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アメリカやアメリカ人ー何なんだろう?

日本人にとってアメリカは最も身近な国の一つだろう。ニュースやエンターテインメントではアメリカの話題が満載で、なんとなくわかったような気になる、親しみもわいてくる。しかし、アメリカやアメリカ人って何よと考えると、実は言葉に詰まる。私も若い頃に数年暮らして好きな国ではあるし、友人もいるのだが、「何がアメリカでアメリカ人か」はよく判らない。


豊かで、自由でオープンで多様、広大な自然、最先端の科学、伸び続ける経済、イノベーション、強力な軍事力、エンタメの世界の中心、理想主義やアメリカンドリーム、沢山のノーベル賞、世界的な大学や研究機関・・・
でも、こんなに強いはずの国なのに、貧困層が多く、不健康(肥満・麻薬)、銃犯罪が繰り返され、人種間が対立し、社会が分断し、トランプみたいなリーダーが登場し、政教分離とはいえ、キリスト教・ユダヤ教の政治力も強い。勿論、アメリカについての研究者は沢山いるし、書籍も多い。テレビでもアメリカの大統領選挙などしばしば報道される。そういう解説で今起こっている事は判るのだけど、もっと根っこにあるのは何なんだろう?
以前からそんなことを考えていた時、古本屋でジョン・スタインベックが1966年に書いた「アメリカとアメリカ人」(サイマル出版会)を見つけた。50年以上前に書かれた本だが、ノーベル賞作家で生粋のアメリカ人が見つめたアメリカやアメリカ人の内面を語った本。アメリカ人についてのインサイトが今もおそらく当てはまり、とても面白い。
彼の観察によれば、アメリカ人は矛盾だらけの国民であり、やりすぎて問題を起こし、今もそれを解決しようと走り続けている。そして何がアメリカ人をつくったのかと言えば、広大な国土と、反抗心と、競争心だ。

ジョン・スタインベック



「何かがたまたまアメリカ人をつくり上げた。多分それは広大な土地だろう。国土の途方もない美しさと荒々しさ、それが外の世界から追われ、じっとしておれぬ人々に働きかけ、みんなをアメリカ人にしたのだろう。」
「アメリカ人は矛盾だらけの国民である。実利的かと思うと、おっちょこちょいである。」「アメリカは存在していなかった。労働と流血と孤独と恐怖の四世紀がこの国土をつくったのだ。我々がアメリカをつくり、その過程がわれわれをアメリカ人にした」「あらゆることが度はずれている。だれもが自分の安全、金もうけ、前途の確保のため、他のすべての人に立ち向かった。土地を切り裂き、侵し、時には破壊した。」「ピルグリム・ファザーズはカトリック教徒をいじめ、両方ともユダヤ人をやっつけた。次にアイルランド人がしごかれ、次にドイツ人、中国人、日本人・・・・・新参者を残酷にあつかったからこそ、よそ者がが急速に”アメリカ人”に同化したのではないか」「アメリカ人はじっとしておらず、満足せず、求め続ける国民だ。大体において不節制な国民である、食べすぎるし、飲みすぎるし、感覚に溺れすぎる」「いたるところに矛盾がある。法律の国であると叫ぶが、法律を免れることができるときは、あらゆる法律を破る」「アメリカ人と火器の深い縁は潜在的な国民性ではないかと思う。それほど昔でないころまで、射撃がうまくなければ自分たちの生命が危険に陥った」「アメリカ人は、政治にしろ、宗教にしろ、官僚にしろ、権力が続くことに、例外なく不安と憎しみを持つ。これはアメリカ独立革命の記憶のせいだろうか」「アメリカ人は、世界のほとんどの人々より早く、才能が生まれと関係ないということを発見した。祖先譲りの地位・財産・金は信用しない。しかし、同じものでも自分で手にいれたものなら尊敬する。」「かなり長い間、アメリカ人は財物を求めて国内を歩き回り、ほとんど定住心を持たぬ旅人であった。」「アメリカ人は元気のよい子供のように無分別で、破壊的で、生気にあふれた国民である。強力で性能のよい道具をつくると、すぐ使ってみたくなる」
「今、アメリカ人はその非常に多くが緊張のとりこになっている。過去からの道は行き詰まりになったが、将来への道をまだ発見していない。我々は変革の当惑の時代にある。一時にあらゆる方向に走っているようである。しかし、我々は走っている」




アメリカとアメリカ人のこの生い立ちは、日本や日本人とは、そして他の国とも大きく違う。だから我々のスタンダードや常識的な感覚を当てはめると、とても理解しにくいのだ。少々無茶をしても、広大な国土が許容してくれる。反逆心で生まれた国、アメリカの国歌も戦いそのもの。「矛盾」を気にしない、これは外からみればダブルスタンダードと見える。アメリカ社会を批判しながらも、この無邪気で危なげな国民をスタインベックが愛しているのも、アメリカ人だからか。そして、今も多くのアメリカ人はこのスタインベックのようにアメリカを愛しているのかもしれない。アメリカは若い国だと言われるが、それは建国何年ということではなくて、いつも失敗しながら、走り続けるしかない国なのだ。


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