『マチネの終わりに』第六章(72)
長崎に彼女に会いに行くことも一度ならず考えた。実家の場所まではわからなかったが、宿泊予定のリゾートホテルで待っていれば、会うことも可能かもしれない。そこからメールでもう一度連絡を取れば。――しかし蒔野は、そこまでのことはしたくないというより、洋子に対して、そこまでのことを自分にさせてほしくないという、複雑な思いを抱いていた。妙な考えだったが、自分が惨めになるだけでなく、彼女の人品をも幾分貶めてしまうような苦痛を感じた。
それでも彼は、散々思い迷った挙げ句、洋子が東京に戻