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巻貝

砂浜で
貝を拾った

白い白い巻貝
まるで骨のように白くて乾いている

巻貝をそっと拾い上げて
耳にあててみる
ボーボーボー

籠ったような風が吹いた時のような音がする
ボーボーボー
そのうちに巻貝に私の体温が乗り移り
骨のような白い貝が
私の一部のように思えてくる

ボーボーボー
籠った低い音は血管を流れる血の音かもしれない
私の耳の細い血管の中をひっそりと流れる血

骨のように白い巻貝に
私の血と体温が乗り移って
今やほんのり薄桃色にすら見える

ボーボーボー、おーおーおーい

巻貝の巻かれた先端の奥深くから
籠った音に混じって
呼ばれているような気がする

ボーボーボー、おーおーおーい

おーおーおーい、お前
私もかつて生きていたのだ
生きていたのだ
お前のように
今は白く脆く乾ききってはいるけれど
そして
お前もいつか、こうなる

そして崩壊の時が来て
お前の足元に無限に広がる砂粒になるのだ
これから私がそうなるように

砂浜の砂は果てしなく
永遠に海の向こうからやってくる
そして意味もなく
この砂浜に打ち上げられて
白い屍を積み上げる

お前も、私も、みんなそう
ボーボーボー
ボーボーボー

私は巻貝をそっと耳から離し
白い砂浜に少しだけ穴を掘り
埋めた。

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