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短編

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2023年1月の記事一覧

初恋は今も胸を奏でる

初恋は今も胸を奏でる

 
第四話 自然な形…… 
 
 当時は、竹槍 救護 縫製の指導、監視に交代で近くに駐屯している兵隊が配属されていた。
当然彼等も若き青年達な訳だか、必要最低限の接触以外は出来る状況下ではない。
だが、抑圧されているからこそ想いは募るのだ。それが自然な理なのだ。
昼休み水絵を囲み、笑い合う女学生の姿に、一人、二人と兵士たちも遠巻きに
水絵の歌声を聴きに集まるようなっていた。
そして、淡く切ない恋心

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初恋は今も胸を奏でる

初恋は今も胸を奏でる

第三話 悩める乙女心

「お母さん、またもんぺ縮んだから、なんとかならない?」
「縮んだんじゃないよ、あんたが伸びたの! いい加減止まらないかね~」
「やめて! 伸びてないから!」
水絵は真っ赤になって怒った。
だいたい私が悪い訳じゃないし!と
ぷりぷりする娘を見ながら、母親は肩をすくめ、もんぺと格闘を始めた。
 つい最近身体測定があったのだが、水絵はその結果にかなりショックを受けていた。身長が3

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初恋今も胸を奏でる

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 第二話 苛立つ乙女心
昭和20年4月~6月(当時東京は35区)
 大山水絵の家族は、東京都赤坂区の豊川稲荷の傍に住んでいたが、同年3月の東京大空襲で焼け出され親戚を頼り、家族5人で田舎に疎開をよぎなくされていた。
 都会育ちの水絵は田舎暮らしが馴染めないでいた。
弟ふたりは虫だ!釣りだ!と毎日が楽しくて仕方ないようだが、
一緒に遊ぶ年でもなく東京に帰りたいとそればかり思っていた。
 水絵は地元の

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◆第一話

 六月。
今月で91才になる水絵にも初恋はあった。
たった一日だけの。
いえ! たった数十分の……
その初恋の人は、生涯忘れられない人になってしまった。
 懐かしむ物は何も無い。
すべて灰と化したのだ。
 六月……遣る瀬ない月が今年もくる。
 あの日の事は鮮やかに蘇り、
水絵の心を温めてくれる。
 でも、それと同時にもどかしさと苛立ちと涙を連れてくる月。
 水絵たちの世代は、戦中戦後が

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