訪問先:公立小学校Grydemoseskolen
『生をめぐる光』 米田 裕治
……………
生そのものに固有な法則によって
どの生の表現も光を生む
どの光の輝きも悦びを生む
悦ばしい光は行動を育てる
………グルントヴィ
デンマークの公立学校に入った。
広々とした空のもと、ゆったりとゆったりと広がるたいらかな建物と広場、緑と土とデンマークの大気に呼吸し、ゆったりと学校。
午前中に特別学校の子どもたち・教師たちと出会い、
そしてその午後、アンドレアスさん(自治体の中の全公立学校の統括リーダー)と出会いました。
アンドレアスさんは「公立学校・国民学校に関する法律」Bekenørelief af lov om folkeskolenを映し出し、話し出しました。
学校は、保護者と協力して、ひとりひとりの全人的発達を促します。
人生のために学ぶ。大切にしているのは、健康的で地に足ついた内側から湧き出るやりたいという気持ち。経験、没入、認められるという経験。できるという自信。自然と人間、デンマーク国家、民主主義国家の一員として自分が育ちます。
…アンドレさんの語り口は、この法律の魂を誇りに、法律がめざしている意を自分の意として自分の言葉で語りかけてくる…。なんだろう、この幸せ感。私たちを惹きつけ、教育のいちばん大切なものへと想像を沸き立たせてくれる彼の全身から発せられてくるこの幸せ感は…
0年生から9年生・10年生が修了したときには、自分が、自分は、何ができるかわかっています。デモクラシー社会に自分は何ができるかわかっています。
あなたはどうしたい。自分は何がしたい。
自分がどういう人かわかっている。相手がどういう人かわかっている。デモクラシー社会の一員としてわかっています。
そして、やらなければいけない事はあるけれど、学校は人を育てるところ、ひとりひとりの「生きる、自分の生を生きる」を育てるところ。ひとりひとりの生をひらくところ。
教科の中で人を育てます。(算数、数学、自然科学、言語、文化、芸術、技術、デザイン、……)
教科は手段です。道具です。教科を使って人を育てます。
(自治体のVISION2030を映し出し)大切にしていることは、参加、共同、声を聞くということです。いっしょに何かをするということです。
生きていく。人と生きていきます。
サッカーは簡単です。サッカーにはサッカーのルールがあります。
25人くらいが校庭で遊ぶ。子どもたちはずっと(知と心と身体を)働かせています。遊ぶこと。関わること。自分を知り、相手のことを知る。遊びがだいじです。関わることが大事です。インクルージョンです。0年生から9年生までずっと遊びが大事です。人と関わる時間がとても大事です。(授業の中でも「遊び」を大切に考えています。7年生〜9年生も。例えば選択科目の演劇の中で。)
クラスの中でうまくいかない。
まずクラスの中でできることをします。次には学校の中にグループを作ってできることをします。それでもうまくいかない時には近くの学校のグループで。それでもうまくいかない時には近くのまちのスペシャルなニーズに対応したクラスで学び活動します。できるだけ近くの学校でインクルーシブに関わり学び育つこと、とても大切なことです。
私たちの質問にじっくりと考え、真摯に語りかけるアンドレアスさん。…さやかさんの顔が火照る。私たちに火がつく…
先生を名前で呼ぶことについては、デンマークの文化によく馴染んでいます。平たい近い関係とともに、リスペクトがある。デンマークの文化。(ただし、大人が大人として示すべき事はきちんと示します。)
子どもたちの居場所が近くにあるという事はとても大事です。学童や4年生以上の放課後クラブ、スポーツクラブなど。
不登校の子どもは増えています。学校に来る小さなステップを大切にしています。また、家で学ぶと選択された家庭には、それを尊重し、学校が家庭に出向き教育が受けられてれているかどうかを丁寧に応援していきます。
大切なのは教師の専門性と自律性です。90分(45分× 2)を単位で学習活動を教師たちが展開いたします。教師に大きく任されています。そして、教師の専門性が育つには長い時間が必要です。教師は学校に雇用されます。この学校で働きたいと思えるよう腐心します。(自治体に雇用されているのは私だけです。)
アンドレアスさんがお話しを続ける。
人と関わり、自分を知り、相手を知りながら、すべての人といっしょに自分を働かせながら活動をつくっていく。その共同体をみんなでつくっていく。自分が育っていく。
ひとりひとりの固有の唯一の生をリスペクトし合いながら。
………………………
いよいよ3年生の教室に入ります。
光にあふれています。先生といっしょに学習に取り組む子どもたち、二人組で考え合いながら取り組む子どもたち、に、光がいっぱいです。
私の中に喚起され、循環し、発展したいと湧き出てくるものにいだかれている。幸せにいだかれている。私の生をめぐる、私の内なる光、が、子どもたちからこもれてくる。
ひとりひとりの唯一の固有の生の光が、自然の光とともに満ち満ちている。
そんな教室。
すべてが インクルーシブ すべてが インクルージョン に大気している。呼吸している。デザインしている。
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日本に帰って、アンドレアスさんが一番はじめに話された法律の「公立学校の目的」の章に謳われていることばを辞書でひろって読んでみました。
よろこび うれしさ 楽しみ 高める したいと思う 知識 熟達
デンマークの歴史・文化 他国の文化
自然と人間との相互作用
ひとりひとりの全般的な発展
認識と想像の発展 沈思燃考 経験 活動しようとする意欲 自分自身の可能性への信頼
参加 共同 仲間 権利 義務 民主主義 デモクラシー
仲間とともに 学校の活動が精神の自由、平等、デモクラシーに特徴づけられて
保護者と協力して
法律の意の一番にこのことが謳われている国
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振り返ってみると、アンドレアスさんの 「やらなければいけない事はあるけれど」 という言葉です。
人はすべて有能な存在です。
出会ったものに働きかけられ、自分の中に喚起された えもいわれぬものを育て、そして出会ったものに働きかけていきます。その姿は一人一人違います。この姿こそ固有の有能さ。
今、軍事侵攻を目の当たりにしているという現実。
生成AI、対話型AIが登場し、急速に進化している現実。
地球温暖化による気候変動がのっぴきならぬところまで来ているという現実。
今こそ人間の、ひとりひとりの固有の姿(有能さ)で、その人でしか、人間でしか到達できない良きものを生み出していく。そういう力を養っていく教育活動に注力していくことが求められていると思いました。
やらなければいけないことはカリキュラムを厳選して、人間の呼吸に必要な大きな余白・いのちの時空間をつくりだし、ひとりひとりが自分の中で喚起され、溢れ出てくるものに思いっきり挑戦をしていく。自分の自然を循環させて。
教育モデルを、本来の教育の姿 **人間でしか生み出せないものを産み出していく力、そのひとりひとりの人間の力を育む教育** の根本に立ち返っていく時なのだと思います。
ひとりひとりの固有の唯一の力を。
すべての生が対等に公正に表出しあって循環していく。光かわしあって、未来に向かう青き地球をみんなでつくっていくために。心からそう思います。
………………
これまで以上に、これからも
この小さなデンマルク国が
類まれな大理石として
地上の円い球の上で
平和と自由、英雄の勇気とともに
民衆歌謡や悦びとともに
子どもの装いに最良の知恵をもち
愛と真実において
…………… グルントヴィ
※冒頭と最後のグルントヴィは〈『生の啓蒙』小池直人訳 風媒社〉からです。行間スペースは米田が入れさせていただきました。
※このnote は、アンドレアスさんのことばと海老原さやかさんのことば(通訳して届けてくださることば)とグルントヴィが語りかけてきたことばからのメモとなりました。
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