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不安と絶望の淵から始めよう、未来のための長期投資 COVID-19が遷移させた世界で僕たちは「資本」を監視しながら手を結ぶ

異常な事態が異常な切迫感を呼び、2万字を超える異常な文字量を生んでしまいました。

ご多忙の方は、前半
1.COVID-19と株式市場 2020年2月21日~4月6日
2.COVID-19と闘いながら共存の道を探る、株式市場と実体経済のこれから
と、後半
3.不安と絶望の淵から始めよう、未来のための長期投資
4.目下の投資環境と考え方:われわれは勝利するためにここから行くのだ
5.最後に:僕たちは、より合理的により狡猾になる必要がある
に分けてごらんいただくことをお勧めします。

新型コロナウイルス・COVID-19が蔓延し、世界の経済が半ば機能停止に追い込まれています。

日本も7都市が緊急事態宣言の対象となりました。
僕たちは自分の命を守り、家族を守り、生活を守る瀬戸際に立たされることになりました。

中国の武漢で感染が爆発してからおよそ1か月後。
株式市場に潜むデーモンは2月21日から鎌の柄をしごき始め、それから1カ月をかけてその大きな刃で人間たちの資産を3割もえぐり取っていきました。

この数日、株式市場は春の日差しを受けて傷をいやしています。
日本でも緊急事態宣言が発令されました。

僕たちがはじめるにはうってつけの時です。

おそらくは遷移してしまった新しい世界で、僕たちは僕たちの投資について考え、粛々と実行しながら、アフターCOVID-19を生きてゆくのです。

1.COVID-19と株式市場 2020年2月21日~4月6日

逆巻く波間の小船の上で千年
一度乗り込めば二度とは降りれない
上昇下降運命は転がる玉のように
行き当たりばったり止まることなどない
 ―― フリッパーズ・ギター「ヘッド博士の世界塔」

①COVID-19と日米欧諸国

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2月21日まで欧米諸国は高をくくっていました。
COVID-19はアジアの感染症で、他人事であると。

日本ではクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号が横浜沖で停留しながら検疫を続けており、危機感は広まっていたもののどこか自分事という感覚は薄いままでした。

その後、ミラノを擁するイタリア・ロンバルディア州で感染が爆発。2月末にロックダウンとなります。
3月中旬には全土で厳しい行動規制が敷かれました。

じきにCOVID-19がスペイン・フランスに飛び火し、ドイツも3月22日からロックダウンに入っています。
欧州は総陥落です。

アメリカも3月中旬には感染拡大が明らかとなり、ニューヨークは3月22日からロックダウンに入りました。
もはや医療崩壊寸前と言われる状況です。
感染者数は世界一となっています。

そして日本は、4月8日から7都市が緊急事態宣言下に置かれています。
感染爆発を目前にした厳しい状況ながら、市民は平静を保っています。

②COVID-19と世界の株式市場

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2月21日~3月23日の間、世界の株式市場は史上最速の墜落劇を演じました。

3月9日~19日にかけては、安全資産の城砦ともいえる米国ブロード債券インデックス(AGG)や長期国債(TLT)までが下落しました。
投資適格社債(LQD)、そしてハイイールド債(HYG)は原資産との連動性を喪失し、暴落の域に達しました。
世界の投資家が狼狽して現金確保に走った結果です。

※債券:国や企業に貸したお金の借用証。自由に売買でき値段が上がったり下がったりするが、満期まで持っていれば基本的に元本が戻ってくるので株よりは値動きがマイルド

3月23日には下げ止まり、翌日から猛烈なリカバリーがやってきました。
以降、株式市場は冷静さを取り戻し再上昇をうかがう勢いとなっています。

この背景には、COVID-19対策のロックダウン(接触制限)による経済活動の大きな落ち込みに対処するため、各国政府が過去最大級の経済対策を打つことを表明したことがあります。
内容の大筋は以下の通りです。

①債券市場で不測の事態が起きないよう買い支える
②大・中小企業の資金繰りを万全に支える
③個人の生活を支え経済に直接、需要を追加していく

これらの対策が行われることを受け、株式市場とCOVID-19が引き起こす実体経済ショックとのリンクがいったん切れました。
わかっていることと当面予測できることは株価に織り込んだので、落ち着いていこうとなったわけです。

経済対策でモルヒネを効かせて時間を稼いでいる間に、厳格なロックダウンが奏功して7月からの第三四半期には力強いリカバリーが始まる……
欧米の大手投資銀行等はこのような夏からの実体経済早期リカバリー・シナリオを示していましたが、ここにきて観測が入り乱れコンセンサスが見えなくなっています。

4月6日までの世界株式市場の推移を表にしました。

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2月下旬の時点では米国株式がかなりの高バリュエーション(割高)でそれ以外は穏当な評価を受けていましたが、ショックが起きると事前のバリュエーションは関係なくなります。
日本は抑え込み成功(?)、欧州は大爆発というCOVID-19深刻度を見ながら、投資家が右往左往してきたという印象です。

セクター1

青:全世界 橙:資本財 黄緑:エネルギー 黄:金融 紫:ヘルスケア 緑:通信

セクター2

青:全世界 橙:IT 黄緑:公益 黄:生活必需品 紫:素材 緑:不動産

セクター(業種)分類で先進国株式を見ています。
市場平均を下回ったセクターはエネルギー、不動産、金融、工業です。

エネルギーセクターはサウジアラビアとロシアの増産チキンレースによる原油価格下落が大きく影響しています。
不動産はホテルや商業系テナントの苦境からの賃料値下げが観測され株価を切り下げました。
金融・工業は景気敏感セクターです。

日本は下落幅を少なく抑えています。

丁寧なクラスター(感染者の集団)対策が3月中旬までは功を奏していたことに加え、日本人の生活習慣である人との距離感、清潔さ、社会規範を守る性質(「3密」の順守)がありCOVID-19感染拡大をある程度抑え込んできました。

しかし、中国や欧米からの帰国者受け入れや、3月3連休の賑わいが感染者を著増させクラスターが追えなくなってしまいました。
実態として制御不能寸前となっており、厳格な行動制限を行わなければ感染爆発を避けることができないということで、4月8日からの大都市緊急事態宣言の発令に至ったわけです。

緊急事態宣言下でも思うように新規感染者の抑制がなければ、事態収束の長期化観測で株価も欧米に寄せていく場面があるかもしれません。

社会的距離を従前の20%以下にするよう求められていますが、この施策では、4月中旬以降に新規感染者が大きく増え始めてしまうという予測モデルも存在しています。
行動自粛・株価ともども最大限の警戒が必要です。

③COVID-19感染の現況

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Financial Times, 4月9日より

中国は収束に向かっています。

COVID-19が最初に感染爆発した武漢で、4月8日にロックダウンが解除となりました。
共産主義体制の下で他の都市でも厳しくロックダウンを行い、世界に先駆けてCOVID-19を制圧したと言える状態です。

ただし中国は感染者を隠ぺいしていて、本当は公表の50倍は感染者がいる……と英国政府が非難しており、ロックダウン解除から日常への復帰がスムーズに行えるか、再燃はないかと世界はかたずをのんで中国を見守っています。

韓国は検査・感染者の隔離を徹底的に行うことで、結果医療崩壊を起こすこともなく収束に向かっています。
COVID-19対応では世界でも称賛される手際です。

イタリアを筆頭とする欧州諸国は感染爆発を起こしましたが、ここにきて新規感染者がピークを越えてきています。
ロックダウンからの出口戦略を探っている状況です。

アメリカは世界一の勢いで感染大爆発を起こしていましたが、ようやく新規感染者数の増加がなだらかになってきました。
対策の遅れ、人種のるつぼ・個人主義の国で統制がとりにくい、そして医療体制が弱い(レベルは世界最高だが受け皿の大きさとしては弱い)ことに加え、格差が大きく無保険で病院にかかるお金もない貧困層が多いといったことが感染爆発の理由とされています。

そして現在、日本が感染爆発の経路に乗る瀬戸際となっています。

④COVID-19ショック対応の経済政策

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COVID-19ショックに対応する経済政策の要諦は2点に尽きます。

1.企業の資金繰りを助ける。
経済はえんえんとつながっているので、どこかに巨大なストレスがかかると、その影響が経済全体に広がってしまうことがあります。
手元の現金が払底、あるいは納品ができず、売掛―納品ー支払いのリンク断裂が随所で起きると経済がストップしてしまうわけです。
なので企業の資金繰りを助ける政策を、おもに大企業向けには中央銀行、中小企業向けには政府が担当して行います。

2.人々の生活を保障・支援する。
仕事・レジャーといった日常生活を一時的に大きくスローダウンさせるために、おカネをばらまいておうち時間を奨励します。

主要国は以下のような経済対策を実行しています。

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大統領選挙を控え、トランプ大統領は政策のボリュームを大いに演出した印象。対応の長期化を見据えた追加政策の話も出ています。

EUは市場の底抜けを防ぎ、企業の資金繰りを助ける面でECB(欧州中央銀行)は一通りのことは行っています。
財政政策では5,000億ユーロの基金をまとめましたが、南欧諸国から提案されたCOVID-19対策の共同債(コロナ債)は北部欧州諸国の抵抗で検討課題となりました。
ギリシャ救済以来揺らいでいる欧州統合の理念がまたしても問われています。
ギリシャの財務大臣を務めたヤニス・バルファキス著「黒い匣」でも描かれた、タタールのくびきならぬゲルマンのくびきを逃れることは今回もむずかしそうです。

日本については、政策対応の余地が払底している日本銀行は企業の資金繰りに徹しています。
財政対応は紛糾の末ようやくメニューが出ました。
企業の資金繰り・生活支援に絞り込んだ内容はエコノミスト筋からは一定の評価を得ているものの、市民の間ではルサンチマンにも似た不満がくすぶっているようにも見えます。
迅速性とアクセスのしやすさ、カスタマーリレーションに大きな課題を残しました。

2.COVID-19と闘いながら共存の道を探る、株式市場と実体経済のこれから

リアリティこそが敵で、戦う相手だ
そして、そんなものに勝てる奴はいない
歴史上、ひとりだっていなかった
誰もが現実の前では討ち死にだ
生きることは負け戦なのだ
 ―― 「化物語」阿良々木暦

①現状の株価の水準は妥当なのか?

ご

株価は実体経済の先行指標と言われます。
近い将来の経済動向を前もって織り込みにかかるわけです。
ショックを経て落ち着き、政策対応を得て、ロックダウンの動向を踏まえた近未来へのコンセンサスが現在の株価水準です。

将来を悲観している人にとっても、将来を楽観している人にとっても今の株価水準は妥当とは言えないかもしれませんが、現時点で出ている材料は一通り織り込んだとは言えると思います。
ちなみに筆者は悲観派です。

米国大手投資銀行ゴールドマン・サックスは2020年の世界経済は景気後退局面に入ったとしています。
2008~2009年のサブプライムバブル崩壊の時ほどの深い落ち込みは想定していないものの、以下の事項に大きく左右され先行きは不透明としています。

①感染拡大の規模と期間
②消費回復のスピード
③金融・財政支援の有効性

この先の株価は、実体経済の指標やCOVID-19の収束ルートにおけるつまづきなどが出るたびに動揺しつつ、企業収益の方向感を探っていくことになります。

②人間社会はCOVID-19を封じ込めながら、いずれ共存していくことになるかもしれない

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COVID-19は人間社会における「新たな分断」を強いながら、「既存の分断」を暴き出しています。

COVID-19感染を防ぐための対策は、基本的には「距離」につきます。
感染者との接触、および感染者が触れたり飛沫がかかったものとの接触で感染が起こります。
エアロゾル感染も距離の問題です。

片眉を落として山の中でひとり空手の稽古をしていればCOVID-19には感染しませんが、堅気の社会人はそうもいかないので、いわゆる「社会的距離」をとりつつ手指や衣服等の清潔を保つことが対策となります。

中国の武漢は共産党政権下できわめて強力なロックダウンを行い、2カ月半程度で解除にこぎつけました。
欧米は厳しいロックダウンに入っており、欧州では新規感染者カーブが下を向いてきました。

日本は7つの都市で緊急事態宣言を発令し、行動変容と自粛を強く促しています。
人との接触機会を通常の20%程度に制限することを求められていますが、これでは来週~再来週にも東京で感染拡大が起こるとし、2%程度まで接触機会を制限すべきとの提言もあります。
予断を許しません。

WHOの定義では最長潜伏期間の2倍の日数が経過しても新規の感染者が発生しなくなれば終息宣言となります。
COVID-19の潜伏期間は14日なので、世界中で1か月新規感染者が報告されなければ完全終息となるわけです。

ただし、ある地域で収束したものの国内・国外問わず他の地域でまだ感染がある場合、再流入からの爆発を防ぐため、社会的距離政策は「緩和しつついつでも再開できる」程度にとどめる必要があります。すぐ完全に元通りにするわけにはいきません。

そして、ウイルスの感染力に季節性があるかどうかもわかっていません。
中国ではいったん抑え込み、それ以外の先進国でも夏にはいったん収束の方向に向かう見込みですが、全世界で根絶されない限り、今年の冬にまた再流行する可能性もあります。

先進国と異なり、アフリカや中東等の開発途上国・政情不安国ではCOVID-19への対処がしっかりできていないという実状も聞かれます。

例として、原油ショックに揺れる中東、なかでもイラクからの難民が、いわばCOVID-19爆弾のようなものとして欧州になだれ込むことが巨大なリスクであるとして懸念するエコノミストもいます。

このように巨大な「分断」をCOVID-19が作り出しつつ、暴き出しています。

したがって、散発的な再流入と動揺(短期・局地的な行動自粛によるスローダウン、消費投資マインドへの影響)が長く続いていくことは避けられませんし、完全終息はワクチンと治療薬の早期開発にかかっています。
換言すれば、終わりは今のところ想定することができません。

ここで、筆者はあえて「集団免疫論」を終息条件から外しました。
実際には、「消極的に集団感染で終息させる」という事態もあり得ます。

集団免疫論は一定の犠牲を払いながら人口の多数が感染し免疫を獲得することにより、COVID-19蔓延が起こらない集団へとトランスフォームすることを意味します。

COVID-19の場合は6割が感染すると集団免疫が成立して感染が蔓延しなくなると言われていますが、この場合、医療体制が保たれていたとしても1%程度は死ぬので、60%の感染でも日本国民のうち72万人は亡くなってしまいます。

また、自然免疫で治癒した患者には集団免疫の形成に必要な獲得免疫が成立しません。
自然免疫を考慮したモデルは存在しないので、集団免疫論は実際にどの程度の感染率が求められるのかが明らかでなく、無理筋であると専門家は言います。

つまり政策として表だって集団免疫論をとることは、ムリです。

一方のワクチンについては、安全性を確かめて保険適用となるまでには2年程度かかると予測されています。
しかも、COVID-19が免疫ができないウイルスである可能性もまだ否定できていないようです。
HIVのようにワクチンが作れないウイルスである可能性もあります。

そうなれば、おのずとCOVID-19と共存する社会体制への移行を図っていかざるを得ません。
消極的に集団免疫論を選び、既存の風邪やインフルエンザと同様に「あるもの」とする社会体制と行動変容を受け入れていくことになるわけです。

COVID-19と不承不承ながら手を携えて共存できる新しい世界に踏み出すことが、あり得る最悪の未来です。

まとめると、一番のポイントはワクチンができるかできないか、です。
ワクチンができるまでは防衛的な構えをとらざるを得ず、昨年までのグローバル経済からのいくぶんかの後退は避けられないでしょう。

仮にワクチンができないとなれば、COVID-19との共存に向けた社会の適応が必要となります。

これがGDP成長にどのような帰結をもたらすのか、現時点では全く想像がつきませんが、漠然と「当面は経済の効率が格段に落ちるだろう」ということだけは言えます。
投資家として僕たちはこのことを、つれづれなるままに株価に織り込んでいく未来がやってくるかもしれません。

そして、遷移した世界ではほかにもいろいろなことが起こるかもしれません。

③After COVID-19の政治・経済・資産運用における意味:グローバリゼーションの後退

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遷移した世界への適応は、検査をきめ細かに行えるように調えることから始まります。

社会的距離政策を緩和した後でも、迅速検査によりクラスターの特定と対処を地道に行っていくことで、社会的距離の再強化を局所的・短期間にとどめながら需要・供給の傷が癒えていくのを待つことになります。

社会的距離政策が、強弱はつけられるものの年単位で継続されていく場合、実体経済の需要・供給が深く傷つき、従前の状態を取り戻すのに長い時間がかかる可能性があります。
企業倒産の末に供給力が戻らない分野や、失われた需要に基づいた産業の消滅があるかもしれません。

時間をかけて、世界の形や価値観が根本的に変わっていくかもしれません。 
たとえばグローバリゼーションの後退です。

グローバリゼーションとは、「貿易・投資・人の移転・技術の移転が国境を超えて盛んにおこなわれる」ことをいいます。
現在は「第2次グローバリゼーション」の時代と言われています。

第1次グローバリゼーションは、19世紀後半~20世紀初頭にかけての覇者である欧州の主導によるものです。

カナダ・オーストラリア・インド・アフリカに広大な植民地を持っていたイギリスは、いつでもどこかの領地に太陽が昇っている、「日が沈まない国」と言われていました。
フランスが続き、ドイツや日本も遅れて植民地獲得に乗り出しました。
第1次グローバリゼーションは、1913年にそのピークを迎えます。

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「歴史は繰り返す? 第二次グローバル化の未来」柴山桂太 より

第1次世界大戦で欧州は疲弊し、グローバリゼーションは縮小へ向かいます。大英帝国がカナダ・オーストラリアなどの連邦国の独立を認めたウエストミンスター憲章などがその象徴です。

続く1929年の世界恐慌で各国が苦境に陥るなか、経済のブロック化が進み第2次世界大戦へとつながっていきます。
終戦をもって第1次グローバリゼーションは終わりを迎えました。

現在の第2次グローバリゼーションでは貿易・投資・人の移転・技術の移転は以前にもまして活発になっていますが、ここでCOVID-19という人間ではないものとの戦争が起こりました。
ヒトやモノが動けば感染が広がっていく世界では、グローバリゼーションの形が変わる可能性があります。

ヒト・モノの動きにリスクが伴うことが意識され、大国による資源や生産手段の囲い込み意識が強まれば、従前の米中対立構造がより強まっていくかもしれません。

加えて、病んだ大国EUのふるまいにも注目が集まります。
欧州統合という理念を奉じ続けるのか、財政規律派と財政拡張派に分かれてゆくのか、そこに中国がどのように触手を伸ばしてゆくのか、わかりません。

こうした緩やかなブロック化の動きは、需要・供給ともに制約を生み、経済成長を正面から制約するでしょう。
当然、企業は収益を伸ばしにくくなり株主の取り分は減ります。

④After COVID-19の政治・経済・資産運用における意味:冗長性・財政規律と格差・人間の弱さと「高さ」

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また別の面で、今回白日の下にさらされた課題もあります。

①冗長性の過ぎた削減(医療崩壊)
②生存の危機を招く財政規律と格差拡大への疑念
③人間の弱さと「高さ」、AI・ロボット・ドローンの強さと「安さ」

COVID-19が南欧諸国やニューヨークで引き起こした医療崩壊は、効率性の重視または財源不足を理由に冗長性を削減しすぎたこともその理由の1つとなっています。
日本でも接触制限が不足し功を奏さなかった場合、早晩急性期病床および医療スタッフの不足が起こってきます。

この場合の冗長性とは、制度やインフラの通常運用に対する余裕分ということです。
いざという時に不足をひき起こしてはいけない分野では、通常時は100%とせず余裕分を保持しておく運用が求められます。

医療や水道・発電などのインフラはその最たる分野のはずですが、民間企業の経費削減や国家財政規律の聖域化によって余裕の保持や必要な投資が削られてきました。
その結果、原発の津波対策は放置され、水道は民間委託され、医療では病床削減と医師の過重労働が止まりません。

COVID-19を機に冗長性の重要さが見直され、関係分野への投資が進んでいくとします。

冗長性はいわば「効率性を落とす」ことにその意味があるので、たとえば民間企業が冗長性という「普段は収益を生まないもの」に投資をすると、その企業の収益性は落ち投資家にとっての期待リターンが低下する可能性があります。
冗長性への投資と維持についての優遇措置が必要です。

経済全体を見れば、たとえば国が民間企業による冗長性への補助をつけて投資を真水で増やせば、その分は誰かの給料となり消費されるので良いのですが、ここで財政規律が足止めをしてくることになります。
少なくとも現在の日本・欧州の政官体制下では財政規律の聖域化は続いていきます。

財政規律は国民の生命の危機に直結するものであり、より柔軟にさまざまな観点・立場から議論していく必要があると思います。
政府支出の総量を制約するものはインフレ率であるという現代貨幣理論(MMT)の主張が広く受け入れられていくとするならば、民間の購買力は増え株価はダイナミックに動いていくでしょう。

また、COVID-19は人々の接触を禁止するため多くの仕事が消失しています。
結果、非正規雇用とよばれる立場の弱い労働者から職と収入が奪われ窮地に立たされています。
ギグワーカーとよばれる、実質雇用でありながら個人事業主扱いとなっている労働者も含みます。

少なくとも1年以上は続くCOVID-19との闘いの中で、国の支援からこぼれ落ちた人々の命が多数失われていくことは想像に難くありません。
格差の大きい社会は、ショックを受けるとその低層から打撃を受けるというミもフタもない事実が、12年の時を経て再び襲いかかってきています。

一方で、COVID-19は改めて人の命の重さを強く印象づけたできごとでもあります。
なるべく人が死なないように、世界がその経済を凍結させ数百兆円の欠損を覚悟したわけです。
この事実はきわめて重いものですし、僕たちの心を救うものです。

が、人はこんなにも簡単に働けなくなり、労働力を保持するのにこんなにもお金がかかる……ということを冷徹に認識した人はたくさんいると思います。

2016年にディープ・ラーニングの技術を利用した囲碁AIが人間のチャンピオンに勝利して以来、AIの性能の高さは多くの人を驚かし、人間にとって代わるものであるという恐怖が一定のリアリティを持ってきました。
今ある仕事の半分程度が近い将来AIに代替されるという研究もあります。

本来、AIの高性能は人間の生活を大いに豊かにすることができます。
使い道を間違えず、AIの利用によって生まれた利益を広く分配することができれば、です。
技術の問題ではなく、思想や政治の問題なのです。

2013年にフランスで刊行され大ベストセラーになった経済書「21世紀の資本」によれば、欧米先進国では長期にわたって「資本が生む収益率」が「労働から得る収入の伸び」を上回ってきたといいます。

徒手空拳で働いて豊かになろうとしても追いつかない可能性が高く、生まれつき株式や不動産という銀の匙を口にくわえて生まれてきた者がより豊かになっていく社会だったということです。
格差は開いていく一方なのが資本主義社会の常ということになります。

ただし、例外的に格差が縮小していった時期があります。
2度の世界大戦の期間、および第2次世界大戦後の冷戦期です。

2度の世界大戦で欧州は荒れ果て、従前の支配階級が没落したことで格差は縮小します。
そして冷戦期は、共産主義体制との冷たい戦いに勝ち抜くため、国民の福祉や社会保障を充実させることで格差縮小の動きが継続しました。
上層だけでなく、人間全般を大切にする理由があったのです。

いま世界はCOVID-19との戦争を遂行しています。
この戦争は、ふたたび人間全般を大切にするきっかけとなるでしょうか。

もし、人間よりも性能が高く、力が強く、病気にかからず、メンテナンス費用が人の給料よりも安く、何なら空も飛べるようなものが、さまざまな産業やサービスの場面個々に適応する形で開発されていくとしたら……?

資本が人間に対して倫理的にふるまうかどうか、これははまさに思想や政治の問題です。
みなが自分事として考え、さまざまな場面や投票で意思を表明していく必要があります。

同時に、この「資本が一人勝ちする可能性」こそが、筆者ができる限り多くの人が投資をしてほしいと考え、本稿を執筆した理由でもあります。

3.不安と絶望の淵から始めよう、未来のための長期投資

こどもたちは皆、期待していた
少なくとも親と同じ程度の人生は送れるだろうってね
だけど、そうなる前に何かが起こった
大人になった僕らの顔に米国旗が投げつけられたんだ
 ――ビリー・ジョエル「アレンタウン」

①将来の支出は「不確実」、だから確実に備えるのがむずかしい

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個人投資家にとっての投資とは、手元の資金を増やすために何かの物や証券を購入して、その価値が上がったところで売却するという一連の行動です。

一個人の人生における投資の意味、と言うとその内容はだいぶ変わってきます。

結論から言うと、個人にとっての投資の意味とは
「将来の不確実な支出に対する資金を、給料や事業収入からの貯蓄のみで手当てできるかどうかは、経済状況や物価、価値観の変動などに大きく左右されるので、事前にはわからない。
なので、経済状況や物価、価値観の変動によって価値が増加する可能性が高いという根拠のある物や証券を購入すること、つまり投資することで将来の不確実な支出に対応する」

ことです。

かみ砕いていきます。
一般的な個人のお金の使い道はこんな感じかと思います。

①生活費:食事、衣服、光熱費・住宅費
②楽しみ(遊興費):旅行、映画、美味しいものを食べる、友達や
 彼氏彼女、家族で楽しむ
③大きな出費:車を買う、結婚する、家を買う、子供の教育費、
 独立事業の資金、親の介護・葬祭費
④老後資金:年金だけでは足りないので、生活資金をためておく必要がある

この4分類のうち注意が必要なのは③④です。
「遠い未来に使う or 使いたいお金」なのですが、これらは「いくら必要なのか」を事前にきちんと把握しようとしている人は少ないし、実際にいくら必要になるのかも事前には正確にわからないお金です。

住宅購入を例にとります。

若い方が将来の住宅購入を考える場合、まずどんな家族構成になるかもわかりません。
土地の値段や建築資材、人件費などがたとえば10年後、どうなっているかもまったくわからないので、家がいくらで買えるかもわかりません。
いまの値段はわかりますが、10年後に自分の住みたい場所がどこなのか、どんな家に住みたいのかが想像つかない以上、家がいくらになるかは本当にはわからないわけです。

現在の住宅価格を延長して想像することはできるように思えますが、それは日本がマイルドデフレ~ディスインフレの状態が長く続いたため、不動産に深くコミットしている人以外には住宅価格の変動を実感を持って想像することができなくなっているだけといえます。

自分の収入も実際には想像がつかないものです。
病気や家庭の事情などが自分には決して降りかからないと誰が言えるでしょう。
何が大事で何が不要かという自分の価値観がどうなっているかもわからなければ、世間の価値観が変わったり、たとえばAIやロボットのような技術革新や経済状況の変化でも、世の中の仕事や給料が激変します。
自分の20年後を正しく予測できる人はほぼ皆無ではないでしょうか。。

このような未来の支出を「不確実な支出」と呼ぶことにします。

こどもの教育資金を考えてみましょう。
日本はこの20年間経済が低迷して物価が上がりませんでしたが、教育費は上昇の一途でした。
私立学校はもちろん、国公立大学もその存在理由を考えれば暴騰と言ってもよいでしょう。

1996年、いまから24年前の国立大学の授業料は38万4,089円でした。
これが20年後の2016年になると53万5,800円、なんと1.4倍になっていました。
4年分にすると60万円も上がりました。

1996年にこどもの教育費を貯蓄しようと考え、38万円×4年分のつもりでコツコツ貯蓄していても大幅に不足していたわけです。
こどもの教育費はケチるわけにはいかないので、その分のしわ寄せが何らかの支出を削ります。

大事をとって多めに貯蓄していけばよいのかというと……
将来に向けて備えておく必要があるのは教育費だけではないので、あれこれ余裕を見ていくと日常生活に支障が出かねません。
結果、日本の多くの家計が老後資金の不足を見ないようにしているのが現状です。

ここで、「不確実な支出」を用意するために「結果が不確実な投資」を割り当てるという考え方が出てきます。

②「不確実な支出」を用意するために「結果が不確実な投資」を割り当てる

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ここで「物価」のお話をします。

日本ではこの二十数年を眺めると、物価はほぼ横ばいです。
近年ようやくわずかにプラスになってきました。

ところが、働き盛りの30代~40代の給料は前の世代、さらにその前の世代より平均で非常に少なくなっています。
収入が減っているので、実質的には前の世代より物価が重くのしかかっていることになります。
現役世代に親の世代より生活レベルが下がっていると感じている人が多いのはこういうわけです。

給料が少なくなっている原因はさまざま考えられますが、その1つに、世界的な「企業が給料を減らして株主に渡すようになっている」という大きな流れがあります。

これを裏返すと、株主になれば、減らされた給料からのいくぶんかを受け取れるということになるわけです。

ここに投資の重要性があります。
儲かっている企業に投資をすると、減っている自分の収入をいくぶんか補うことができます。

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経済活動の中で、僕たち個人が企業・国と行うお金の受け渡しを図にしてみました。
まず個人から出ている「支出」と、個人に入ってくる「収入」を合わせて見てみます。

「支出」は個人の価値観や生活スタイルの変化によって変動し、特に先ほど説明したインフレや実質的な給料減によって増える可能性がある不確実なものなので、先が広がった矢印になっています。

「収入」は給料や社会保障・預金の利息などで、給料はすこしずつ増えていく可能性がありますが不測の変動は少ないので、幅が一定の矢印です。
給料が確実かつ潤沢に上がっていく方にはこの話は必要ないので、ここでは省きます。

支出は先広がりで収入は一定。
これでは将来的に釣り合いが取れなくなる可能性があります。
収入の一定さが支出の変動を制限する、要はどこかで我慢やあきらめを強いられるという言い方もできるでしょう。

ここで「投資」を取り入れてみます。
「投資」という形で一定の資金を経済活動に注ぎ込むことで、受け取る成果が「収益」の矢印です。
投資とは増える可能性が高い資産を購入することなので、その収益は先広がりです。

このように経済活動を通じた支払いと受け取りを長期的に釣り合わせることが、個人の人生における投資の目的であるということができます。

個人からみて、経済活動という現象のいわばマイナス面を「不確実な支出」という形で受け、プラス面を「不確実な投資の成果」という形で受け取ることになります。
投資を「しないという選択」は、実は経済活動のマイナス面だけを受け取りプラス面を受け取らないという選択を事実上、していることになるわけです。

実家が石油王だったり、気力体力とも満点で給料も確実に上昇一途疑問の余地なしという方。
あるいは逆にほうれん草のゆで汁をすすって生きていくレベルの吝嗇家であれば、中流レベルの「将来の不確実な支出」があろうととくに問題はありません。

しかし一般庶民は、「将来の不確実な支出」には「結果が不確実な投資」を割り当てることでしか十全な対応はできないのです。
なので筆者は、なるべく多くのつつましく生きる方々に、勇気をもって投資をしてほしいと思っています。

いわゆるALM(Assey Liability Management)の考え方を個人に応用してみました。

③「資本が一人勝ちする世界」を生きるための「保険」として

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先ほど、人間の弱さと「高さ」、AI・ロボット・ドローンの強さと「安さ」についてふれました。

AI・ロボット・ドローンという「死なない、人権を認める必要のない労働力」を求める資本の動きが、COVID-19が浮き彫りにした人間の弱さと「高さ」を受けて、より強まるかもしれないというお話です。
資本=株主がより頑丈で高性能な労働力が生む利益を独占し、人間の労働力が安くなっていく可能性があります。

この分野の開発・推進で重きを占めるIT巨人(アップル・マイクロソフト・グーグル・アマゾン・テンセント・アリババ)は、アメリカと中国が独占しています。
人権意識が高く、かつこれらIT巨人を擁していないEUは規制の網をかけていますが、日本ではその動きは鈍いものです。

テクノロジーの進展は人間の生活をよりよくすることに疑いはありません。
筆者の日常生活も大いにIT巨人のビジネスから恩恵を受けています。

問題は、テクノロジーの発展から生まれる利益が一部に独占されてしまうことです。
本来はそこに政治の役割があります。
ただし米中が受益者であるため、「21世紀の資本」の著者トマ・ピケティが唱える、国際協調による課税(世界共通の国際法人税)・富の再分配が行われる未来は現状では望み薄です。

となれば……
労働者が安くなり、資本が利益を大いに吸い上げる世界が来ることに備えて、一般市民も株主・資本家の面を持つ必要があります。
つまり、これは保険です。

投資が収益をあげるには時間がかかります。
掛け捨ての生命保険のつもりで投資=株主資本を積み立てていくことが、自分の労働力が買い叩かれていく未来に対する保険になるのです。

なんだかとてもつらい意味合いを持った保険となりますが、本来保険というのは「自分では備えられない不測の事故・事態」に少額で備えるためのものなので、そういうものかと飲み込んでいただければと思います。

4.目下の投資環境と考え方:われわれは勝利するためにここから行くのだ

時に厳格に、時に柔軟に
兵士の原理原則にのっとり最善を尽くせ
指揮系統を遵守せよ
われわれは勝利するためにここに来たのだ
 ―― 「進撃の巨人」エルヴィン・スミス

COVID-19が現在進行形でショックを与えている経済がどのように再起動するのか。
それに先立って株式市場は、V字やU字を描いて回復するのか、L字型の低迷に陥るのか。

さまざまな意見が乱立していますが、結局のところ将来のことはわかりません。
仮に未来を言い当てている意見があったとしても、それを僕たちが選べるとは限りません。
つまり特定のシナリオに基づいて長期投資を行うことは、原理的にわからないことをわかったように錯覚して資金を投下するギャンブルになってしまいます。

現状の延長から考えられるシナリオを複数検討し、それらをすべて考慮に入れた「基本ポートフォリオ」を決めるのが得策です。

基本ポートフォリオに定期的な資金追加・リバランスを行いながら、想定のなかからとくに逸脱の大きいシナリオが発動した時に基本ポートフォリオを外れる行動プラン=「逸脱プラン」を立てておくと、感情に流されず収益を大きくすることができます。

①シナリオの前提を確認:COVID-19の収束までの道のりは株式市場にどのような影響を及ぼすか?

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世界経済の2020年GDP成長率がサブプライムバブル崩壊の2008年を超える大幅なマイナス成長になることと、これに対応した過去最大規模の政策の内容までは株価に織り込まれているようです。

企業収益の減少は今年、来年にとどまる見込みとなっています。
となれば、今後株価が大幅に下がることを期待するのは合理的ではありません。

株価は、その株式を長期的に保有することで得られる配当金の大きさを勘案して決まってくる(と考えられている)ので、1年やそこらの不景気の間配当が削減されても、長期投資にはさして大きな影響はないのです。

問題は、社会的距離政策が長期化することで企業の収益力がはげ落ちてしまい、長期にわたって戻らなくなってしまうことです。

たとえば……
高齢の熟練職人が、COVID-19の影響で長期にわたって続くだろう給与削減にやる気をなくし、若手に高等技術を伝授する前に引退してしまったとするとどうでしょう。
その企業が同程度の技量の職人を外部から雇えない限り、生産性がはげ落ちて戻らないことになります。

現代では、1つの物やサービスを提供するにも細かい分業の末に最終的な商品が成り立っています。
分業先の1企業の倒産によりその商品が長期間提供できなくなるような場合もあります。

世界のいたるところでこのような小さな事例が数限りなく起こっていくと、企業部門全般の収益力が長期間にわたって落ちてしまうことがあり得ます。
そうなると配当の長期削減が予想されるので、株価はずるずると下がっていくことになります。
COVID-19の収束に大きく左右されるので、現時点ではどうなるかわかりません。

そして、株価には長期的な配当以外にもう1つ大きな要素があります。
投資家のマインドです。

企業収益の大幅減が起こりそうになると、投資家の強欲がそがれて株価の下落に拍車がかかります。
恐怖に駆られて売る人、さらに安く買いたたこうとする人が入り乱れて株価は滝を転げ落ちていきます。
逆に企業収益の減少が短期・小幅にとどまる予想がつくと、投資家の強欲は勢いを増し株価は急上昇するでしょう。

本来、僕たちが生きる現実の経済に比べて株価は短期的に大きくぶれますし、往々にして常識的な物差しと逆方向に走るのをたびたび見ると虚無的な気持ちになるので、いちいち気にしても仕方ないものです。

ただし事前に行動プランを作っておくことで、「投資家の恐怖による株価墜落」といったチャンスでしこたま買い込み、利益を増幅することが可能になります。
プロの市場関係者やトレーダーでもない限り、事前に行動プランを立てず臨機応変に株式市場で売買して儲けることはムリです。

②想定できる3つのシナリオ:デフレ・スタグフレ・バブル

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この1か月で出そろってきた今後の想定シナリオは以下の3つに集約できます。
どれがメインでどれがサブかもわかりませんが、すべて抑えたうえで基本ポートフォリオを検討していきます。

・シナリオ①:デフレーション
経済不振が長期にわたって続くバッドシナリオです。
一般個人投資家が投資できる資産のなかでは、国債が最も有利になります。

実体経済の不振が表面化・長期化して需要が完全に停滞し物価が下落(デフレーション)。
米国ハイイールド債券や欧州国債・新興国国債などの金融システムにも一部波及して、投資家・企業のバランスシートが大きく毀損する展開に。
企業収益が長期的に損なわれ、投資家のマインドも履歴効果により極めて低調となり株価は大幅に下落します。

・シナリオ②:スタグフレーション
経済不振(スタッグ)に物価上昇(インフレーション)が重なる、生活者にとっても投資家にとっても最悪のシナリオです。
1970年代~80年代前半にアメリカを苦しめました。
今回は、社会的距離政策が長期化することで製造業・農業の供給力が低下することにより悪性インフレが起きる可能性が懸念されています。
一般個人投資家が投資できる資産のなかではゴールドが比較的有利になります。

・シナリオ③:バブル
現状の不安な心理や、実体経済に降りかかる地獄のようなニュースの中ではにわかに信じがたいのですが、年内にCOVID-19収束で一区切りがつきワクチン・治療薬の光明が見え、出口戦略が立てばあり得るシナリオと言われています。

世界経済に注入されている巨額のCOVID-19対策マネーが来年から経済の過熱をひき起こせば、民間企業債務やレバレッジドローンはさらに膨れ上がり、数年後に循環による景気後退が起きたときに爆散する可能性があります。

③3つのシナリオをふまえた投資戦略:全天候型ポートフォリオと逸脱プラン

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3つのシナリオのうちどれが来る可能性が高いか、現時点では何とも言えません。
なのですなおに3シナリオのそれぞれから生じるリスクを分散・緩和できるように資産を割り振った「全天候型ポートフォリオ」を基本ポートフォリオとします。

全天候型ポートフォリオは、巨額を運用し世界の投資家の耳目を集め続ける上昇ヘッジファンド・ブリッジウォーターアソシエイツの総帥レイ・ダリオが提唱するものです。
ブリッジウォーターは今回のCOVID-19ショックで大損を出したことがニュースとなりましたが、一般個人投資家がETFや投資信託を用いて長期投資をする際には特に気にしなくて大丈夫です。

全天候型ポートフォリオを株式・債券・ゴールドで構成してみます。
長年の歴史を通じて計測されてきたそれぞれのリスク(価格が動く幅)を勘案し、リスクが大体等しくなるような割合で保有します。
結果、経済がどう動いても極端な大損はしないマイルドなポートフォリオとなるわけです。

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低コストの全世界株式ファンド30%・先進国国債ファンド60%・ゴールドファンド10%を保有すると、レイ・ダリオが提唱する全天候型ポートフォリオに近くなります。

例としてバブルシナリオを検討してみます。
全天候型ポートフォリオを「基本」、株式100%ポートフォリオを「強気」として比較しました。

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バブルシナリオで、株式+100%(2倍)・債券-20%・ゴールド0%というように価格が動いたとします。

バブル期の基本ポートフォリオは総資産を18%成長させました。
強気ポートフォリオは株式の身なので100%成長、つまり2倍です。
その間に得られた労働収入から、各資産につき資金を20%追加しました。

ここでバブルが爆散し、資産価格が現在の水準まで戻るとどうなるでしょうか。

強気ポートフォリオは資産を半分に減らしますが、基本ポートフォリオは検討し総資産は強気を上回ります。
しかも債券・ゴールドを保有しているので、この先株式の再下落があった際に買いを入れることでリターンを増幅させることができます。
全天候型ポートフォリオは防衛力があり、運用の自由度も高いわけです。

ここで「逸脱プラン」を策定する必要が出てきます。
全天候型ポートフォリオは防衛力が高い分、大きく伸びることもないからです。

債券投資の長期的な成績は、購入した当時の金利に大きく左右されることがわかっています。
世界中の債券の金利がほぼすり減り切っているいま、債券ファンドを買っても長期的には儲かりません。

ただし、株式が大きく下落した際の反発力は今回のCOVID-19ショックでも大いに示されました。
全天候型ポートフォリオは債券のこの特性を生かした、「株式が大幅下落した際に債券を売って株式に換える」逸脱プランありきでワークする戦略なのです。

そこで、株式が大きく下げた際に債券とゴールドを売り、株式を増やす行動プランを事前に策定しておくことにしましょう。
何の株や投資信託・ETFを買うか、市場がどうなった時に買うか、株価の評価(バリュエーション)がどうなった時に買うか……

株式市場を目を皿のようにして観察していると、雰囲気にのまれた売買となり往々にして失敗します。
ぜひ、行動プランを明文化しておいてください。

事前に作成したプランが完全に正しいということもないですが、行動しながら修正しよりよいプランとしていく方が現実的です。

④逸脱プランのヒント

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具体的な行動プランは、投資家それぞれが自分のリスク耐性や強欲度と対話しながら作っていくことになります。
ここでは現在の株式市場と投資商品にまつわるざっくりとしたヒントを書いておきます。

前提とするシナリオのうち、①デフレシナリオ・②スタグフレシナリオに入って世界の株式市場が不振になったときに、株式の評価(バリュエーション)を見ながら債券やゴールドを少しずつ売って、株式に換えていきます。
PBRやPER、あるいはCAPEなどの指標の長期データを見て、株式が割安に進むごとに買い増していくと長期的に割安が解消されていくことで利益を増幅できます。

日本株式は、これまでCOVID-19感染を比較的抑えられていたので世界株式に比べて下落がマイルドになっています。
ROE向上を旗頭に掲げたここ数年で、日本企業の収益力は2000年代に比べかなり向上してきた面もあり、日本人が思っているほど悲観する必要はありません。
もう少し下げてから買いに入りたいところです。

米国株式はまだ割安水準とはいえません。
米国経済にはCOVID-19ショック以前から景気後退の兆候が見えていたので、デフレ・スタグフレシナリオに突入すれば米国株式は大きく崩壊する可能性があります。
米国株式CAPEの長期平均は16倍ですが、近年は金利低下により20倍程度を平均とみなすべきという論者もいます。
現在のCAPEは25倍近辺です。

新興国株式は割安に放置されており妙味があります。
ただしCOVID-19の収束状況や為替の動きなどによって、大規模な債務危機が起こる可能性が懸念されています。
時期を分散して買うのが望ましいです。

割安の時期に買いを入れる際には、国別以外にもスタイルや業種でくくった投資商品もねらい目です。
時価総額が小さい割安株式に多く投資する投資信託や、経済停滞による需要低迷と過剰生産がたたっているエネルギーセクターのETFはたたき売り状態となっています。

幅広い資産・商品について逸脱プランを考えておくと買い逃しがなく、分散の効果でポートフォリオ全体の値動きもマイルドになります。
ゴールデンウィークの空き時間を活かして、ぜひ検討してみてください。

5.最後に:僕たちは、より合理的により狡猾になる必要がある

花のない桜を見上げて
満開の日を想ったことはあったか?
想像しなきゃ夢は見られない
心の窓
―― 欅坂46「二人セゾン」

新型コロナウイルスCOVID-19が、僕たち生活者における中流層や貧しい層、そして若者により痛烈な打撃を与えるグルーミーな展開を予想しています。
使い古された言葉ですが、格差の拡大です。

元から関心のあることに引き寄せて考えてしまう心のバイアスのせいかもしれません。
僕が間違えていて、杞憂に終われば万々歳です。

僕は本来、投資による資産形成が必要な人ほど、投資にあまり興味をもつことがなく、基礎的な知識が届いていないと感じてきました。

今回、半ば火事場泥棒的なやり方かもしれませんが、COVID-19がもたらす経済的な帰結とそれへの対処について、どうしても伝えたいことを書きました。

幸いなことに、ここ十数年で確立されてきた長期・低コスト・世界分散投資はアフターCOVID-19の世界がハッピーなものになったとしてもきちんと機能するはずの、経済的な理に基づいています。

僕の予想が外れたとしても、真に受けて投資を始めた方が失望する可能性は低いです。
少しでもこの文章があなたの心に投資マインドを吹き込むことができたとしたら、ぜひはじめてみてください。

今回は分量が多くなったこともあり、投資手段の詳細については割愛しています。
詳しく知りたい方は、僕のブログ書籍をごらんいただければ幸いです。

実のところ、そして常に、投資より大事なのは、日々のお仕事です。
そして今回は、仕事以前にいのちを守ることが加わっています。

1995年に世に問われた「新時代の『日本的経営』」という1つの声明から雇用の劣化が始まりました。

古くから船乗りや漁師の間で語られる「板子一枚下は地獄」ということわざがあります。
船の底板一枚の下は海、落ちたらおしまいです。
ただ、この言い回しには船乗りや漁師の覚悟や矜持、そして連帯感がにじんでもいるようにも思えます。

時を経て令和のいま、へたをすると3割くらいの人が「板子一枚下は地獄」の状況に置かれてしまっているように感じます。
望まない非正規雇用の拡大、そして実質給与の一貫した低下がこの状況を生んでいます。

これが「新時代の『日本的経営』」です。

その中で、僕たちがかつての船乗りや漁師が抱いていたような覚悟や矜持、連帯感をもって生きるためにできること、とは何か?

その僕なりの答えが、「資本を監視しながら、資本と手を結ぶ」ことです。
右手で資本を僕たちの内側に取り込みながら、左手で資本に規制の輪をかけるのです。

僕たちは、より合理的により狡猾になる必要があります。
その第一歩が、証券会社に口座を開き、投資信託をコツコツ買い付けていくことなのです。
つまらなく感じるかもしれませんが、それが災厄のただなかにある平坦な戦場のリアルです。

桜の花を見上げることのなかったこの春から始めよう。
いずれ桜の満開の下で、集まろう。


個人投資ジャーナリスト
日野秀規
https://kujiraya.jp/blog


参考文献
Economics in the Time of Covid-19: The economic impact on Asia
https://www.rieti.go.jp/en/events/20032401/pdf/02_fuji.pdf

Coronavirus tracked: the latest figures as the pandemic spreads | Free to read
https://www.ft.com/coronavirus-latest

新型コロナの免疫とワクチンの話をしよう 免疫学の第一人者・宮坂先生にお尋ねしました
https://news.yahoo.co.jp/byline/kimuramasato/20200328-00170083/

「人造ウイルスが米国から来たとは科学的に考えにくい」新型コロナの免疫とワクチンの話をしよう
https://news.yahoo.co.jp/byline/kimuramasato/20200329-00170179/

COVID-19 について
http://minato.sip21c.org/COVID-19-J.pdf

How the Pandemic Will End
https://www.theatlantic.com/health/archive/2020/03/how-will-coronavirus-end/608719/

COVID-19情報共有 — COVID19-Information sharing
https://www.fttsus.jp/covinfo/#Tokyo

歴史は繰り返す? 第二次グローバル化の未来
http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/bgc/KeitaShibayama_bgc_2013.pdf

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