私は覚悟ができていなかった、、 「クスノキの女神」クライマックスについて

東野圭吾作「クスノキの女神」を読んでの感想です。ネタバレもあります。

今作も大変面白くて、終始涙が溢れそうなのを、主人公である玲斗と一緒にこらえながら読んでいました。ただ、本当に面白かったからこそ、ラストまで読み終えた時、「こんなラストなの?」と、思ってしまったのです。

最後のクスノキの奇蹟(元哉の受念)は果たされたのかもわからず、千舟は玲斗のことを前置きもなく忘れてしまうという、唐突なエンディングでした。

このクライマックスにどんな思いが込められているのか考え、自分なりの答えを導き出して、それによりさらに作品が好きになったので、ここに記しておきます。


今作の問いかけは、「あなたは何年後の未来を知りたいですか?」ということでした。

人は過去を悔やみ、未来に期待を抱く。
だが、人は常に迷い続け、将来への不安が消えることはない。
だから未来を知るよりも大切なことは、今生きていることを大切にすることだ。

作中の絵本通して、このように今を生きることの大切さを伝えてくれる作品だったのですが、そんな作品のラストとして描かれたのが、元哉の唐突な死と、千舟との別れでした。

私が考えた結論としては、このラストは、明日の不確実性を表しているのだと思います。

明日は今日よりいい日になるかもしれない、幸せなことが起きるかもしれない。それを願うのも悪いことじゃない。
けれど反対に、最悪の日になるかもしれないし、取り返しのつかない何かが起こるのかもしれない。

私は読みながら、今回も前作のように、幸せで心温まる、そんな素敵なエンディングが待っていると考えていました。

実際、そういったラストシーンは、いくらでも描けたと思います。それでも、今作ではあえて唐突で、淡白な終幕を選ぶことで、明日の不確実性を体感させてくれたのだと思います。

主人公の玲斗は作中で、「覚悟はできている」と、繰り返し言います。
いつ千舟の認知症が悪化し、自分のことを忘れてしまっても、受け入れられると。

私はできていませんでした。元哉が亡くなり、立て続けに千舟は別人になりはて、そんな最後を受け入れることが出来ませんでした。


これが物語で、本当に良かったと思います。
現実でも明日は不確実で、けれど私は何一つ失う覚悟ができていません。
当然、明日が幸せなほうが良いけれど、もう少し、今を大切に生きようと思います。

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