三島についての私の認識は、次のようなものでした。「行ってみれば、良い土地かもしれない。だけど、わざわざ行く土地でもない」。
せみ時雨の下、私たちは、その三島を歩いています。水辺の文学碑というルートに並ぶ幾つかの碑の中に、太宰の「老ハイデルベルヒ」のそれもありました。
「三島は取残された、美しい町であります。町中を水量たっぷりの澄んだ小川が、それこそ蜘蛛の巣のように縦横無尽に残る隈なく駈けめぐり…」。
その碑に描かれた情景と同じ水の流れが、今ここにある。そのことに驚きました。その流れは、今もまことに清れつでした。