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世の中と握手するって難しい

作曲家の渡邊崇さんが、私と一緒に作った映画のサントラだけを集めた「A collection of film music for Isamu Hirabayashi」というアルバムをリリースしました。かなり、グググッと来る音楽ばかりなので聞いてみて下さい。BGM的に聞くと、作業に集中出来ないかも知れませんので、映画の企画を立てたり、世界観がコンセプトを考えたりする時に聞くといいと思います。Apple Musicで聞けますよ。

渡邊さんは、このアルバムをリリースするに当たって、Twitterでこんな事を書いています。

日本国内では繊細で映画に寄り添う楽曲を書く作家として知られていますが、それは私のある一面で、実はあまり知られていない別の側面があります。そちらは前衛で、ノイズで、インダストリアルだったりします。しかも海外映画祭においてとても高い評価を得ています。それらを集めた作品集がこちらです

私からすると、渡邊さんは世の中に受け入れられている人に見えます。作った作品がしっかりとある割合の観客に届いていて、世の中の大多数から「いいね!」と言われてもおかしくない人に見えます。

でも、渡邊さんの発言の節々から、「自分の全ては受け入れられてないし、本当は受け入れて欲しい部分が、全然受け入れられない。特に日本では。」というニュアンスを感じます。私はあえて、渡邊さんに本当のことを聞かずにこのnoteを書いています。

渡邊さんは「世の中と握手出来ていない。」と思っているんですかね?

私は自他ともに認める、世の中と握手出来ていない作り手です。私が作ってきた短編映画を観てみてください。たぶんこんな事を囁かれているに違いありません。

「どこが面白いの?」「自己満足でしかない」「単純につまんない」「どうせ映画祭狙いなんでしょ」「作家ぶってるだけ」「自意識高い無駄な長回し」

ハッハッハ。間違いないですね。絶対にこういう事を言われています。あるいは思われています。いやいや、そもそも興味を持たれて無いから、言われても思われても無いでしょうけどね。

私には、誰もが知っている代表作はありません。そういう意味でも、世の中と、一度も握手出来てない自覚があるんです。世の中に受け入れられた記憶はありません。

幸いにも、国境を超えると、私の作品の理解者がポツリポツリと現れます。海外の映画祭は認めてくれる、みたいな事ではなくて、海外の映画祭の中の、さらにごく一部の人に好かれている、という状態ですね。マニアオブマニアですね。それでも居場所があるだけ、私は幸せなんだと思いますが。

これはもうどうしようもないですね。多くの人に受け入れられるような表現が好きじゃないし、出来ないですから。実はここが核心でして、「多くの人に受け入れられるような表現からどれだけ遠ざかれるか?」みたいなところを面白がって作ってしまいますから、多くの人に受け入れられるような作品にならないんです。因果がハッキリしています。

多くの人に受け入れられる表現に何度もチャレンジしたことはありますが、素直に自分の感覚で「この辺だよな」と思って置いたところは、やっぱり多数に受け入れられる位置に無いんです。無理して逆を張っている訳ではなく、素直に良いと思った場所が、「いいね!」の位置からだいぶ遠いんです。「素直に」作ってですよ。私が「これはものすごく良い」と思っても、多くの人は良いと思ってくれません。

私は自分の事をそんな風に捉えていますが、渡邊さんはどうなんでしょうね?

「ほどほどに世の中と握手しつつ、でももう少し自分の表現したいことも突き詰めていきたい。」と思っているのか。あるいは「ぶっちゃけ、本当に自分のやりたい表現は全く理解されて無いし、忸怩たる思いがある。」と思っているのか。あるいは「自我なんか無くて良いんです。握手出来ようが出来まいが興味ありません。」と達観しているのか。

そして、渡邊さんだけじゃなく、多くの作り手の人たちは、その辺どう思ってるんでしょうね?すごく興味があります。

世の中と握手出来た感覚を一度でも味わえた人は、すごく幸せだと思います。そして、それは相当強い刺激だと思います。間違いなく、もう一度味わいたい、と思うでしょうね。例えは悪いですが、大きな世の中と握手してしまう事は、覚醒剤を打ってしまう事に近いのかも知れません。あの時の刺激が忘れられない。だから、もう一度あの成功を体験したいけど手に入らない。覚せい剤はお金で買えるけど、大成功はお金では買えませんからもっと辛いのかも知れません。

「A collection of film music for Isamu Hirabayashi」を聞いていて、渡邊さんの気持ちが気になってこのnoteを書きました。

しかしまあ、私が思っている「世の中」って、実在するものなんですかね?存在しなければ握手だって出来ませんからね。


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