他にも色々おかしなところはありますが、今回はウクライナ関連のみの紹介に留めます。このような偽情報・プロパガンダを根拠に日経新聞を非難していますが、これのターゲット層は一体誰で、どういう効果を期待して書かれたものなのだろう、と深い疑問の沸く内容です。

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