【日記11】品川駅〜日常について 島根の旅1
10.12 THU
9:07 品川駅発 新大阪行 のぞみ213号
3列シートの通路側に腰を降ろして出発。
11:15 京都駅着
特急きのさきへの乗り換え時間、10分。
海外から観光で来たのだろうか、1組の家族が、僕と一緒に発車ベルの鳴る電車へ滑り込んだ。
11:25 京都駅発 城崎温泉行 特急きのさき5号
13:38 豊岡駅着
京都から地図を真上に2時間、ぐいぐいと進んでたどり着いた豊岡駅。その小さな改札で友達が出迎えてくれた。
これから彼の車で松江を目指すことになっていた。
島根に行くことを決めたのは7月初めだった。
Twitterで「『湖とファルセット』を読む会」が島根県の松江で開催されることを知り、反射的に申し込んだのが始まりだった。
田村穂隆さんの『湖とファルセット』は大好きな歌集で、noteにも感想を書いたことがある。
申し込んだあとになって、あれ、意外と島根って遠いな、などと思った。
でも、待てよ、松江に行くなら、出雲大社にも行けるのではないか。
そう思い立ち、旅程は1泊から2泊へと伸び、いや、もう少し余裕を持って、などと考えていたら3泊になり、結果的に木曜と金曜の平日に有休を取ることにした。
島根行きを決めた夏の初め頃、僕の心は、窮屈な思いをしていた。
自転車屋のスタッフからデスクワークの部署に異動して2年が経ち、慣れてきてしまって、仕事がつまらなかった。
短歌の活動を通して知り合った人や、親切にしてくれている書店の店主さんたちと話すと、自分のことがひどくつまらないやつに思えてならなかった。
もしかしたら、近いうちに辞めるだろうな、とも思っていた。
辞めることを考えていたのでも、辞めたいと思っていたのでもなく、「辞めるだろうな」だ。
今にも途切れそうな気持ちの中で、3ヶ月後に島根行きが決まったものだから、これは辞めるわけにはいかないぞと思った。
正直なところ、行ったあとは知らん、と思っていた。
でも行くまでは、今の仕事を続けなければ。
修行だ、と思った。
島根へ行くために、今にも切れてしまいそうな気持ちをなんとか繋いで日々を乗り切ろうと決めた。
「島根へ行く。松江で短歌の人たちと会い、出雲大社にお参りに行く」
そう、周りに言いまくった。
やっぱ行けませんでした、なんてことにならないように。
仕事の合間に出雲のことを調べたり、隣の席の人に旅のことを話して、それまでは頑張ると宣言したり、よく行く飲み屋で励ましてもらったり、豊岡で待ってくれていた友達は、「島根へ行く日にちょうど豊岡にいる。もし来られるようだったら、豊岡から松江まで車で送る」と申し出てくれたりして、周りの人にもずいぶん気持ちを繋ぐのを手伝ってもらった。
豊岡から走り出すと、松江に着くまでに、友達はいろんな絶景を見せてくれた。小高い山から見下ろす湾や、本当に映画のワンシーンかと思うようなロケーションにあるコーヒーやベーグルを売る店、鳥取砂丘、まだ冬の来ていない日本海は濃いブルーで、穏やかではなく、風と競うように海岸線を食んでいた。
梨のお店に寄って、試食の梨を食べた。
汽水空港さんにも寄ることができたが、あいにく定休日で閉まっていた。
日が沈みかけた夕方に、目の前の東郷池や空の色が変わっていくのを眺めた。
開館時間の過ぎた青山剛昌ふるさと館の周囲にあるコナンの像や米花商店街も見た。
松江には20時過ぎ頃についた。
家を出てから12時間くらい経っていた。
僕がとったホテルのそばで見つけた、赤い提灯のお店に友達と入った。
女将さんが俳句をやっている人だった。
人は、ちゃんと縁というものがあって、必要な人にはやっぱりきちんと出会うものだな、なんて思った。
ドライブ中、湾を見下ろす小高い山の眺望台で、軽トラに乗ったおじいちゃんと居合わせた。
身の上話をしてくれていたが、最初のうちは方言もあってあまり聞き取れなかった。
ずっと「かみさん、かみさん」と言っていて、イントネーションが「神様」だったから、奥さんのことを言っているのだとは思わず、彼の神様の話をしてくれているのだと思った。
昔は良く、今は違う、そういうことを話してくれた。
昔は蟹でもイカでもたくさん獲れたけど、今はダメだと。勉強してサラリーマンになった方がいいんだと。
東京にいると、サラリーマンなんて、なんにも考えなくても仕事の選択肢の一番上に来る。漁師や農家は、思いつく順位が低い。
自分にとっての日常は、きっと誰かにとっては信じられないものなんだろう。
毎朝渋谷駅を通って会社に行く。それが僕の日常ではあるけれど、そうじゃない人の方がきっと多いのだ。
僕の日常には、海はないし、砂丘もないし、車もない。日常にそれらがあることを、たまに羨ましいと思ったりする。
でも、いったい、何があれば幸せだろうか。
自分の日常に、何があれば。
どんな日常なら、自分のことをつまらないやつなんて思わずに済むだろうか。
そんなことを思いながら、22時過ぎ、これからまた同じ道を辿って2時間ほどの運転をしなければならない友達を見送った。
1日目のアルバム
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