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平野啓一郎|小説『マチネの終わりに』後編

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平野啓一郎のロングセラー恋愛小説『マチネの終わりに』全編公開!たった三度出会った人が、誰よりも深く愛した人だった―― 天才ギタリスト・蒔野聡史、国際ジャーナリスト・小峰洋子。四十…
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2015年10月の記事一覧

『マチネの終わりに』第七章(10)

 ただもう、自然に忘れるに任せて、洋子のことは考えないようにしていた。彼女の急な心変わり…

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『マチネの終わりに』第七章(11)

 ザハ・ハディッドが月をイメージしてデザインしたという流線型のシルバーのソファに腰を下ろ…

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『マチネの終わりに』第七章(12)

 今年の二月にNYダウ平均が七〇六二・九三ドルで底を打ってからというもの、株価は鰻登りに…

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『マチネの終わりに』第七章(13)

 学生時代にニューヨークで過ごした時には意識しなかったが、年齢が年齢で、また付き合う層の…

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『マチネの終わりに』第七章(14)

 アメリカ人だからだろうか? しかし、洋子は今、一歳になったばかりの男の子――ケンという…

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『マチネの終わりに』第七章(15)

 今日は、口を開けばそうなるに決まっているから、とにかく黙っているつもりだった。それが、…

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『マチネの終わりに』第七章(16)

 「この世界のリスクは、ますます複雑になって不可視化されてゆく。すごいスピードで。――それはそう。専門的な知識を持っている人と、そうじゃない人とは、酷く非対称な関係になってる。あなたたちが金融に詳しいのは、自分の人生の時間をそのために費やして、その知識を寡占しているからであって、あなたはじゃあ、あなたが一般の人に期待する金融工学についての知識と同程度の知識を、遺伝子組み換え食品や地球温暖化、中東の政治情勢について十分に持っているのかしら? 仮にあなたがそんなスーパーウーマンだ

『マチネの終わりに』第七章(17)

 あなただけは、純粋無垢な美しい人間だって、どうして信じられるのかしら? 誰も文句のつけ…

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『マチネの終わりに』第七章(18)

 「なかなか、一般には理解されにくいことだけど、彼女たちと話せば、君も見方が変わるよ。最…

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『マチネの終わりに』第七章(19)

 あの時、何が起きたのか?――洋子はまず、リチャードではなく、クレアに抱きしめられた。そ…

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『マチネの終わりに』第七章(20)

 あれも、自分にバグダッドを思い出させる悪い記憶の一つだったのかもしれないとさえ考えた。…

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『マチネの終わりに』第七章(21)

【あらすじ】蒔野と洋子が偽メールの事実を知らぬまま決別して二年が過ぎた。蒔野はマネージャ…

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『マチネの終わりに』第七章(22)

 名医だと人気の産婦人科通いの効果もあって、ケンの妊娠は思いの外早かった。それが、どれほ…

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『マチネの終わりに』第七章(23)

 「どうしてそんなこと訊くの? 考えたこともない、そんなこと。」 「君は以前のように笑わなくなったから。」 「そう? この顔見て。笑ってるって言わない、これ? 妊娠も大変なのよ。あなたもおなかに三キロの重りをつけて一日過ごしてみたら、なんだ、これのせいかって思うから。」 「君はやっぱり、あの日本人のギタリストと結婚すべきだったって、後悔してるんじゃない?」 「だから、どうしてそんなこと蒸し返すの? あなた自身が後悔してるから?」 「違う。」 「ただの“マリッジ・ブ