見出し画像

【受賞作発表】ひらづみ短編小説コンテスト お題「カレー」

【優秀作】カレーの匂い(蔵)

「そのときカレーの匂いがしたのね」
 店の床で寝転んでいる僕の耳元で、彼女がそう呟いた。

#######

 私も悪かったんだと思うの。いつもだったら、あんなに人通りがない道を歩いたりはしない。でもその友達、というか、もう少しで付き合い始めようとしていた男友達の部屋は駅から随分と遠くて、初めて部屋に行ったから、私も全然土地勘が無かった。だからどこらへんを歩けばいいのかも、全然わからなかった。

「もう夜だし、送るよ」

 男友達はそう言ったけど、いいの一人で帰る、と私は部屋を出た。すこし腹を立てていた。だって彼がどうにも意気地なしだったから。

 暗い道は少し怖かったけど、それよりも彼の鈍感さへの苛立ちのほうが強かった。

 そのとき、急に口を布で覆われた。ああいうとき、本当に悲鳴が出る。でもその小さな悲鳴は布で遮られて、なんの役にも立たない。それに布になにか薬品が含まれていたのだろうか、私は脱力して、後ろの男に身体を預けるしかなかった。私は路地裏に連れていかれた。手にはいつの間にか手錠をかけられていて、手錠のもう一方は古びた交通標識の鉄の棒に結ばれた。

 そのとき、カレーの匂いがしたのね。嗅いだこともない、独特なカレーの匂いだった。給食のカレーのように懐かしいような、それでいて、全く正反対の、もっとエスニックな強みを感じさせるような。その男は覆面をしていて、表情はわからなかった。

 それからわかるでしょ。無茶苦茶に触られたの。奮発した高いブラは剥ぎ取られた。お揃いのパンツも下ろされたけど、カレーの匂いがするそいつは、挿入まではしてこなかった。ただ私のお尻に擦り付けてきて、射精した。男は行為の後も私の胸をもてあそんでいたけど、やがて手錠のカギを開けて、去っていった。

 私はしばらく震えていて、なにもできなかった。まだカレーの匂いがした。どれくらい経っただろうか、私は色々と諦めて、標識を見上げた。さび付いた標識には、赤いインクでこう描かれていた。「←」。その頃、車の免許とったばかりだったから、その標識の意味を覚えていた。「←」って「ここまで」っていう意味なのね。そのときの私の気持ち、わかる?

 それから私はカレーが食べられなくなった。匂いを嗅ぐだけで、吐き気が襲う。私はカレーがわりと好物だったの。でもこのことは誰にも言えなかった。だって犯されたわけでもなかったし、なんとなく自分も悪かったような気がして。それから街のカレー屋の前を通るとき、私は戦慄するようになった。絶望感、って奴がやってくるの。

 それから10年くらい経った。会社からのいつもの帰り道に、新しいカレー屋ができていた。いやだな、と思ったけど、昔よりは症状はマシになっていたから、私は息を止めて急ぎ足でその店の前を通った。品の良い感じの佇まいだったからかな、油断して息をしてしまったのね。

 そして雷に打たれたようになった。あのときのカレーの匂いとまったく同じ匂いが、私の鼻腔をついた。私はあのときと同じように、なんにもできなくなり、立ちすくんだ。もう本能みたいに、私は匂いのする店のほうを見た。

 あなたがいたわ。私を見て、にっこり微笑んで、出てきた。店と同じように、品の良い微笑みだった。

「明日からオープンすることになりました。よろしくお願いします」

 そのときの私は女優みたいだったな、と今でも思う。だって店に入り、あなたの第一の客となり、あなたと他愛のない会話をして、カレーを食べたのよ?一口も吐き出すことなく。

 それから私とあなたは恋人になった。私たちは愛し合い(愛し合い?)、私たちは夢を語り合った(語り合った?)。あの独特なスパイスの香り。懐かしいような、刺激的なような、両極端な匂い。10年経ってもあなたはその匂いを発していた。そんな匂いを発する男は、きっとあなた一人しかいない。

 私はね、心療内科に長く通い続けたの。でも復讐心だけは忘れずにいて、少しずつ薬をとっておいたの。その大量の薬を溶かしたワインを、あなたは今、飲んだのよ。とっても眠くなったでしょう?

 大丈夫、安心して。あなたが深く眠った後、私は丁寧にあなたの陰茎を切り取るわ。そしてあなた特製のスパイスで味付けられたカレー鍋に、そいつをぼとんと投げ入れる。10時間くらい煮て、あなたが出血死した頃、私は特別なカレーを食べることにするわ。そうしたら、私もようやく救われるでしょうから。

#######

 僕は目を覚ました。まだ朦朧とはしている。が、死んではいない。僕は彼女の姿を探した。彼女はどこにもいなかった。

 今すぐ、彼女を追いかけなくてはいけない。そして彼女に謝らなければいけない。なにも気づいていなかったことを。そしてちゃんと伝えなくてはいけない。僕はそいつじゃない。なんでそいつが僕の作ったカレーと同じ臭いなのかはわからないけど、僕はそんなことはしない。

 彼女はきっとどこかで泣いている。僕はなんとか立ち上がり、店を出た。キッチンから焦げ始めたカレーの匂いがしたけれど、そんなことはもうどうでもよかった。


【佳作】カレー戦争(チバ ハヤト)

「よし……ちょうど一人分余ってたからな。皿によそって、レンジでチンと」

 眠い目をこすりながら電子レンジにカレー皿を入れた。低い機械音が響く電子レンジを眺めながら、僕は期待に胸を膨らませた。

「作った次の日のカレーってなんか旨いんだよな。理由はよく分からないけど」

 レンジの中ではカレーがふつふつと音を立て、一晩置いて熟成したスパイスの香りを漂わせている。早起きした甲斐があった。時間はまだ朝の五時半。家族は誰も起きていない。今ならこのカレーを独り占めして食べられる。目玉焼きを載せようか、ソースをかけてちょっと味変しようか。想像を巡らせているうちに、温めを終了する『チーン』という音が鳴った。

 レンジから熱々のカレーを取り出してテーブルに置いた。スプーンを手にすると、思わず顔がほころんだ。さあ、食べよう――と、思った瞬間、ダイニングのドアが開き、家族の声が聞こえた。

「あ、おはようタク」

「おお、タク、起きてたのか」

「タク、早いね、何かあったの?」

「タクちゃん、今日は珍しく早いね」

 僕以外の家族四人が起きてしまった。これはまずい……四人の目が一斉にテーブルの上のカレーに注がれる。姉が口火を切った。

「カレー温めてくれたの? ありがとう。私テスト近いからカレー食べて頑張らなきゃ」

 母が続いた。

「あれ? 母の日が近いから私に食べる権利があるんじゃないの?」

 父も口を開いた。

「このカレーの材料は俺が働いた金で買っている。従って、俺が食べるべきだ」

 祖母は涙を啜りながら声を絞り出した。

「残り少ない人生、カレーを食べられるのもあと何回か…どうか私に食べさせておくれ」

 僕も負けずに繰り出した。

「ぼ、僕はカレーが大好きだから……多分家族の誰よりもカレーが好きで……」

 しまった。僕が一番説得力に欠けている。

 僕たち五人はカレーを囲んでにらみ合った。このカレーを食べるのは一体誰だ。外は爽やかな初夏の朝を迎え、朝日が差し込んできた。それとは対称的に、僕の家ではカレーを巡る欲望むき出しの大戦争が始まった。

 しばし膠着状態が続いた。お互いがお互いの腹の内を探りあい、機先を制しようとタイミングを伺っていた。

 僕はカレーを見つめた。カレーに罪は無い。スパイスの心地よい香りを漂わせ、誰かに食べられるのを今か今かと待っている。頭の中はカレーでいっぱいだ。カレーカレーカレー。あ……カレーと言えば、忘れていたことを思い出せそうな気がする。何だっけ……他の家族四人も何やら考えているようだ。

「あっ」

 全員が何かに気付いたような声を出した。

「そういえば、僕の今日の給食、カレーだったんだ。別に今食べなくてもいいや」

「私も今日学食でカレー半額デーだったんだ。別に今食べなくてもいいや」

「俺、昼のランチで部下にインドカレー屋に誘われてたんだ」

「私もママ友にナンが美味しいカレー屋さん行こうって言われてて」

「そういえば、今日はシルバーセンターでカレーと豚汁ごちそうになる日だったな」

 五人全員、昨日の夜から三食連続のカレーはきついと判断したのだろう。残り物のカレーに背を向け、服を着替えに、ひげをそりに、もう一度寝に、トイレにとそれぞれダイニングから姿を消した。

 ダイニングに残ったのは僕とカレーだけだった。しばしカレーと僕は見つめ合う。あれ、確か今日は給食にプリンも付くんだっけ? 冷蔵庫に貼っていた給食のメニュー表を確認した。ん? あっ、カレーは来週だ。俺、メニューを一週間も間違えてたんじゃん。

 途端に目の前のカレーが愛おしくなってきた。カレーに一礼し、再びレンジで温め直す。今度こそは……食べてあげるからね。

 その時、ダイニングの扉をガラガラと開ける大きな音がした。

 姉が現れた。

「私、勘違いしてた。カレー半額デーは来月だったわ」
 
 父も来た。

「残念、インドカレー屋閉店したって」

 母が来た。

「友達が体調悪いからランチ会延期だって」

 祖母も来た。

「カレーと豚汁のイベントは先月だったわ」

 再びカレーを五人が取り囲み、にらみ合った。レンジの音がゴングのようにチーンと鳴る。第二次カレー戦争が始まった。


【佳作】カレー町おこし(今井彩人) 

 新型ウイルスの蔓延で京都市全体から観光客がいなくなったある夏の日、「疫病でめっきり落ち込んだ京都市をカレーで町おこしする」。そんな内容の公約を市長候補が発表した。

 その発表に京都市民は度肝を抜かれた。と同時に、多くの京都市民は恐れた。この市長が当選してしまったら大変なことになると。

 京都市民からしてみればグルメで町おこしをするのは本来禁じ手である。

 文化や歴史、そういった積み重ねの重みが一切ない軽薄かつ空っぽの町が観光客を呼ぶために、やむにやまれず、中ば罪を犯す気持ちで行うこと、それが京都市民にとってのグルメ町おこしなのである。

 それを、まさかこの京都で公約にする市長候補が現れるなんて。しかも、それがカレーともなれば、気難しい京都市民には耐えかねた。

 このまま最悪の事態になれば、暴徒と化した京都市民の手で鴨川の河原に市長候補である田中勝べえの首が見せ物とされることも十分に考えられた。

 さて、このカレーというのが問題なのである。普段、京都の人間は京都のことをこれっぽっちも知らない観光客たちに京都「らしさ」を演出して提供することで娯楽を提供している。京都の街や人、文化に対するブランドイメージを上手く醸成してきた京都人の涙ぐましい努力によって、人々が高いお金を出してでも観光に来るこの街が出来上がったのだ。それはつまり、観光客が京都らしいと思って食べているものが、普段住民が口に入れているものと大きく異なることを意味する。

 そう、京都の人たちは観光客には京都「らしさ」が溢れる上品な味の日本食を出しておき、自分たちはこっそり味の濃い町中華や肉汁が溢れんばかりの焼き肉、背脂がたっぷりとスープに溶け出したラーメンなどを食べているのだ。もしカレーで町おこしなどされた日には、今まで大切に守ってきた京都に対するイメージが180度ひっくり返ってしまうと言っても過言ではない。美しい古都の香りは、スパイスの薫香へと変わり、京都へ来る観光客はすべてカレー目当てにかわり、寺院は打ち壊されカレーショップになり、八橋の味はニッキからターメリックへと変わってしまうのだ。

 日頃は仲の悪い京都市民が団結し、選挙運動が開始された。京都はカレーの街ではなくにしんそばと自社仏閣の街であると声高に叫び河原町をデモして歩く。観光客がひっきりなしに来ていて、いまさら町おこしの必要などない、ということを主張するために、ホテルや旅館には客数を水増しして報告するように圧力をかけた。

 もちろん、味の濃い食べ物も文化の一つとして認めていこうという穏健派もいたにはいたのだが、いつの時代も過激な考えはエスカレートしやすいもので、街でカレーを食べる市民たちに対して一部の住民がいちいち注意して回るようになってきた。

 この過激派はやがて徒党を組むようになり、カレー見回り隊として市中を我が物顔で闊歩するようになっていく。街で普通にカレーを食べるという行為がどんどん難しくなっていき、カレーへの自治取り締まり活動は厳しくなり、見回り隊の暴力性の高さから市民たちも表立って反抗はできなくなっていた。

 しかし、そう簡単に味が濃いものをやめられる京都人ばかりではない。中にはしぶといカレーファンもいて、もう看板は出せないが、裏でカレーを出す店は存在した。

 ひそかに人気を集めていたカレー屋であったが、とうとうそこに集まっていた客たちをカレー見回り隊が襲撃するというカレー屋が起こると、事件の凄惨さが市民たちに衝撃を与えた。

「そんなにカレーが食べたいなら、こうしてやる」と、客たちの白いシャツに見回り隊の男がカレーをかけて台無しにしていったのだ。もはや己の腹黒さを真っ白なシャツで隠すことができなくなった京都人たちは、とぼとぼと店を出て行った。そうして、もうこっそりとカレー屋を営むこともできなくなった。

 市内では塩辛い闇カレーが世に蔓延り、地下でしか取引できない上物のカレールーには目玉の飛び出る金額がついた。市民がこの出来事で払った代償は計り知れない。

 しかし、長年作り上げた古都のイメージを守らねばという気持ちに支えられて、街のカレー排斥運動は続けられた。

 しばらくして京都市民は、奈良の人たちが恥ずかしげもなく鹿の沢山いる奈良公園で「鹿肉の饅頭」を売っているのを知り、細かいことがどうでも良くなった。

 市長候補の町おこし案も、カレーにしんそばという新名物を作るという大したことのないものだったので、簀巻きにして島流しにして、皆家に帰って味を濃くしたカレーを食べて寝た。


【佳作】天上のカレー(紅帽子)

 今日、長男の勝(まさる)が天上にやって来る。

 私は朝からカレー作りに専心した。作り方はきわめてシンプルだ。小麦粉を炒めててカレー粉をまぶす。煮干しでとっただし汁を入れてルーのできあがり。具は南瓜だけ。肉はない。しかもご飯にかけるのではなく、小麦粉を溶かして焼いたパンにつけて食べるのだ。

 引き戸がスルスル音も無く開いた。待ちきれず次男の憲夫(のりお)が飛ぶように駆けていく。

「勝(まさる)兄(に)い、久しぶりじゃのう」

「おお、ノリ。変わらんのう、昔と」

 七十八年前の8月5日、勝は海軍の航空隊で転勤を命じられたとかで、ひょっこり家に立ち寄った。珍しいカレー粉を持って。

 カレー粉なの? まあ、なんという貴重な。何作ろうか、でも他には材料が無い。配給の小麦粉とカボチャはあるが。中学2年の憲夫はカレーなんて見たこともないという。

 私は即席でカレーみたいなものを作った。 

「あんときの母ちゃんのカレーはうまかったのう、勝兄ぃ。あれほどうまいものを食うたんは生まれて初めてじゃった。香りが刺激的じゃし、いつも食っとる南瓜と同じなんじゃが、皮も歯ごたえがあって、それが、ええ香りのするカレーととからまって、そりゃあもう天上の食いもんじゃった。忘れられんよ」

「おまえはぎょうさん食ったのう。それで、次の日の朝……」

 次の日の朝。憲夫は珍しいカレーに腹が合わなかったのか、ひどい下痢になった。

「母ちゃん、今日は休みたい。腹が痛いし」

 そう呟く憲夫を私は許さなかった。

 カレーの食べ過ぎで勤労奉仕を休むのは非国民じゃと。そのあと続けて私は言った。

「勝はもう戻らんよ」

「どこ行ったん?」

「早(はよ)うに家を出たよ。勝は黙ったままじゃったけど、ありゃあ、特攻隊に行くのが決まったけえ家に寄ったんじゃろ。もう家には帰らん、死んで戻るところは、靖国じゃ」

 それを聞いて憲夫は、

「そうなんか。腹痛くらいじゃ休めん。わしも少国民じゃ、お国のために頑張るわ」
 
 笑って家を出た。その頃、学徒動員で中学生以上はみんな働いていたのだ。

 私は物干しで今日も暑くなるなあと空を見ていたら、ピカッと光が空全体を覆い、しばらくしてドーンというもの凄い轟音。私はすぐに腰を降ろして掌で目と鼻と耳を押さえる動作をした。爆風で目の玉が飛び出たり、耳の鼓膜が破れたりするのを防ぐためだった。

「ノリ、おまえあの時、どうなったんだ?」

 勝が天上の居間で憲夫にそう聞いている。

「わしはのう、あのピカっのすぐあとドーン言う音聞いて、掌で目と鼻と耳を押さえたよ。じゃが、わしはちょっと動作が遅れてのう、右の目ん玉が飛び出たんじゃろう。ありゃあ、右目が見えんようになった、そう思うた瞬間よ。風ゆうか衝撃波ゆうんか、とにかく、わしも隣におった奴もなんもかんも吹き飛ばされた。そりゃあ、凄かったよ。どっかの石塀にぶつかって止まった。途端に体中の骨が砕けるのがわかった。ひいひい言うとったら、今度は逆方向から衝撃波の吹き戻しがきて、また何十メートルも吹き戻された」

 勝は黙ったまま頷いている。私は台所でカレーを作り続けている。

「隣に転げとる友達は全身真っ黒じゃったり、血だらけじゃったり、虫の息でもまだ生きとった。いったい何事が起こったんじゃろう、ははーん、ここに直撃の爆弾が落ちたんじゃの、それならもう少ししたら救助が来てくれるじゃろう。痛い痛い、言いながら待っとったが、だーれも来てくれんかった」

 憲夫はふふふと笑って、「あたりまえじゃ、わしらだけじゃのうて、十何万人も同じように倒れとるんじゃ、助けられんよのう。原爆じゃったゆうのは死んだ後で知ったよ」

 私は思い出す。七十八年前、特攻隊を解除され、生き延びて家に帰ってきた長男の勝が最初に言った言葉を。

「わしみたいな兵隊が生き残って、なんで中学生のノリが死なねばならんのか」

 私はさらに思い続ける。あの日の朝、『腹が痛いけえ、今日は休みたい』と呟いた憲夫に『何を言うんね、非国民が』と怒ったことを。なんであの日、休ませなかったのか。

 今日、天上にやってきた勝。

 「勝兄いは九十八まで生きたんじゃの。わしの分まで。わしも野球やら英語の勉強やら好きな女と逢い引きやらしたかった。なんもできんかった、十四で死ぬのは早すぎるのう」

 私は勝と憲夫の会話を聞きながらぽろぽろ泣いた。カレーに涙が降りかかる。私は作り続ける。小麦粉とカボチャに苦い涙をまぶした香り高いカレーを。もしも、もしも可能なら、あの日に戻って、歴史を書き換えてくれ、と切に祈りながら。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?