宵えびす

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大阪では、えべっさんが終わるまで正月気分が抜けない。市内にえびす神社は何社かあるが、やはりメインは今宮戎神社だと思う。9日が宵えびす、10日が本えびす、11日は残り福、と言われる。

夕方4時ごろからチンチン電車でえびす町に向かった。例年に比べて人出が少なく感じるのは、不景気だからなのか、宵えびす的にはまだ時間が早いからなのか。9日の宵えびすは一晩中お参りの人が絶えない。
さっさとお参りを済ませて駅に戻る。だいぶ日が長くなった。5時過ぎたがまだ明るい。コーヒーが飲みたくなり駅横に隣接する古びた喫茶店に入る。1月なのに暖かく、喉が渇いたので、アイスコーヒーを注文した。この店はいつからやってるのか、わたしが物心ついた頃からあったように思う。
喫茶店を出ると日が暮れていた。
帰りのチンチン電車でICOCAを使いたいが残高がわからない。駅の自販機にICOCA対応のものがあったのでカードをあてたら残高表示されるのでは?と思ってやってみたが反応なし。しゃあないな、と思ってると、後ろから声をかけられた。
「それ、買いたいボタン押してからやらないと」
カメラを首からかけた高校生の男の子が立っていた。
「あ、そうなんやね、当てたらICOCAの残高わからへんかな?と思って。残高あったら使いたいねん」
「乗る時に電車入り口のリーダーに当てたら金額出ますよ」
「うん、そやねんけど、足らんかったら降りる時めんどくさいし」
「あー、取り消ししてもらって現金払わなあきませんもんね」
学生さんはわたしのやりたいことを理解したようだった。
わたしは一旦ホームの方に歩きかけたが振り返って聞いた。
「写真撮るの?」
「そうなんです。この駅でえべっさんの日の写真撮れるの今年が最後なんですよ、駅が移転するでしょ? 」
「あ、そうなんや」
「それで、撮っとかな、と思って」
わたしは、うんうんと頷き「頑張って」と言ってホームに向かった。
電車が近づいてきてその辺りにたむろしていた人々もぞろぞろ歩き出した。
「あの兄ちゃん若いのによう知ってるなぁ」と、前のおじさんが連れのおばさんにいうのが聞こえた。
電車が入ってきて、わたしも記念にとスマホで写真を撮った。
子供の頃、親に手を引かれて来た頃からずっとえべっさんはこの駅で乗り降りしてきた。もう半世紀以上になる。その駅も無くなるのか。あの喫茶店はどうなるのだろう。
電車の入り口に向かいながら、さっきのおじさんがカメラを構えている高校生に
「先生、おおきに! 」と手を上げた。
わたしもその後ろに続き、電車の入り口で振り返り、彼にバイバイと手を降った。
ドアが締まり、チンチン、とベルが鳴り、電車が走り出した。




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