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カフェ4分33秒


「当店の名前は、ジョン・ケージの作曲した『4分33秒』が由来となっております」

初老のマスターが丁寧に答える。

「聴いたことのない曲です」

中年のサラリーマンがコーヒーを啜りながら首を傾げる。

「それもそのはず、この曲は演奏されない曲なのですから」

「演奏されない?」

「楽器による音ではなく、人の息づかいや衣ずれの音も含めた空間全体を音楽として愉しむのです。お客様には、コーヒーの味だけではなく、空気に溶ける湯気、食器の奏でる音まで味わって頂きたいのです」

「なるほど、それなら一度に1人しか客をとらないのも合点がいく。しかし、商売が成り立つのですか」

「意外とやっていけますよ。こんな山奥なら誰にも見つかりませんしね」

「どういうことです?」

「まあ、そんなことよりお客様、どうでしたか、最期のひとときは」

最期? という言葉が漏れ出す前に、サラリーマンの体は椅子から崩れ落ちた。


マスター特製の猛毒。

全身に回るまでの時間は、実に4分33秒。


                 (410字)
         お題 「カフェ4分33秒」 


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