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映画祭日記(2010年カンヌ映画祭監督週間)
※当時書いた日記をそのまま転載しています。
1日目
今日からカンヌ映画祭に行く。
11時半に成田空港に行くと、撮影の小川さんから電話があり、今日はもうカンヌに着けないとのこと。KLMが2時間遅れていて、乗り継ぎが間に合わない。また火山灰の影響か?と思って電光掲示板を見てみると、遅れているのは自分たちの乗るKLMの1便のみ。
まあどうしようも無いので、なされるがまま2時間遅れで飛行機に乗った。前日、前々日と全然眠れてなかったので、機内食を食べては爆睡。中間に出るカップヌードルを食べては爆睡。着陸直前のを食べては爆睡していたので、あっと言う間に着いてしまった。アバターとかNINEとか映画をやっていたんだけど見れなかった。アバターを3Dはおろか、9インチの機内モニターで見るという事をしたかったのだが出来ず。未だにアバター観てない。
アムステルダムに着き、そこからバスに乗ってKLMから指示されたホテルに行く。たぶん、カンヌで予約しているホテルよりもいいホテルだ。 明日、11時にホテルを出て、アムステルダムからリヨンに入り、そこからカンヌに入る。カンヌ、遠いわ。
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2日目
アムステルダムのホテルに着きようやくネットにつながった。朝起きて、貯まっているメールの返信をひたすらした。Wi-Fiは有料で、50分5ユーロのコースでやっていたが、そんな時間で終わるはずもなく、それが切れたところで1日15ユーロのコースにまた入り直した。
ホテルの朝食はなかなか立派で美味しかった。巨大なスモークサーモンがあったが、あの巨大さは、体長3メートルぐらいあるんじゃないだろうかと思えるぐらい。
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昼にアムステルダムから飛行機でリヨンに向けて出発。リヨンに着いたらすぐにニースに出発。ニースからバスで移動し、18時ぐらいにカンヌに着いた。結局、カンヌまで丸二日かかってしまった。
ホテルに着いたら、2部屋取っているはずが、一部屋は今日の夜の分だけキャンセルされているとのこと。遅れて到着するというメールをちゃんと読んでいなかったらしい。一部屋は小川さん家族が入り、別のホテルを紹介された。すぐそこの三つ星ホテルだと。
瀬野さんとヨネとタクシーで向かうと、山の中にどんどん入っていく。瀬野さんとヨネは渡邊さんの所の大部屋に泊まる算段になっていたが瀬野さんに通訳として来てもらった。山の中に入っていく段階でもう諦めムードになり、ホテルに着いて部屋を見たら、三つ星どころか、出来れば泊まりたくないボロい部屋だった。「ここに泊まったら、明日も半日潰れるなあ。何しにカンヌに来たんだかわからんわ…」とイライラしていたところ、ヨネが「私がここに泊まるので、今日は平林さんは渡邊さんのところに泊まって下さい。」とのこと。 その勇気ある言葉に甘え、大きな貸しを作り「今度、豪勢なメシおごるから。」と、渡邊さんのホテルに向かう。ホテルに着いたらもう21時過ぎ。
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渡邊さん、指揮者の青山さん、奄美民謡の小林さんと萩原さんがテラスで自炊のご飯を食べていた。そこに合流し、少し酒を飲んで寝た。この部屋では、リビングの簡易ベッドで2人が寝て、小さい2段ベッドで2人が寝て、別の部屋のダブルベッドで2人が寝た。
しかしまあ、今回の旅はなかなか事が上手く運ばない。ひとまず、諦めてみようかと思う。監督週間の事務局に顔を出せたら、今回の旅の一番の目的は終了だ。あとはいろんな方から声をかけていただいているので、時間が許す限り会うことにする。
3日目
大部屋からスーツを着て事務局へ。そして、ホテルへのチェックインもあるためデカいスーツケースも持って。しょっているリュックにはパソコン一式が入っている。バスに乗り、総勢10名で監督週間の事務局へ。
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事務局のクリストファー始め、みなさんすごく良くしてくれる。35mmのプリントも無事到着したとの事。監督週間のバッグももらった。
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その後、日本ブースでのパーティがあるので、みんなで行くことになったが、引きずっているスーツケースと背負っているパソコン一式にイラつきも絶頂に達し、ホテルに置きに行くことに。こんな事に誰かを道ずれになんか出来ないから1人でタクシーに乗ってホテルに行こうとしたら、流しのタクシーなんていないのか全くつかまらない。ホテルまで2km。スーツを着てスーツケースを転がし、リュックを背負って、更にもらった監督週間のバッグを持って、歩いていくことにした。
そして、自分でも呆れることに地図なんか持ってないから勘で歩いている。映画祭会場近くは人も多いからスーツケースを転がして歩くのも大変。「もう二度とカンヌなんて来ねえ!」と心に誓い、自暴自棄になりながら歩いていたら、偶然駅に着いた。大量のタクシーがヒマそうに停まっていたので、ホテルまで乗っていった。やはり、人生は諦めから始まるな、と思った。
やっとの事でホテルに着き、チェックインし、先に預けてあったワタナベさんのスーツケースもピックアップ。ワタナベさんとはツインの部屋に一緒に泊まるのだ。シャワーでも浴びて、すぐに日本ブースのパーティの合流しようと思っていたのだが、部屋に入ったらダブルベッドだった。フロントにかけあったが「ツインは無い!」との事。今回の旅、どこまでダメなんだと。ワタナベさんとはツインの部屋に泊まることはあるが、ダブルは初めてだなあ、朝起きたらピッタリ寄り添って寝てたら気まずいよなあ、まあでもどうしようもないようなあ。
と思っていたところ、同じホテルの小川さん家族がツインだったとの事で、チェンジしてくれることになった。またまた、人生は諦めから始まるな、と思った。 そんなことをしているうちに、雨がザーザー降ってきたので、パーティに行く気も失せた。
明日、奄美民謡の小林さんと萩原さんが帰るので、渡邊さんの大部屋に行き、みんなで夕食を食べることにした。小川さんとホテルの近くのバス停に行ったがバスが一向に来ない。異常なほど来ない。結局、45分ぐらい待ってたら来た。
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この辺でやっとわかった。カンヌ映画祭に参加するんだったら、会場から徒歩10分以内で行けるホテルを取らないとどうにもならない。ホテル代や食事代で少なくとも100万円以上かけるつもりで来ないと、面白くないんだな。結局、日本を出て3日終わったのにカンヌ映画祭に来ている気がしない。だって、映画祭会場もまともに歩いてないんだから。次回、もし自分の監督作品で来ることがあれば、100万円以上使ってやる。もちろん自分1人に。
残り3日かよ。
4日目
朝5時頃起きて、こっちでやらなければならない仕事などをこなす。しかし天気がいいので、気分も良くはかどるはかどる。勢いを出して、ワタナベさんと10時にホテルを出て会場近くに向かう。
「いかにもカンヌに来たって店で朝飯食べたいんですけど。」とワタナベさんに言って、人通りの多い店の前にした。早速、2リットルぐらい入っている生ビールと、山盛りのムール貝と、得体の知れない魚のムニエルと、チョコレートのムースを食べた。今日は昨日のかたきを取るかのように、Tシャツに短パン。
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メシのあと、会場近辺のパトロール。4日目にしてやっとカンヌの初日って感じ。まずは停泊しているクルーザーを見に行った。映画会社が借りているクルーザーがあったり、個人のクルーザーがあったり、沖の方にはクルーザーが横付けされたクルーザーの王様みたいなのがあったり。日本人のサクセスストーリーには出てこなそうな風景。
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そして、昨日行けなかったジャパンブースに行ってご挨拶をしてから、マーケットのユニジャパンのブースに行った。ブースの正面に『Shikasha』のポスターが貼ってあった。あの柱だったら、B0サイズでも良かったかもな。村上さんのデザインが強烈なせいか、チラシのはけるスピードが早い早い。『アウトレイジ』の巨大なポスターの前で記念写真を撮った。
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ユニジャパンの名取さんに「何か映画見ました?」と聞かれ、自分のアクレで映画が見れることが判明。早速『アウトレイジ』のチケットを予約してもらったらその場で取れた。夜の回は、正装しないと映画を見ることが出来ないそうで、スーツを持ってきているんだったらあとは蝶ネクタイを着ければいいとのこと。でも、夜は北野監督のレッドカーペットを見たいので、昼の回にした。その足で、チケットのピックアップのコーナーに行ってチケットをゲット。シルバーに光るキレイなチケットだ。
その後、外のジャパンブースに行き、シネマトゥデイの中山さんの取材を受ける。作品作りの今後の展開として、また大きくフロシキを広げたような事を言ってしまったが、言ってしまうと実現するという法則もまたあり、意識的に言うようにしている。
その後、ワタナベさんとヨネと再合流し、カフェでビールを飲んで休憩。
さらに遅れを取り戻すべく、1人マーケットに戻り、いろんな会社のブースをじっくり見に行った。センスのいい作品ばかり扱っている会社や、小さな1本の作品を小さく売っている会社もある。日本の会社もいくつもあったが、正直なところ、あんまり売る気ないんだろうなあって感じ。
そのマーケットの中にある「ショートフィルムコーナー」という短編映画だけのマーケット会場にも行ってみた。ショートフィルムコーナーには2000本ぐらいの映画が選ばれていて、関係者が自由に見ることが出来る。そこにドドッと短編の監督達も集結していた。どこかの映画祭で会ったことのある監督がいないか探したがおらず。壁一面にチラシやポストカードが貼ってあり、本当に世界中で大量の短編映画が作られてるんだなあと実感。彼らと自分との違いをどう出していくかちゃんと考えていかないと、飲み込まれるなあと思った。
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その後、ワタナベさんとヨネと再々合流し、ちょっといいレストランへ。ムール貝を食べ、タルタルステーキを食べ、白ワインを2本空け、ワタナベさんとヨネは、リゾットやムニエルなどを食べた。美味かった。3人で350ユーロぐらい。
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さらに今日はその後の展開もあり、21時から監督週間のパーティ。映画祭が見渡せるホテルの屋上に、音楽の渡邊さんと指揮者兼通訳の青山さんと行った。当初はホテルに戻ってスーツに着替えていこうかと思っていたが、そのままTシャツと短パンで行ったが大丈夫だった。自他共に認めるパーティ嫌いなのだが、青山さんが面白い雰囲気で通訳をしてくれて楽しかった。
カンヌではパーティの招待がものすごく多かったです。夜0時から沖の大きなクルーザーでやるパーティの招待状が来ましたが行きませんでした。港から小型クルーザーが送迎してくれるとの事でしたが。
パーティを出て、レッドカーペットの前を通ったら、ベルリンで同じ短編コンペにいたイスラエル人のシャイに会った。お互い、おお!と驚き、一緒に記念写真を撮った。シャイはベルリンでは銀熊賞をもらっている。シャイは『Shikasha』をすでにどこかで見ていた。今回、シャイがカンヌに来て見た作品の中で一番イイ作品だったと言ってくれた。
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そこから30分ぐらい酔いさましにホテルまで歩いて帰った。
3日間の遅れを1日で取り戻した。これで『アウトレイジ』見て、北野武監督のレッドカーペット見れたらもういいや。あとの公式上映やりとりは『Shikasha』の後半チームに託す!
6日目
朝5時に起き、日本で進んでいる仕事の直しや確認をする。まさかカンヌでAfterEffectsを立ち上げて、動かしの作業をやるとは思わなかったが、まあそんなもんか。音楽の渡邊さんも、毎日ホテルで仕事してるし。
昼からムービープラスの渋谷さんの取材。ムービープラスの「ウオ子」というキャラと記念写真を撮った。割とキレイなぬいぐるみだった。イタリアのブースでやり、カンヌでなかなかお会いできなかった小張アキコさんとも遂にお会いできた。シネフォンダシオンの話など、興味深かった。2人の乳幼児を連れて、家族でパリに半年ぐらい滞在し、カンヌ映画祭の教育プログラムで映画の勉強をする。って、考えただけでハードル高いが、やろうと思えばやれちゃうものなのか。あとは怖じ気づくか付かないかだったりするんだろうな。
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その後、ジャパンブースで報知新聞の加茂さんの取材。取材の方の聞き方やキャラクターによって自分が言うことを変えているのがわかった。加茂さんは若い方で飄々としていたが、なんだか難しい話をしてしまったなあ。映画のフォーマットの話とか。『Shikasha』を作るときに尾野真千子さんに書いた手紙などの話もした。「熱烈なラブコール」という内容ではなく、「一緒に実験に付き合って下さい」みたいな内容だったと思う。
夕方、江口さんと合流。江口さんには『Shikasha』をカンヌに来ている各方面の方に強力にプッシュしてもらう予定。江口さんみたいな活動をしている日本人は、短編をベースにやっているとなかなかいない。だから、短編の実写や短編アニメの作家の人たちは、みんな江口さん頼りなのだ。江口さんに国なりが予算を付けて活動してもらえば、随分と日本の短編が海外に出て行けると思う。役所の人たちは、美味しいところだけ「クールジャパン」とか言わないで欲しいなあ。言い方は悪いけど、江口さんも短編の作家達も、ドロ水飲んでやっている。現場のヒアリングなんてしたこと無いんじゃないかな。
江口さんには、パリに住んでいて、日本映画とヨーロッパの架け橋をしている照太郎さんを紹介してもらった。若い方で、パリで精力的に活動しているらしい。そこで、日本の映画監督が海外に出て行くときに失敗するパターンと成功するパターンの話などをした。とにかく、丁寧に誠実に取材や質問などに対応していくしかないんだなあと思った。やっぱり人と人なんだから、自分を大きく見せるとか、チカラでねじ伏せるとか、相手にしないとか、ふざけ過ぎるとか、その辺を間違えてきた日本の監督もいたんだろうなあ。
夜、渡邊さんの大部屋にみんなで集まり宴会。15人ぐらいいたかな。全員『Shikasha』のスタッフ関係者。「ここは魚民か!」ってぐらい盛り上がっていた。
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明日帰国。カンヌはほぼ3日間しかいなかったが、得るモノはたくさんあった。『Shikasha』の公式上映は21日。後半チームに託す!早く帰らないと、子供が産まれちゃう!
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7日目
偶然にも、ホテルの目の前にニース空港行きのバス停がある。10時10分に乗り空港に着く。とまあ、自宅に着くまで特に変わったこともなく、無事帰国。
妻のお腹はさらに大きくなり、2700gになったとの事。もういつ産まれてもおかしくないが、出来れば予定日に産まれてきてくれ。父ちゃん、仕事で大変なんだ。
一週間ぶりに青に会った。青と遊んでいて「もう、父ちゃん眠いよ。」と言って、その場で寝てしまうと、今までは怒るパターンなのに、今日は「いいよ。休憩しな。1人で遊ぶから。」だって。最強にカッコイイLEGOを買ってきてやったからなのか、青が成長したからなのかわからないが、面白いもんだなあ。
カンヌ映画祭での『Shikasha』の公式上映は明日の14時(日本時間21時)からの回。上映することで何かが動くか、何も動かないか、楽しみだ。公式上映日に監督がいないということで、カンヌに残っている後半チームに少し緊張感があるようだ。自分としては、利子付けてカンヌに帰ってきてやるって感じだ。
「サンダンス・NHK国際映像作家賞」の日本部門の公募が終了するらしい。1~2年のうちに、もう一度これに脚本を出してアート系の長編映画を作るチャンスを虎視眈々と狙っていたのだが残念。これからは国際映画祭のマーケットなどでやっている、国際共同製作などに企画を持ち込む方をもう少し調べてみることにする。日本だけでやってたら「キミみたいな若造は、まずこのケータイ恋愛小説の原作モノからやれ!」って言われちゃうので。
こんなにいろんなチャンスにも恵まれ、いろんな人が応援してくれるのに、なぜ長編の映画監督になろうと思わないか。だって、食って行けないから。この日本の現実って海外の映画関係者は知ってるんだろうか。他の国の事情がすごく気になる。特に韓国やヨーロッパの監督がどうやって食って行けてるかが。
日本は雑草の中から、たまたま良く伸びていい実を付けると収穫してくれる。その実を持って海外の映画祭に行って、賞を獲っただなんだって騒いでいる。他の国は、土を耕して肥料をあげているのに。何がクールジャパンだよ。あ、また言っちゃった。
日本の映画業界って「映画にたずさわれているだけ幸せだと思え!食っていくとか、お金の話とかするな!金じゃなくて魂だろ!」って臭いがすごくするのだ。特に現場の監督始め職人達に対して。それなのに、経済的に自立できないことを現場の職人達のせいにする。「売れりゃー、儲かるんだよ!お前も頑張れ!」って。
極端に言うと「売れたらしっかりとしたギャラ払うよ。でも、売れるまではノーギャラな。」に近い脅迫がある。「オス同士の戦いに勝ったらメス総取りだよ。勝たなかったら一生メス無しな。」って、野生動物の世界と一緒かよ。
まあいいや。そういう世界とは関係なくここまでやってきたから、ここから先も自力で道を作っていく方が楽そうだ。
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