舳先

明るい人

太陽のように明るい人に憧れた。
いつも笑顔でいろんな人に話しかけて周囲の空気を和やかにする。
そういう人になりたいと思っていた。

大人になってから、ある場所で努めて明るく振る舞い笑って過ごしていたら、あなたは明るい人だね、と言われた。おとなしいとか愛想がないとか言われて育った自分が明るいと言われるのは生まれて初めてで、嬉しさよりも違和感を覚えた。
ある時、あなたは笑っていればいいんだから、と言われた。私には笑う以外にもできることがあるのに。今まであなたは私の何を見ていたんだと失望した。

思い返せば仕方がないことだったのだ。
取り繕った表面しか見せていなかったのだから。

努力すれば明るく振る舞うことができるということは分かった。そうなると、私が憧れていた人は本当に明るい人だったのだろうか、と疑問が浮かんでくる。私もあの人の表面しか見ていなかったのではないか。
いや、たぶん、あの人は根から明るい人だった。何も話さなくても、常に纏っている空気が柔らかく、表情は和やかだった。それは持って生まれたもので、努力でどうにかなるものではないような気がする。

私は本当の明るい人ではない。けれど、せめて大事な人たちと楽しく笑って過ごせるくらいの明るさは持っていたい。

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