『マチネの終わりに』第七章(4)
「それで、何の香水なんだって彼女を振り返って、ふと前を向いたらさ、目の前をおじさんが一人、歩いてるんだよ。――その人だったんだよ! 匂いの元は。」
息を呑んで話に引き込まれていた一同は、ほとんど困惑したように失笑して顔を見合わせた。
「何の変哲もない、ものすごくリアリティのあるおじさんだったな、中肉中背の。髪は黒々としてるんだけど、てっぺんだけ禿げてて。改めて意識して嗅いでみると、やっぱり、その人なんだよ。妙にいい匂いで、見た目とのギャップが激しくて。何なのかな?」