見出し画像

「via」について

先日、「via」という作品をリリースした。
全12曲59分のまあまあ長いアルバムなので、良かったら時間がある時に聴いてください。


今日はその「via」について書いてみようと思う。
このアルバムは、古くは約15年前からあった素材を元に、配信等でリリースしていた曲も歌を録り直したりしながら、毎月20時間近くの残業をしながら基本は一人作業でミックスやマスタリングまでを行った。一部の楽曲ではThe Gospel Renegadeさんにもミックスをお願いした。

タイトルについて


「via」は「〜経由」「〜から」という意味の英語だが、語源はラテン語で、「道」を意味している。また、イタリア語では「街」という意味なんだそうだ。
タイトルを考えている時に、比較的短いタイトルで、響きが良いものを考えていたが、このタイトルは意味的にもバッチリハマると思った。
歌詞をよく読んでいただくと伝わるかと思うのだが、個々の曲を振り返った時に、道や街、車での移動、通り、パレード、光がどこかからやってくる…など、「via」を連想させるものがとても多く、その意味でもこのタイトルしか考えられなくなった。おかげでエゴサはしにくくなったが。

各曲について


1.sun beams


2022年7月に配信シングルとしてリリース。
この年の5月にAkira The Hustlerさんやジャンジさん、フォスターさんやイザベルさん、YAGIさんと原宿のultrasupernewというところでやったイベントがあった。
その時の雰囲気が良くて、何かこの延長線上で曲が作りたい、というテンションのまま御殿場に帰り作曲した。自分としては珍しくオープンGのチューニングで。曲は気に入っていたのだが、何か物足りないとなった時に多重コーラスでやってみようとなった。多重コーラスはあんまりやったことなかったがこれ以来ハマってしまった。あと、キーがべらぼうに高くなるので注意が必要な曲である。

2.pale flame


Loraine Jamesの「Building Something Beautiful for Me」にハマってよく聴いていた時期に作った曲。Octatrackを買ったのでどうしても使いたくて頑張った。元々は全編日本語詞にしようとしていたが、曲調とメロディーを思いついた後に「これ、英語だ」と思い、思いっきりほぼ英語詞にした。
「pale flame」という言葉のイメージが浮かんで、パートナーが寝静まった後、独りで曲を作っているのを「毎晩青白い炎を燃やしている」というフレーズに発展させた。更にまだ誰も聴いていない曲を作る行為は、カミングアウトの過程に似ているかもな、と思い、詞のイメージを膨らませていった。

3.blinding lights


wdsoundsからリリースさせていただいた同曲を、録り直し更にアレンジ、ミックスなど手を加えた。このアルバムの中で唯一、ちゃんとしたレコーディングスタジオで録音された音が収録されている。新しいミックスではThe Gospel Renegadeさんのオルガンがやばいのでそれがよく聞こえるようにした。

4.free bird


元々、「幻の湖」というコンピ用に作った曲。最初は完全に独りで作っていて、今よりももっとアンニュイな?気怠い感じ曲だったのだが、結局完成せず。たまたまライブでこの曲を演奏しているのを観たThe Gospel Renegadeさんから、一緒に作らないかと声をかけていただき、なんとか完成に漕ぎ着けた。

今回の作品に収録するにあたって、BPMを少し速くして、歌も録り直し、ミックスも変えた。前に作った古い曲を新しく録り直すのは、モードが変わっている状態だと大変で苦労した。二度と歌いたくないとすら思った。

よく考えたらコード進行やメロディーのフレーズは17年前くらいからある。どんだけ寝かせたんだという。
歌詞は、コロナ禍のステイホーム期間に書いた。外出が厳しい頃だったからこそ、それとは無関係に聞こえるような、自由なものを作りたいと思っていたが、今聴くと歌詞もサウンドもリラックスしているようでがんじがらめな感じがある。

5.night bird


free birdで一緒に作業したThe Gospel Renegadeさんから、「あの曲は続きがあるんやろ?」的な話をされて、その続きを作ってくださった、という一曲。
最初にアイディアを送っていただいてから大分時間が経過してしまっており(すみません…)、ただ、「続きの曲を作る」というアイディアは絶対にやりたいと思っていたので、断続的に作業して、配信日前日に完成した。
送っていただいたトラックに、自分が歌詞をつけて歌をのせて送り返す、という作業だったが、最終的に返ってきた曲では自分の歌はリズムが変わっていて、予想外の進化を遂げた曲に興奮した。

6.daily sighs


2020年の12月頃から今のパートナーと千葉県の船橋市で同棲生活を始めて、その頃にできた曲。2022年3月に関東を離れ、静岡県の御殿場に引っ越す時に配信リリースした。

よくあるカップルの喧嘩からできたような曲だけど、歌詞はフィクションで、実際には「皿の投げ合い(この歌詞は今聴くと恥ずかしくて変えたいと思っていたけど、あったことはあったままにしておいた方がいいと最終的に判断した)」はしていない。

船橋で、海の近くで暮らしていたことで、カモメの鳴き声を入れたり、揺蕩うみたいなアレンジを心掛けた。いつもライブでサックスを吹いてくださっている千葉麻人さんにフルートを演奏してもらった。小岩のリハスタで録音したのが懐かしい。今回のアルバムには曲と街の思い出が深い曲が多い。

一転、後半はその揺蕩うようなムードをぶち壊すイメージで作った。自分が11、2年前にやっていた反原発デモの声も入れた。そして、その時のことをよく知ってくれている古くからの友人のシンガー・SoRAにコーラスをお願いした。久しぶりにDMで声をかけて、参加してくれたのは本当に嬉しかった。

7.お金で寝る身体


僕が音楽活動を始めたのは、Akira The HustlerさんがOTA FINE ARTSでやっていた展示の最終日に、アフターパーティーで演奏させてくれたからだ。
その時に野間さんに「FOLKS NOT DEAD」というイベントに出ないか、と声をかけられた。フォーク・ミュージックがテーマにあるイベントに出るというので、自分の中でのフォーク的な部分がきちんとある曲を作ろうと思って完成したのが「お金で寝る身体」だ。
元々は昔よく聴いていたトム・ウェイツの娼婦の曲のようなものをイメージしていた。
セックスワーカーとして自分が働いていた時の経験をそこに反映させた。歌詞に出てくる「40過ぎのフリーター」は、実際にそういうお客さんがいたのだ。
今、あの人はどこで何をしているんだろう。

8.午前2時のシンデレラ


2021年の春ごろに作り始めた曲。自分としては珍しく鍵盤から作った。
コロナ禍の真っ只中で、クラブで夜遊びすることが難しいような時期に夜遊びの素晴らしさみたいなものを曲にしたくて作った。
この曲も、「ラグジュアリークルーズ」とか、揉み消したいような歌詞でもあるんだけど、まあこういう曲調だし、再録にあたってそのままにした。
再録時にオーディオの設定が間違っていて、一回録り直したOKテイクを更に取り直したりせねばならず、比較的心が折れそうになった一曲。
元々配信していたバージョンではアウトロに歌詞はつけていなかったのだが、東京でのかけがえのない日々から遠く離れた今、このアウトロに合う言葉が見つかったので、新たに録音し収録した。

9.monologue(feat.REINO)


大半の曲を録音し終え、ミックスもほぼ終盤かなという時期に、インスタグラムでポロッとアルバムについて投稿したら、反応をくれたのが名古屋在住のラッパーREINOさん。
REINOさんのことは前から知っていて、アルバム制作中にリリースされていた「The Point Nemo」というアルバムにもすごく刺激を受けた。
セクシャリティを公表しているアーティストとして、どういう表現をすべきなのかということを考えた時に、日本でそういう表現をしている人のことがとても気になっていて、そこで生まれた出会いだった。
そのREINOさんから「ラップしますよ」と声をかけていただき、これはチャンスだ、と思い、すぐにどの曲で参加してもらうかを考え始めた。
今回のアルバムの中で最も自分自身のセクシャリティについて言及していると自分が思っている曲に参加してもらいたいと思った。それが「gerry」だ。
元々、「gerry」が先にできていて、「gerry」のイントロを長くしてそこでラップしてもらおうと思っていたが、如何せんイントロにはビートがない。
そこで、引き伸ばしたイントロに、急遽新たにビートをつけて、そこにREINOさんのラップをのせてもらうことにした。
火事場の馬鹿力的なものなのか、大急ぎで作ったビートが思いのほかいい感じに仕上がって、送られてきたREINOさんのラップもハマっていて、これはもしかしたら別の一曲として完成させて、次の「gerry」に繋いだ方がいいのでは?となった。
イメージとしてはgerryの独白のような内容になったので「monologue」というタイトルになった。

10.gerry

2022年の11月にコロナになってぶっ倒れていた時に、Pat Metheny Groupの「Offramp」というアルバムを聴いていたら、どこか知らない荒野を独り車でドライブしているような映像が浮かんできて、それがその時の自分の心理状態を表しているような気がした。この画だけで曲が作りたいと思い、コロナが治ってから制作を開始した。
独りのドライブのイメージに、以前友人のゆい君が教えてくれたガス・ヴァン・サントの「gerry」の設定を重ね合わせたらどうなるだろう、と歌詞については今までにない書き方をした。100%映画と同じ内容ではないが、映画を観て受け取ったものを反映させようと思った。
ビートについてはほぼノーアイディアだったが、この曲のでも「pale flame」と同様、octatrackを活用することにした。高速になっていく感じを「ドドドド」というキックで表現した。
余談だが、僕のようにいい年齢になってから免許を取り車を運転するようになると、たまに運転中に不思議な気持ちに襲われることがある。なぜ自分はこんな鉄の塊を乗りこなしているのだろう?というか、乗りこなしているのか?自分でハンドルを切ってコントロールしているようで、実はただ自分ではどうにもできない速度で運ばれているだけなのではないか?と感じることもある。それはもしかしたら人生も同じようなものなんじゃないかと思う。

11.after the parade


これも「free bird」と同様、最古の曲の類。もしかしたら2008年くらいには既にあったんじゃないだろうか?完成にこれだけ時間がかかってしまうとは思っていなかった。

元々は両親と姉夫婦とその姪っ子たちとユニバーサルスタジオジャパンに行った時に夜のパレードを見た帰り、車で眠る姪っ子たちや窓の外の景色を眺めながら自然とメロデイを思いついた曲で、自分はゲイで子供が残せないので、姪っ子たちや自分より下の世代の人たちに、何ができるのだろう、という気持ちがあって、そこから歌詞を作り上げた。割とサラッと詞ができた気がするんだけど、なんせ十数年前の曲なので、特に記憶はない。

そこから、どういうアレンジで作ったらいいのかや、どうやって歌ったらいいのかをずっと考えていたが、なかなかうまくいかなかった。途中震災があったり、デモがあったりして、なかなか音楽に集中できない時もあって、ただ時間だけが過ぎていった。歌の録音に関しては本当に苦労した。何度録音したかも分からない。
自分にとって大切な曲だから、納得できる歌が録れるまで終わらせたくなかった。昨年御殿場のスタジオで歌ってみたらすごくスムーズに録音できて、今まで終わらないと思っていた曲がこれで終わるのかもしれないと思った。終わることもあるんだな、と思った。

12.月曜日の朝、君のいない街


最後のピースになる曲にはしっかり力を入れて曲作りをしたいと思っていた。既に配信でリリースしていた曲を最後に持ってくるアイディアもあったが、歌詞が今の自分にフィットせず、別の新しい曲を用意したいと思った。
アルバムの構成的に、前半には割と「一人の自分」のような曲が多く、そこから徐々に登場人物が増えていって、最終的には他者や社会に対して開かれたところで終わるようにしたかった。

あと、もう一つ考えていたのは、あまりごちゃごちゃと音を詰め込みすぎたくなかった。一筆書きのような感じで終わるイメージが頭の中にあったので、普段やりがちな、ストリングスバーン!、みたいなアレンジは避けたかった。
他者や社会、ということを考えた時に頭にあったのは東京で暮らしていた頃よく一緒に遊んだ友人のことだ。

彼は年齢は一緒で学年は一個上。12年前くらいからTwitterで繋がっていて、僕が反原発デモをやることになった時に一緒に動いてくれた人だ。彼に誘われて、下高井戸のトラスムンドにも行ったし、池袋bedにも行った。東京の楽しい日々の思い出には必ずと言っていいほど彼の存在があった。
二人で作りかけていた曲があった。仮タイトルは「月曜の朝」だった。けれど、その曲は結局完成しなかった。
僕たちは同じ時期にお互いに引っ越しをして東京を離れた。

アルバムは御殿場での自分のことを歌って始まるので、最後は東京での友人のことを歌った歌で終わりたかった。

作詞の最初の段階では友人のことを歌っていただけだったが、もっといろんな面から東京のことを歌おうと思った。僕たちがやっていたデモの集合地だった宮下公園をぶっ潰して作られたビルのことや、僕が小学生時代を過ごした幡ヶ谷のバス停で起きた事件のことが頭から離れず、そのことも友人に向けてと同じように曲にしたいと思った。
それらの詞が「眠り」で繋がったのは単に偶然だが、作詞を終えた段階で、この「眠り」の感覚をそのまま曲に反映させたいと思った。

歌の録音は、一番最初にデモで録音したものだったが、荒削りな思いが詰まっていて、音程も所々外れ声も震えているその時の歌が妙に曲にハマってしまい、そのまま収録することにした。

結果として、自分が作った曲の中で、一番忘れられないものになった。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?