ひらまる

ひらまる

最近の記事

  • 固定された記事

幻生生物

プロローグ  ここ数世紀の動物研究における最も大きなパラダイムシフトは、幻生生物発見のニュースによって引き起こされた。この未知なる生物の発見は、極めて主観的かつ予察不可能なものとして、進化論をはじめとする従来の生物学の根幹を大きく揺るがすものとなり、現在においてもその事情はまったく変わっていない。  ウルノー・ユーリオは次のように記述している。 「これらの生物は、確固たる物理的実在性を欠き、それでいてかつ只ならない直感的実在としての才覚を持つ。それはまるで人間の存在を前提と

    • レトルト三角関係

      アンドロイドの流通が一般的となった時代。 高性能の人型機械は娯楽にも用いられるようになった。 最も代表的な商品のひとつは「レトルトアンドロイド」である。 袋入りの小さな数体のアンドロイドは、封を切り外気に触れると10分程の演劇を披露するのだ。 今日、男の元に届けられたのは、そのシリーズのひとつ「レトルト三角関係」である。 男は早速袋を開け、3体の小型アンドロイドを机の上に並べた。 しかし、繰り広げられるのは何の面白みもない無味乾燥な会話。 彼らの表情もどこかぎこ

      • 会員制の粉雪

        都内某所にひっそりと佇む薄暗いバー。 いくつかの酒を注文した後、客の男はマスターに恐る恐る声をかけた。 「あの、[粉雪]をひとつ」 その瞬間、マスターの顔色が変わる。 「お客様、当店の[粉雪]は、会員制となっております。会員証はお持ちですか」  男は、銀色のカードを差し出す。  マスターはそれを検めると、奥の部屋へと男を通した。 「こちらへ」 その部屋には、先客が2人、そして店員と思しき男が1人いた。 「お客様、こちらが[粉雪]でございます」 男は、その[

        • 白骨化スマホ

          暇潰しに祖父の本棚で見つけた死神召喚の儀式を試すと、簡単に死神が呼び出せた。 「わ! 本当に出た」 「呼ばれちゃったかー」 「え?」 「本来は契約の話に移るんですが、今はそれどころじゃなくて」 「はあ」 「困ったな。あ、これ契約のかわりに差し上げます」 死神はスマホのようなものを差し出した。 「なにこれ」 「それは『白骨化スマホ」って言って、撮影すると、死期の近い人間は白骨化して写るんです。自分は写せませんが。」 「面白そう、貰っていいの」 「はい、連絡

        • 固定された記事

        幻生生物

          10文字ホラー「笑み」

          No. 1 No.2 No.3 No.4 No.5  No.6 No.7 No.8 No.9 No.10

          10文字ホラー「笑み」

          忍者ラブレター

          目の前をクナイがかすめる。 またか。 ここ数日間、俺は1人の忍につけ狙われている。 ただ、敵というわけではない。 同僚の「くノ一」に求愛され続けているのだ。 このクナイにも当然恋文が括り付けられている。 内容は毎度同じく 「貴方の強さに惚れた。結婚してくれ」 といったものである。 もちろん、色恋にうつつを抜かしている暇はない。 今はとにかく、自分の腕を磨き、任務を成功に導くのみだ。 ただ、気になる点が一つ。 この女の業務成績が素晴らしいのだ。 忍術の腕前に関しても、男ども

          忍者ラブレター

          秋の空時計

          2XXX年10月30日 AM 8時。 日本上空に突如として巨大な時計が現れた。 即座に政府からの緊急通達が全国に届く。 「今年も『秋の空時計』が出現しました。従って、本日は秋休暇となります」 数十年前、初めて『秋の空時計』が出現してから、 "秋" は、突然にやってくる「12時間」を指す言葉となった。 空時計が現れたと同時に、気温は一気に10度近く下がり、木々は一斉に紅葉し、キノコが育ち、果物は実をつける。 食欲の秋、芸術の秋、読書の秋。 人々はそれぞれの "秋"

          秋の空時計

          なるべく動物園

          このごろ話題の動物園。 この動物園には一風変わったところがある。 「通路を歩くときはなるべくこの板の上を歩いてください」 「動物を見るときはなるべくここの窓から覗いてください」 「このゾーンに入る前にはなるべくここに手を当てて消毒をしてください」 というふうに、園内の巡り方や展示の見方に細かい指示がなされているのだ。 餌やりや掃除は全て機械化されているようだから、微細な注意書きは、人件費を抑えるための工夫なのだろう。 少し変わっているとはいえ、世界各地から集めら

          なるべく動物園

          邂逅

          あのう、すみません。 はい。あっ。 そうですよね。やっぱりそうですよね。 そうみたいですね。 こんなことってあるんですね。 あるんですね。 写真、撮りますか。 いや、やめておきましょう。 そうですよね。 あの、どちらから来られましたか。 こっちからです。 そうですよね、私もです。 あっちに行きますよね。 そうですね。 とりあえず一緒に行きますか。 そうしましょうか。 ここのパン屋さん。ベーコンエピがおいしいんですよね。 そうですね。私も好きで

          井戸の呪い

          集落のはずれにある古井戸。 この井戸には、夜な夜な子供たちを引き込み攫う悪霊が棲むという。 1人の武者が悪霊退治に名乗りを上げた。 彼は剣の達人であり、有名な霊能者でもある。 武者は寺の住職に筆を渡し、彼の全身に般若心経を書くように伝えた。 住職は、先人の反省を活かし、耳にまでびっしりと写経した。 そして武者は、腰に命綱を括り付け、村人たちに見守られながら、ゆっくりと井戸の中へと下っていった。 武者の姿が見えなくなった次の瞬間、耳を突き刺すような叫び声が響いてき

          井戸の呪い

          カフェ4分33秒

          「当店の名前は、ジョン・ケージの作曲した『4分33秒』が由来となっております」 初老のマスターが丁寧に答える。 「聴いたことのない曲です」 中年のサラリーマンがコーヒーを啜りながら首を傾げる。 「それもそのはず、この曲は演奏されない曲なのですから」 「演奏されない?」 「楽器による音ではなく、人の息づかいや衣ずれの音も含めた空間全体を音楽として愉しむのです。お客様には、コーヒーの味だけではなく、空気に溶ける湯気、食器の奏でる音まで味わって頂きたいのです」 「なる

          カフェ4分33秒

          イライラする挨拶代わり

          細切れの朝日がさしこんでくる。 あいつはいつもの様に私に近づいてくる。 「&%☆〜」 相変わらず、何を言っているのかさっぱりわからない。 寝ぼけているとはいえ、毎朝これだと流石に参る。 あいつにとってはこれが挨拶みたいなものなんだろうが、イライラする挨拶代わりだ。 仕方なく、奴の宇宙人ごっこに付き合ってやる。 「&%☆〜 &%☆〜」 精一杯の皮肉を込めて、その宇宙語を2回も繰り返し真似する。 あいつは、私に微笑を向ける。 「&%☆◎ △÷$」 もう乗っ

          イライラする挨拶代わり

          鳥獣戯画ノリ

          「このクラブでのノリ方を教えてやるよ」 上京して1か月。 初めてのクラブで浮き足立っていた俺を見かねてか、1人の男が声をかけてきた。 少しでも早く都会に溶け込みたい俺は、その男に教えを乞うことにした。 「このクラブではまず、足を開いたまましゃがんで、床に手をつく。これが蛙のポーズ。その後は両手を耳みたいに頭に当ててジャンプする。これが兎のポーズ。この2つをリズムに合わせて繰り返す。あ、跳ぶとき、ピョーンって叫ぶのも忘れずにな」 なかなか奇妙なノリだがこういうものなのだ

          鳥獣戯画ノリ

          が、いたい。

          昨日の晩、お風呂あがりに息子が急に泣き始めて。 「いたいいたい」って言うんです。 そうです、5歳の。 それで「どこがいたいの?」って聞くと、こう、肩っていうか肩甲骨のあたりを指さすんですけど。 はい、両方です。 私がさわって「ここ?ここ?」って聞いても「ちがうちがういたいいたい」ってくり返すだけで全然泣き止まないんです。 もう困っちゃって。 病院に行こうにもわたし免許持ってないし。 夫は出張で。 それで、おまじないをしたんです。 わたしの母から教わった儀式というか。 そう

          が、いたい。

          やればできる

          最初は小2のときかな。 鉛筆をさ、こう電動の鉛筆削り機にいれてがががががってやってたわけ。 で、削り終わってから気づいたんだけど、プラグがささってないの。 そう、削り機の。 途中で抜けちゃったとかじゃなくてさ。 おかしいなあと思ってもう一回別の鉛筆入れてみたんだけど、今度は全く動かなくて。 それからずっと、そういうことが2、3年に1回起こるんだよ。 でさ、この前出張で、会社の車使って横浜まで行こうとしてたの。 で、高速乗ってすぐに気づいたんだけどさ。 キーが違うの。 違う車

          やればできる