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【読書】共喰い

著者:田中慎弥

セックスと暴力に溺れる父を持つ男子中学生が、自らも父と同じであることに気がつき自らを呪う物語です。

父のことを悪だと思いつつも、恋人との関係において自分の中にも父と似た欲望が存在していることを認識するようになります。その後、生みの母、育ての母など様々な人たちとの関わりながら、恋人を守りたい気持ちと自身の欲望との狭間で苦しく、もがく姿が描かれております。

重たい背景の中、中学生という多感な時期も重なり、段々と自分への恐怖心が強くなる構成になっており、終盤からさらに状況が悪化していきます。最後まで驚くようなことはないものの、予想された最悪の展開にずるずると進んでいくその様は、「やはりそうなってしまうのか」と救いがなく、それが、とても現実的に思えました。また、物語では随所に「水」と関連する描写があるもののどれも濁って澱んだ水を連想するものであり、この点も本作の世界観を一層と暗く、陰鬱なものへと仕立て上げておりました。

本能とも呼べるほどに理性と異なる衝動への恐怖があり、周囲の人たちの思いやりを素直に受け取ることのできない中、まともでありたいと願う悲壮な思春期を見ることのできた一冊です。

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