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おーきくなったら!!

「わくわく1年生」という、この世に生まれて6・7年しか経っていないちいさな人間が、「大きくなったら、〇〇になりたいです!!」とデカい声で言い切らなくてはいけない、非常に難しいイベントがあることをご存知だろうか。

男子はサッカー選手と野球選手が圧倒的に人気で、漫画家も多かった気がする、あとは警察。宇宙飛行士とかもいたと思う。女子はお花屋さんとパティシエ、保育園の先生になりたい人がたくさんいて、習い事をしている子たちはピアニストやバレリーナを選択した。

たくさんのお友達が幼稚園ではお姫様になりたいと言っていたくせに、わくわく1年生で「大きくなったらお姫様になりたいです!」は一度も聞かなかった。

お菓子屋さんではなくてパティシエというところがポイントで、おそらくだれかが、「お菓子を作る人はパティシエっていうんだよ!!」とだれかに教えて、それが伝播した。お菓子屋さんではなくパティシエ、「夢はパティシエです。」、パティシエってなんかかっこいいな!!!と、パティシエと言いたいだけでパティシエを自分の夢に選択したわくわく1年生もいたと思う。

これは余談なのだけど、緊張しすぎて、前の子の夢をそのまま言ってしまう子が何人かいた。言ってしまった後に「あ...」みたいな顔をしていたけど、やり直すことはできない。小学校1年生が夢を語る時間は5秒と決まっているのだ。夢は、5秒で収まらないと、夢として認めてはもらえない。

わたしには夢がなかった。少なくとも5秒で言える夢はなかった。「大きくなったら」というのがいまいちわからなかったし、毎日やりたいことなんてなかった。ちいさい頃の「おーきくなったら」は、大体十代の終わりから二十代前半のことで、その間に叶えられる固有名詞のある”夢”なんて、数に限りがある。そのなかにわたしがなりたいと思うものはいひとつもなかった。

そんなわたしは、わくわく1年生で発表する夢に「ピアニスト」を選択した。週に一回ピアノを習いに行っていたし、発表会で着る衣装が可愛かったから。
ちなみにピアノは大嫌いでした。

約4年前、地元の成人式に参加したら、会場の一角で「わくわく1年生」が垂れ流されていた。20歳のわたし達のなかには、わくわく1年生で言った夢を叶えた人、追いかけ続けている人、最近諦める決断をした人、わたしみたいに何を言ったのかさえ覚えていない人、いろんな人がいたと思う。そんなこととはつゆ知らず、画面の中のわくわく1年生たちは、「大きくなったら」何になるのかを宣言していく。わたしと友達は「わ〜なんかちょっとグロいね〜」なんて言いながら、わくわく1年生の上演を遠巻きに眺めた。

結局わたしは24歳になる今まで、一度として、いわゆる”将来の夢”を持つことはなかった。そのことでコンプレックスを抱いたこともある。小学校からの友人が女優になるという夢叶えて舞台に出たり高校の友達がサッカー選手になったという話を聞いて、わたしも”おーきくなったら”を持っていたら、今頃何者かになっていたのではないかと思うこともあった。

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「わくわく一年生」にどのような意義があったのかはいまだに謎だ。今考えてみると、「”おーきくなったら”を胸に歩みなさい」「未来に対して自分を投げかけなさい」というようなことだったのかもしれないなと思う。

だとしたら、、、、

わたしは小さい頃からやりたいことや行きたい場所がたくさんあった。あれもこれもやってみたい、あれもこれもみてみたい。そして新しいやりたいことや行ってみたい場所を見つけたとき、わたしはいつも「おーきくなったら必ず!!!」と思う。そのおーきくなったらは「身長が伸びたら」だったり「わたしの能力が達したら」だったり、「お金が貯まったら」だったり、「コロナが収まったら」だったりするけれど。

だとしたら、わたしがそれなりに”おーきくなったら”を持って生きてきたように思う。ただ、わたしの”おーきくなったら”は、5秒なんかじゃおさまらないのだ。私の”おーきくなったら”は、十代の終わりから二十代の前半に叶え終わるような、固有名詞のついた何かではない。ただそれだけ。

わたしはけっこう強欲で。たくさんの”おーきくなったら”があって、しかもそれは次から次へと溢れ出す。24歳になってもまだ”おーきくなったら”あれがしたいこれがしたいと思っている。わたしの”おーきくなったら”はまだまだ続く。”おーきくなったら”、また次の”おーきくなったら”ができる。それが、わたしの”おーきくなったら”なのだ。

それでは聞いてください。

わたし、(今年の春から社会人)ハラハラ1年生、おーきくなったら!!!

迷わず本を買いたいです。でかい犬と一緒に平家かリビングの大きいマンションで暮らしたいです。少し良いコーヒーメーカーで入れたコーヒーで1日を始めたいです。毎日自分の好きな服を着たいです。フランスに10年くらい住んで、晩年はボストンに住みたいです。1日に2時間以上本を読む時間がある生活をしたいです。一年に2回くらいドレスを着てパーティに出席したいです。トムホと肩を組んで撮った写真をインスタにアップしたいです。ネイルは1ヶ月に一回変えたいです。あと、雨の日にNYでトレンチコートを着ていたら、隣を通ったタクシーが水溜りに入ってその水がコートに掛かってしまったらタクシーに向かって「Fuck you!!!」と叫ぶくらい強くなりたいです。フランス語が話せるようになって、サルトルの話を原語で聴きたいです。今好きな音楽を一生忘れないでいたいです。誰かを幸せな気持ちにできる人になりたいです。わたしが笑ったら喜んでくれる人がいたら良いなと思います。

今日の一曲:Vampire Weekend『Harmony Hall』





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