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ピンハネ率は、なぜ50%になるのか

会社員として仕事をするようになって、かなり衝撃的だったことのひとつは、これだった。

コンピュータ業界で開発会社に仕事を頼むと、エンジニア一人あたり、ざっと月80万円、年間1000万円くらいかかる。
しかし、開発会社がエンジニアに支払う給料、エンジニアの平均年収は、およそその半分、500万円くらいだ。

つまり、会社にとられるマージンは50%である。
マージン、とられすぎ。

この50%が、そのまま会社の純利益になるわけではない。
会社を運営するには、管理部などの間接人員も必要だし、本社の不動産費用もかかる。
また、社会保険の会社負担分もある。
50%が妥当かどうかは、一概には判断できない。
会社経営だって、大変だよなあ。会社員は、そんな風に考えて、自分を慰める。

しかし、この50%というのは、かなり広範囲に見られる現象のようなのである。

派遣業界で働いていたときにも、派遣先が派遣会社に払う費用の、およそ半分が、派遣社員に支払われていた。
業界を問わず、「会社で働く以上、自分のもらいたい分の、2倍以上は利益を出さないといけない」という言説が、さも当然であるかのように語られている。

日本だけではない。
ILOによれば、世界の労働分配率(会社のあげた収益のうち、労働者に支払われる割合)は、平均で51%だそうである。(2017年)

はたして、この現象は何なのか。

ここで、発想を逆転させてみる。

一般的には、間接人員だとか、いろいろ経費がかかる、「だから」50%のマージンが必要だ、と認識されている。
しかし、本当は逆なのではないか。

マージンは「別の理由により」50%になる、「だから」その50%の使い道として、間接人員などもろもろの経費の相場がそうなっている。
ということではないのか。

江戸時代の『落穂集』に、

郷村の百姓どもは死なぬように生きぬようにと合点致し修納申付るように

という徳川家康の言葉がある。
いわゆる「百姓は生かさず殺さず」である。
この、百姓を同等の人間とは思わなかった身分制の時代、マージンはどのくらいだったか。

50%であった。

「五公五民」である。
これに気づいたとき、背中がゾワッとした。
ピンハネ率50%というのは、時代を問わないようなのだ。

なぜ、こうなるのか。

いま、「労働者を単純に道具とみなして、自己の利益を最大化することだけを考える経営者」を想定する。
「強欲な経営者」とでもいおうか。

労働者の生産量のうち、労働者の取り分となる割合を、r とする。
経営者の取り分であるマージン率は、(1 - r) である。

r = 100% であれば、労働者は利益をすべて自分の収入にできるので、その人にとって最大限のやる気を発揮して、仕事に邁進する。
r = 1 のときの生産量を、Pmax とする。
(このとき、マージンは 0 だ。)

r = 0% であれば、労働者は働いても何の利益もないので、働かない。
働かないというより、死ぬ。
したがって、生産量も 0 となる。
(このときも、マージンは 0 となる。)

r に応じて生産量がどのくらい変動するのかは、一概には言えない。
r が 0 に近づけば、生産量も 0 に近づき、r が 1 に近づけば、生産量は Pmax に近づく。
r と生産量とは、おおむね、正比例に近い関係にあると仮定できるだろう。

つまり、生産量 P(r) = r Pmax を仮定する。

Pmax=1 としたときの P(r) = r のグラフ

すると、経営者の取り分は、どれだけになるか。
生産量に、マージン率 (1 - r) をかければ良い。

マージン M(r) = P(r) (1 - r) = r (1 - r) Pmax

このグラフを描くと、上に凸の放物線となる。
このマージンが最大となるのは、 r がいくつのときか。

r = 50% のときである。

M(r) = r(1 - r) は、上に凸の放物線となる

というわけで、

・生産量 P(r) は、r に比例すると近似できる
・経営者は、マージン M(r) を最大化することだけを考えて、r を決める

と仮定したとき、r = 50% になることが示せた。

このとき、生産量 P(r) は、Pmax の50%となる。
労働者も経営者も、Pmaxの25%を受け取る。

残りの50%は、失われる。
これは、潜在的な社会的損失、といっていいだろう。

また、このグラフを見ると、r = 50% の前後で、M(r) の値はそれほど変わらないことがわかる。
r = 40% でも、60% でも、50% のときと、さほど変わらない。
r = 50% というのは、おおむねそこに収束するだろう比率ではあるが、正確に50%になる、というほどのものではなく、10%〜20%は前後してもおかしくない。

労働者にとっては、r = 100% となるのが理想である。
経営者にとっては、r = 50% となるのが理想である。

この中間地点、r = 75% くらいに、双方が譲歩しあえたら良いのに、と思っている。

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