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中老と僕がジミーという小説と出会ってしまった話

今、noteで通知が来た。

なんかエイミーさんが僕のことを書いてる!と驚く。エイミーさんについてはそのうち書こうと思ってた。まさか昨日初めてZoomで会ったばかりなのにこんな早くに不意打ちで来るとは(笑)。よし、ならば僕も寝る前に書いてしまえ。

ある日、「ジミー」という小説の原稿が中老の男(71)から送られてきた。中老は大変興奮しており、「これは出版社なんかから出しちゃもったいない!」と訳のわからないことを言っていた。中老よ、お前の判断力は大丈夫か?良い小説は良い出版社から出すものではないのか?

「俺はこのジミーは出版社に渡さないぞ!」と鼻息を荒げている。「うむ、まさかこんなに計画を前倒ししなければならなくなるとは…困ったな…だが仕方ない、平野、準備はいいか?」と重々しく悩ましい声で聞いてくる。

いや、重々しく準備はいいかじゃねーし!

なんの準備だよ?何で深刻なんだよ?

と聞くと「ではわれわれの計画を話す。俺たちは出版業界に迎合しない、新しい出版をジミーで目指す!さぁ、これは大変なことになってきたぞぉ〜」と手を揉み始めた。

…待てや。何興奮してんねん。

僕はややこの中老のノリについていけないモヤモヤを引きずりながら、奴の計画を聞く。

つまり、参加型出版だ。商品として小説が利用されるのではなく、著者と読者の関係を丁寧につくっていく新しい出版。何のことやらわからないけど、もう随分と奴には振り回されてきたから、僕も大体の勘所は掴めるようになってる。えーと、要はあれだな、今までにないやり方で、あらゆる工夫をしてみんなで広めていって、何かのムーブメントにしていきたいってことね。それくらい良い作品が奴のもとに送られてきた、と。本当っぽいけど読んでみないと分かんない。なので読んでみた。

いきなり引き込まれた。

そこには疎外された女子高生と、ちょっと冴えないジミーがいた。すごいリアリティ、主人公とともに息苦しくなり、ホッとしたり、強がったり、寂しさを紛らわしたくなって強がるその子がいた。

僕はしばらく呆然としていた。

これは大変な才能と出会ってしまったと思った。

その小説は明らかに新しかった。これまで疎外を扱った作品は多くあったけど、1990年代以降、僕らは孤独の中でお互いの孤独を抱えながら、ただ手を繋ぐことしか出来なかった。例えば、岡崎京子の名作「リバーズエッジ」がそれである。

ところがジミーは何かが違った。

それが僕の胸を打った。自分の身にこんなことが起こるんだ、と驚いた。

キラキラと輝く才能がそこにあった。

息苦しくリアルで救いのある作品がここにある。

それはまだ世の中に出ていなくて、僕らに託されている。そんなことが起こるのか?

そして昨晩、中老と共に作者のエイミーと会った。

ミーティングが始まってから20分、僕はずっと黙って中老の構想やら確認やらを聞いていた。ひとしきり話終えて満足したらしく、「平野、お前、なんかあるか?」と聞いてきた。僕は正直に答えた。

橘川さん、これはとんでもなく素晴らしい作品です。手を入れるところは僕が見る限りありません。問題は、この作品を僕らが良い形で読者に届けることができるかどうか。橘川さん…これは…予想を遥かに超えて、責任重大です。

中老は大事なときには事もなげに反応する癖がある。この時もそうだった。

「そうだよ?だからお前も頑張れよ」と、何でもないことのように言った。

そうだよね、そう言うのは分かってた。僕がここまで乗り気になるかは試されていたんだと思うけど、中老よ、僕がこれを読んで乗らないわけはないだろう。自分の本気さに戸惑うくらいだよ。

まったくなんてことだ。

まさか…こんな素晴らしい作品を預かることになろうとは。僕の心の中で大きな位置をジミーが占めた。頭の中で算段する。あのプロジェクトとこれをこうやって繋いで…そしてあの人に連絡をして、やがてこうなるように今から準備をしないと。など。

打ち合わせが終わり、僕はまだ現実感がなかった。

この作品が多くの人に読まれて、何らかのムーブメントに繋がっていったあとの余韻のような気持ちになった。

…始まったのだ。突然、何かに招かれたように、一点の曇りもなく。

そしたらエイミーがこれを書いた。

おそらく中老も今頃、真面目な顔をしてパソコンに向かったり、夜空を眺めたりしながら、これからどうすれば良いか考えをめぐらせているに違いない。

「ジミー」という、まだ数人しか読んでいない、書きたての小説と出会った。

#ジミー

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