会員制の粉雪
都内某所にひっそりと佇む薄暗いバー。
いくつかの酒を注文した後、客の男はマスターに恐る恐る声をかけた。
「あの、[粉雪]をひとつ」
その瞬間、マスターの顔色が変わる。
「お客様、当店の[粉雪]は、会員制となっております。会員証はお持ちですか」
男は、銀色のカードを差し出す。
マスターはそれを検めると、奥の部屋へと男を通した。
「こちらへ」
その部屋には、先客が2人、そして店員と思しき男が1人いた。
「お客様、こちらが[粉雪]でございます」
男は、その[粉雪]を見るやいなや叫んだ。
「動くな、俺は警察だ」
店員の男が目を見開き、すぐさまその場から逃げ出そうとする。
「待て!!」
男は店員に飛びかかり、暴れる店員を取り押さえると、怯えた様子の先客にも声をかける。
「お前らもそこでじっとしてろ」
男は手錠を取り出し、淡々と時刻を読み上げた。
「0時15分、現行犯逮捕する」
先刻、店員が思わず放り投げた[粉雪]が、暖房の効いたVIPルームに舞っていた。
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お題「会員制の粉雪」
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