小泊は、太宰にとって育ての母のような存在だった越野タケが嫁いだ地であり、小説「津軽」の山場で30年振りにタケとの感動的な再会を果たす場所です。
母性を求めて津軽を旅した太宰は、「私は虚飾を行わなかった。読者をだましはしなかった。さらば読者よ、命あらばまた他日」と、この地で小説を結びます。
でも、実際の再会は、小説よりもずっとあっさりと、二言三言、言葉を交わした程度だった、と地元の人に教わり、「それって虚飾じゃん」とSが笑います。
「そんな虚実ない交ぜな感じが、太宰なのです」と、私は、弁護します。「津軽」の単行本だけカバンに突っ込んで旅した私たちの旅も、ここで終わります。