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音楽室

久しぶりに学校を訪れたが、以前と何も変わっていなかった。中庭の木も同じように生えていたし、池の鯉も生きていた。階段の踊り場の鏡は、なにかを貼って剥がしたような跡がまだ残っていて、銅像の少年は相変わらず俯いたまま生徒ホールに立っていた。

三階建ての校舎は、白かった壁が少し汚れたように思う。外廊下は濁った緑色で懐かしい。夏になるとツバメが巣を作ったし、雨が強ければ降り込んだ。あの3階が1年の時の教室で、あっちが2年で…。でもいちばん思い出のある場所は、2階の端の音楽室だった。

音楽室の窓が開いていて、先生がいるのが見えた。
ピンと張ったカッターシャツに、ネクタイをきちんと締めた姿が昔と変わらない。いつも身なりに気を配っていて、生徒の制服の着こなしにも厳しかったが、なぜか自分の机の上はぐじゃぐじゃで、楽譜とCDと書類でいつも山ができていた。

音楽室の内線が鳴ったので、先生は受話器を取った。
声をかけようか迷っているうちに、わたしはタイミングを逃してしまった。立ち上がり向こうを向いて話す先生の頭には白いものが増え、背中も少し小さくなった気がしたが、机の上は相変わらず汚かった。

先生は受話器を置くと、突然ものすごい力で壁を蹴った。
そこから堰を切ったように、先生は両腕を振り回し、周りのものを張り倒した。重みで棚板が曲がったラックがバシャーンと音を立てて倒れ、雪崩のようにCDが床を滑った。積み上げていた書類をそこらじゅうに撒き散らした。窓辺に立ててあった緑色の封筒を窓から投げ捨てた。ノートパソコンやスピーカーを持ち上げて床に叩きつけた。先生の耳までかかる髪がバサバサ揺れた。

チャイムが鳴った。
先生は叫んだ。

なんと叫んだか聞こえなかった。




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