街路樹の下を選びながら歩いていた。「秋ハ夏ト同時ニヤッテ来ル」といっていた太宰の言葉を思い出しながら。戦前の小説でさえ、そんなことをいっていた。
「夏の中に、秋がこっそり隠れて、もはや来ているのであるが、人は、炎熱にだまされて、それを見破ることが出来ぬ」と。
そういえば、いつの間にかセミの声を聞かなくなった。鳴き始めにはそれと気付いた季節の変わり目も、鳴き終わりにはいつの間にか忍び込んできていた。
人はどうか。むしろ逆のような気もする。「誰かのことを、こんな風にいつの間にか忘れ去れればいいのに」。そんなことを思って、街路樹の下を歩いていた。