ハレの日

もう秋になるというのにその日は
熱中症警戒情報が出る暑さだった
真夏日のように晴れわたった空は
眩しくて目に染みるほど青かった
一度秋らしくなったかと思いきや
日差しと熱が肌に貼り付いてくる
季節を遡るように戻った気候には
振り回されて少々うんざりもした

だけど住宅街を歩く一団をよくよく見ると
そのうちの一人が服の裾を持ち歩いている
ヴェールはなくシンプルだけれど明らかに
それがウエディングドレスだと見てとれた
機材や小道具らしきものを抱えた数人組と
花嫁の両親なのかが嬉しそうに付いていく

きっと歩いてすぐの海岸で撮影したのだろう
砂浜があり遮るものが少なく未開発のような
それでいて切り取る風景は申し分ないほどの
ハレの記念写真を撮りたくなるのも頷ける所

もう少し曇ってくれてもいいのになどと
思うわたしとは真逆であの一団はきっと
今日という日が良く晴れた日であるよう
何日も前から願ってやまなかったはずだ

この暑さも誰かにとっては
思いが叶った晴天であって
まさにハレの日とはこれか
おめでたいことにぴったり
軽やかな笑い声を聞く限り
暑さは気にならないほどの
溢れる幸福がそこにあった

きっと素敵な撮影になったことだろう
やはり眩しすぎる青空と白いドレスが
共演する場面を想像しながらわたしは
ひとり駅のホームで額の汗をぬぐった
予定はこれっぽっちもないけどいつか
ハレの日がわたしにもくればあの海で
写真を撮るのも悪くないかもしれない