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寅さん(男はつらいよ)


※2022年5月に公式LINEにて配信されたコラムを編集し再掲したものです。


親愛なる友だちへ、ひねもです。

先日、柴又に行ってきた。

1日乗り放題の”下町日和きっぷ”を使って。

柴又駅に到着

寅さんの銅像
”BLUES宣言/マンホール”裏ジャケの真似。




まずはお昼ご飯。

せっかく来たので鰻を食べようかとも思うが、さくらが結婚披露宴をした”川甚”は閉店してしまったし

帝釈天参道にあるお店は観光地価格だろうしなぁ、、、と思って駅反対側の古き良きな佇まいの蕎麦屋で昼食。

たぬき蕎麦

濃くて美味かった。
青菜の茹で加減が抜群で特に良かった。



帝釈天参道へ。

渥美清さんの常夜燈

この近くの駄菓子屋でなんとピンボールマシーンを発見。

僕はジョージ・ルーカス監督の“アメリカングラフィティ”という映画が好きで

劇中でファラオ団という不良グループが溜まり場にしている場所にピンボールマシーンがたくさんある。

このシーンを見るたびにピンボールをやりたいなーと思うのだけど今時のゲームセンターには全然置いてないのだ。

ピンボールの全盛期は1930-1970年くらいらしいので、そりゃ半世紀以上前の筐体なんて無くて当たり前なのだけど。。

アメリカングラフィティの世界は1962年だからたくさんあるけど、2022年の東京ではまず見かけない。

本体がずんぐりとデカいところや、映像に頼らない立体的なオブジェクトの数々や、ド派手な照明などが”永遠に失われた古き良きアメリカ”って感じがして愛おしい。

...さらに話しは逸れますがアメリカングラフィティで一番オシャレなのはテリーだと思う。


話しは本編に戻って帝釈天参道で初期寅さんの撮影で使われた”門前とらや”でお団子を頂く。

焼き草団子

名物は皆さんご存知の餡子たっぷりの草団子なのですが、甘い物はあまり得意ではないので醤油で焼いて刻み海苔をまぶしたのを食べた。

とても美味しかったし、名物の団子&コーヒーと温かいお茶までもらってお会計は570円とお安い。

きっと観光地価格だろうなぁ...と思っててすみませんでした。

ちなみに作品に馴染み深いのはもう少し奥にある”高木屋老舗”の方である。

しかし高木屋さんはデパートや駅ナカの催事場とかでたまに売っていて何度か買った事があったので今回はとらやさんに立ち寄りました。

ちなみにとらやさんは寅さんがヒットしたので店名を”柴又屋”から劇中に登場する”とらや”に改名するという経緯がある。

このお店が”とらや”に改名したから映画側は店名を”くるまや”に変えた。

”とらやの寅さん”ってとても語呂が良かったのになあと...思う。

熱心なファンでない限り帝釈天参道で”とらや”を見たら“ここがあの寅さんのとらやさん!”となってしまうのは仕方ない。

初期の数作だけだけど実際に撮影に使われてるから聖地のひとつには間違いないし。

この辺りは複雑な何かがありそうだ。

実際に訪れた”とらや”は店員さんはテキパキしてるし値段も安いし美味しいし初期の階段も見れて僕は満足した。


そもそもガチ寅さんファンは草団子を食べるのだろうか。

映画の中で寅さんは”団子なんてつまらないものだ!“って悪口を言ったりしてるし。

それはもちろん江戸っ子の愛情の裏返しなんだけど。

人情映画ではあるけど実家の商売物である草団子を食べてしみじみ美味いなあ...なんてシーンは寅さんにはなかったと思う。

そうして一服したあとは寅さん記念館へ。


下町日和切符の特典で入館料を割引してもらえた。


入ると映画全作品で使われたあのお茶の間が目の前に!

これには興奮した。

とても狭くてビックリした。

映画のセットなので実際の建築物より間取りなどを広く作ってあると思っていた。

テーブルも僕の家の食卓とさほど変わらないサイズ。

ここでおいちゃんおばちゃん、博とさくらと満男に寅さんでたくさん食器を並べて賑やかに食事してたのか...と思うと感慨深い。

本当に昭和の家庭そのままだ。

だからあの空気感が生まれたのだなあと。

オカズは大皿から各々で取るスタイル。

ちなみに寅さんの好物は”里芋の煮っ転がし”と”がんもどきの煮たの”とかなりシブい。

嫌いな食べ物は鰻、天ぷら、ナルト、らっきょうだとか。

言われてみればラーメンを食べながらナルトを箸で弾くシーンがあった気がする。


館内を進むと何十回も画面越しに見たあの階段が目の前に。

これもファンにはたまらない。

その他様々な小道具も見れる。


ラストは歴代のマドンナに見送られて。

皆さんは誰が一番好きですか?

寅さんとの相性で見るのか、演技で見るのか、自分がタイプなのか。

何を基準にどう選ぶのか難しいとこです。

僕は

ベストマッチはやっぱりリリー(浅丘ルリ子)だなあと思う。


演技で選ぶと花子ちゃん(榊原るみ)

個人的な好みで言うと幼馴染の”お千代坊”こと千代さん(八千草薫)が良い。亀戸天神での別れが切ない。

あとは早苗ちゃん(大原麗子)も好きだ。可憐さがたまらない。

艶のある声でたまらない。
映画を見終わったあとYouTubeで大原さんを検索してしまった。

こうした大物女優の方たちの全盛期を僕は寅さんを見るまであまりよく知らなかった。

吉永小百合さんとかキャンディーズの蘭ちゃんとか。

失礼ですが一昔前のスターってイメージしかなくて。

男はつらいよを見てそりゃ大人気なワケだ!と再確認したのです。




寅さんのトランク


究極のミニマリスト。

このカバンひとつで日本中どこへでも。

今だったらアプリがあるので目覚まし時計も時刻表も易断も要らないからもっと身軽に旅出来るだろう。

でも寅さんがスマートフォンを使ってる姿は想像がつかないけど。

作中で時代が進んでも頑なに連絡は公衆電話orハガキだったし。




...そう、寅さんは時代が進むんだよね。

ストーリー構成は同じなんだけど時代は進む。

そこがドラえもんとかサザエさんとか、クレヨンしんちゃんやこち亀とは違うところ。 


寅さんはしっかり歳をとっていく。




ここが大事なところ。

だからこそ全てのシーンが際立つというか。




人情映画だから観ているとついつい

”昭和はよかったなあ”

または

“良い時代だったんだろうな”

という印象を抱いてしまうけど、山田洋次監督はそういった失われゆく時代を切り取る、もしくはその風景を映像に残そうと意図的にそっちの方向にもっていってるのです。

そこは勘違いしてはいけないところ。




作品毎に時事ネタや時代背景が入っているのも良い。

あとは大きな魅力なのは最高の”ロードムービー”であるところ。

寅さんは”テキ屋”という商売だから日本中を旅して回るわけなんだけどその時代の各地の景色や祭りがたくさん映っている。

建物や食べ物、ファッションとか。

未来の人たちにとって過去の人々の暮らしを知る第一級の資料になることは間違いない。

そういった意味でも貴重な作品だと思う。




音楽でいうところのラモーンズと同じで寅さんは”偉大なる反復”であると思う。

ラモーンズもシンプルで、どこを切っても金太郎飴みたいにずっと同じって思っちゃうけど作品毎に雰囲気や音はけっこう違う。

なんでも長く続いてるものはそうだと思うけど。

老舗の飲食店とかも”変わらない”を売りにしているようでいて時代に合わせて色々と味を変化させているらしいし。

ベビースターラーメンとかも時代のニーズに合わせてずっと味を微調整しているらしい。

“不変”というイメージをこちらが勝手に抱いてるだけで。

なんでもアップデートは必要不可欠。

柔軟に変化していくけど核はしっかりある。

確立していくことと不変はちょっと意味が違う。




僕は短い期間に集中して一作目から順番にたくさん“男はつらいよ”を観た。

そうすると、ある時期から寅さんが“神様”みたいになっていくんだよね。

いや神様という言葉はしっくりこないのだけど。。

でも最初からカリスマだからカリスマ化したわけでもない。

誰しもが共感できるかわからないけれど、創作物でストーリーが進んでいく中で登場キャラクターが作者の手を離れてまるで勝手に動き出してるように感じる事がある。

その感覚にも似ている。

”寅さん”という確立されたキャラクターは最初からずっと変わらずにあるのだけど、どんどん圧倒的になっていって、剣聖とか棋聖などの言葉の感覚で”聖人”になっていく。

崇拝の対象ではないから“聖人”もニュアンスは違うんだけど。

他の言葉を使うならば“ゾーン”に入ってるとでも言えばいいのか。


そこからはもうひたすらすごい瞬間が何作品も続く。

しかし寅さんは作品毎にきちんと歳をとるから老いていく。

寅さんを演じた渥美清さんの体調が悪くなって撮影が難しくなっていく。

そうすると周りの人々がリカバリーに回って他の要素ができ、また違う魅力が産まれていく。

これは1人の俳優が主演を務めて長く続いた作品ならではの素晴らしさ。

こうした映画シリーズは寅さんだけ。

ギネスにも認定されている。

ジェームスボンドは何人もいるからね。



そして寅さんが人情映画として奥行きがあるのはバックストーリーが複雑だから。

寅さんの生い立ちは複雑。

妹のさくらは腹違い。

兄もいたが亡くなっている。

面倒をみてくれてるおいちゃんとおばちゃんには子どもがいたが戦争で亡くしている。

寅さんが家出をしてフーテンになってしまうのは父親が原因。

だけど父親が子どもに辛くあたってしまったのは根っこでは戦争体験が関係している。

さくらの産みの親で寅さんの育ての親である後妻も若くして病死。


それを知るとお茶の間での何気ない食事シーンも

寅さんはおいちゃんおばちゃんの子どもではない。

妹も腹違い。

と、血の繋がりはかなり薄い。

それでも団欒があって温かい。

”家”とか”家族”ってなんだろうと考えさせられてしまう。

“アウトをアウトとしない”って不寛容社会へのメッセージが響く。



寅さんの明るさや面白さ、そして切なさは僕の好きなブルースの”ユウウツはその辺を飛び回ってるんだぜ”って考え方に似ている。

抱え込んでうなだれるのではなく、抱えて笑って水平線まで飛んでいく。


最高の大衆娯楽映画だ。





...まだまだ書きたいけどさすがに長すぎるのでこの辺りで終わります。

オススメだから是非見ろ!というよりはそれぞれが自分の人生を歩む過程でふとしたタイミングで出会って魅力に気付いてもらえたら嬉しいなってそんな映画だと思います。

柴又散歩の話から自然と寅さんへの熱い思いが溢れてしまい、途中から映画紹介になってしまってすいません。

ここまで読んでくれてありがとう。





ブラザー&シスター、最後に39作目の柴又駅での寅さんと甥の満男の大好きなシーンを。


P.S この文章は何日かに分けて書いているのですが、ある日に寅さんファンでもあった上島竜兵さんの突然の訃報が。僕はそれもまた天寿、寿命であるとの考えをもっていますが素直に驚いたし悲しかった。在りし日の姿を偲びつつご冥福をお祈りいたします。

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