おばあは細部に宿る
先日、駅の近くにある産直に行ったら、
入り口に大量の大きなアロエが値引きされて置かれていた。
アロエを見たら、なぜかばあを思い出した。
宮城県の小さな海沿いの街に住むばあは、
むかし、わたしが遊びに行って蚊に刺されると
アロエを塗ってくれた。
アロエの厚い皮をナイフですっとめくり、
みずみずしいその身があらわれると、
ばあはそれを真っ赤に腫れて痒いところに塗ってくれた。
わたしは肌も弱くて、蚊に刺されると大きく腫れて熱を持つのに
その時ばかりは、
わたしがアロエに興奮していたせいもあったのかさほど重症にはならず、
ばあのアロエは画期的な自然療法だなあ。と、感心したのを思い出した。
このあいだ、
アルバイトをしている出版社でコーヒーを入れてくれと頼まれた。
どこで買ってきたのか、誰からもらったのか、
忘れてしまったけど、手でひいているときのコーヒー豆の香りは
わたしをばあの家にトリップさせた。
ばあとじいは、コーヒーが大好きだった。
3時の休憩時間はリビングで、
じいがわたしを呼んで、一緒に豆を挽いた。
ひとりだと疲れる。とじいは言っていたし、
わたしは豆を挽くのがハローキティのポップコーンを回しているときみたいで好きだったから、いつもわたしは大活躍だった。
それに見た目も大好きだった。
四角い木箱で、上には受け皿のような豆を入れるところがある。
豆を入れて、上についた取っ手を回すとガリガリっと豆が砕ける音がして
それと一緒にいい香りがたちまち鼻を埋め尽くす。
そしてしたにある、小さな引き出しを開けると
ふわふわしたいい香りの粉が敷き詰められている。
それをなんどもなんども繰り返してみんなの分のコーヒー豆を挽いた。
そのとき、わたしはコーヒーは苦くて嫌いだった。
多分そのせいなんだと思う。ばあは今もそれを気にして
わたしにはおしゃれな紅茶を出してくれる。
今もそこまで好きじゃないけれど、コーヒーショップや喫茶店の
雰囲気、そこでなされる会話や、人の行動が好きなのは
この思い出があるからかもしれない。
久しぶりに事務所で豆をひいたときも、小さい時と同じく
わくわくした。
おばあは、会うといつも
「ごめんね、何もしてやれねくてね。」と言う。
彼氏はおばあと仲良しなので
わたしの元気がないと真似してそう言う。
おばあ、生きていると、おばあが近くにいなくても
すぐにおばあの顔もおじいの顔も浮かぶ出来事がたくさんあるよ。
だから、おばあはいろんなこと、してくれてるんだけどなあ。
多分おばあはそれをわかっていないから
そろそろ会いに行って、おうちのお手伝いでもしようかな。
おばあとカラオケしようかな。
おわり。
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