見出し画像

天丼とメロン【エッセイ】

 私とパートナーは最近引っ越しをしたいと思っていて、物件を探していた。なかなか条件に合う物件が見つからなかったのだが、ようやく昨日は候補物件の内見に行った。間取りは良かった。公園のそばだったので、虫対策ができるかどうかで悩んでいる。不動産会社の人がめちゃくちゃクロージングしてくる。ちょっとめんどくさいと思ってしまった。昨日はとりあえず前向きに検討するということで保留にした。

 内見をすると、どうも気持ちが高揚する。帰りにアイスコーヒーを飲みながらドライブをした。車を少し走らせたところにあるちょっとした観光地に行って、散策をする。昨日は土曜日だったのに、割とお店が閉まっていた。閑散としている印象。夕方だったので、時間帯も関係していたのかもしれない。日本人よりも海外の人がちらほらと観光していた。人混みは苦手なので、そういう意味ではストレスなく非日常を味わえて良かった。

 その後、お腹が減ったので近所にある天丼屋さんに行った。年配の女性が一人で切り盛りしている。何度か通っているうちに、顔を覚えてくれたみたい。いつもたくさん話しかけてくれる。以前、閉店間近の夜に行った時は客が私とパートナーしかいなかった。 一人でいると眠くなっちゃうから、閉店時間までおしゃべりしてててねと言われた。閉店時間まであと20分ぐらいあった。飲食店の人からそんなことを言われたのは初めてだったので、え?何?もう食べ終わってんだけど、あと20分もいるの迷惑じゃないの?と、びっくりした記憶がある。
 おばあちゃん家に久しぶりに来た、孫みたいな気持ちになる。お店に入るとお茶を飲め飲めとすすめてくる。でもセルフ。天丼が来るとあれこれ薬味の入った箱を持ってきて、あれこれ天丼にかけたらいいんじゃないかとすすめてくる。でも、その後は放置。とにかく、近すぎず遠すぎずの絶妙な距離感で、すごくかまってくれる。初めはびっくりしたけど、嫌な気分にもならないのが不思議。接客のすごい技だなぁと思う。天丼の味が美味しいこともあって、何度も足を運ぶようになった。 

 昨日は私たちの他にも、男性2人のお客さんがいた。おばあちゃんとこの男性2人の会話が、聞こえてきた。おばあちゃんは何やらこの2人にお世話になったらしい。お店のメニューにはないメロンを出していた。まぁ、そんなこともあるだろうと思ったし 、別に気にもならなかった。そしたらその後、おばあちゃんが私たちの席にもメロンを持ってやってきたのだ。おすそ分け。おばあちゃんは「こんなラッキーなことがまたあるといいね」と言って笑っていた。本当にびっくりした。
 天丼を食べた後の、冷たくてジューシーなメロン。とても美味しかった。やっぱり、おばあちゃん家に遊びに来た孫みたいな感じなんだよなぁ。食べ終わった食器を自分たちでカウンターまで運び、たくさんお礼を言って帰った。

 最近は飲食店に行くと、タブレットでメニューの注文をして、ロボッから運ばれてきたお料理を受け取ったりする時代だ。私はお酒を飲まないし、行きつけの居酒屋があるわけでもない。お店の人とこんな風に交流を持てるなんて、私にとっては珍しい体験だ。天丼を食べに行くのか、おばあちゃんに会いに行くのか。多分、どっちもだ。私は人とのコミュニケーションが得意な方ではないと思う。おばあちゃんから、幸せを感じるためのコミュニケーション術も学ばせてもらっているように思う。
 公園のそばの物件に決めるのか、他の物件をもう少し探すのか。今日はそのことでパートナーと話し合わないといけない。いずれにしても引っ越しは近所で考えているから、おばあちゃんのお店にはまた食べに行けるな、なんて考えている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?