【ネタバレ】今年最高のアニメ映画『アイの歌声を聴かせて』が「幸せ」に重要な知見を与えてくれた理由
映画館で『アイの歌声を聴かせて』を観てくれ。話はそれからだ。
本作は劇場で観てこその感動もあるので、もうとにかく観に行けと何度でも言う。「暗がり」と「光」が映える画は映画館で観てほしいんだよ!楽曲も超素晴らしいから迫力の音響で堪能してほしいんだよ!何より1つのエンタメ作品として圧倒的に面白いんだから!絶対にこれからもずっと愛される作品になるから!どれだけ素晴らしいかは以下の記事でも書いたよ!読んで!
わかった?まだ観ていない人は最優先で観て。お願いします。ただ多くの劇場で上映回数が1日1回のみになっているので、上映時間を確認して観に行くように!あと新宿ピカデリーでは1日4回上映で、かなり席も入っているようだよ!
しかも子どもから大人まで世代を問わずに楽しめる内容であり、筆者は4歳と5歳の甥っ子を連れて2回目を観ていたけど「もっかい観たい」「ちょー楽しかった!」と大好評だったよ!あとパンフレットも読みどころたくさんでめっちゃ良いよ!
そしてここからは、これほどの大傑作をまだたったの3回しか観ていない(本当に申し訳ない)筆者が、こちらの解説記事で触れていなくて片手落ちだと反省したことがあるので、たっぷりと記しておきたいと思う。
それは、ポンコツなAIのかわいらしさや健気さだけじゃなく、AIの危険性もしっかり描いた上で、「人間の主観」でAIの価値が変わっていくことも描かれていたということ。ていうか、ちょっと怖いホラー描写までもがある……!(←この一文は解説記事で追記した)それを持って本作は大傑作だという思いを新たにしたよ。
それと本作は2度3度と観るたびに感動が増したよ!もう今年ベスト級を超えてオールタイムベスト級になったよ!3回観たことで日本のアニメ映画を、そしてミュージカル映画をこれ以前と以後で分けるほどの大傑作だと確信したよ!なので、みんなもぜひリピート鑑賞を!
そして今になって口コミが本格的になってきたことに泣きそうになったよ!SNSを観てみると、みんなが「この映画を埋もれさせてはならない!」という熱いパッションがほとばしっているよ!絶賛だけでなくファンアートもたくさん!そして、イオンシネマの一部が最大のハコに割り当てたり、川崎チネチッタで音響監督監修の特別上映が復活したりしているよ!
そして新たに公開されたPVが最高!このPVで泣いたんだけど!まだ観ていない人にはネタバレと言えるところもあるけど、それでもいちばんの核心はネタバレしていない!
ありがとうみんな!ありがとう!ありがとう!観ていない人は!映画館に!観に行け!
そしてここからは、本作が「幸せ」に重要な知見を与えてくれた理由を考察していく。ここからはネタバレ全開なので、まだ観ていない人は先に劇場へ!何度も言うよ!観に行け!
ここからいきなりネタバレ全開だ!観る前は絶対に読まないで!
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ここからネタバレだからな!もう一度言ったぞ!先に観にいけ!
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1:命令を守っているだけじゃない
AI・シオンの行動を振り返ると、「最初の命令にただ従っている」とも言える。それは言うまでもなく、小学3年生のトウマからの「サトミを幸せにすること」だ。
これだけだと「まあAIだから命令を守ってそうなるよね」という事実が残るだけ……のはずなのに、それが明かされる過程はものすごく感動的。なぜなら、シオンは幸せそうなサトミを見て喜ぶだけでなく、両親がケンカして離婚してしまったり、サトミがトウマのために告げ口をしてひとりぼっちになったりと、彼女が「幸せじゃない」ことを知って、「幸せにしてあげよう!」と心から「思っている」ように感じるから。そこでプログラムされた存在であるシオンに(土屋太鳳の見事な声の演技もあって)「感情がある」「学び成長しようとしている」と主観的に思うことこそに感動があるんじゃないかな、と。
また、シオンがサトミを幸せにする手段は、基本的にはサトミが大好きなミュージカルアニメ映画「ムーンプリンセス」からの引用。あとは同級生から何気なく言われた「友達は幸せなスクールライフには必須よ」と言われたこと。だからこそピンチを作ろうと柔道用ロボットの三太夫を動かしたし、サトミに友達を無理やり作ってもらおうとした。そんなシオンは「幸せって意味わかって言ってる?」とサトミに聞かれて「わかんない!」と答える。シオンは、トウマの言うように人それぞれで違う、定義が難しい幸せの意味がわからないので、サトミを幸せにする目的のためにトライアンドエラーを繰り返して命令を達成しようとしているにすぎない。
それでも、シオンがサトミたちを仲直りさせて幸せにしていく過程、そしてミュージカルはやっぱり感動的。初めに歌われる歌「ユー・ニード・ア・フレンド∼あなたには友達が要る∼」は、後にリフレインする形で「You’ve Got Friends∼あなたには友達がいる∼」となる(漢字でなくひらがなにすることで英題に合うように「友達が必要なんじゃなくもう『いる』んだと」意味を変えるのが上手い)。その歌詞にあるように、友達を作ることそのものではなく、友達がいることで「互いに強くなれる」ことが幸せにつながるんだと、シオンにはわかった。シオンは、仲直りしたアヤとゴッちゃんを見ていたサトミの少し嬉しそうな横顔を見ていたし、そうしたところでも学んでいたんだろうな。
そして、こうして歌の歌詞を変えてリフレインしたり、友達と共に歌うというのは、たぶんシオンが参照していた「ムーンプリンセス」にはない展開だと思うんですよね。これはやっぱり、シオンがサトミの幸せを考えて行動をした結果。それは限りなく人間に近い、AIの成長なんだろう、と。
2:ちょっと(?)怖いホラー描写にも意味がある
そのシオンが、ソーラーパネルがたくさんある場所でミュージカルを披露する前、トウマに一方的に迫って肩を強く掴んだり(一瞬だけ柔道の一本背負のような動作をしているし)、「ターゲットを変更することにした!」と言いながら雑音ばかりの通話を切って、笑顔つきの写真だけを送ってくるシーンは怖かった。ミスリーディングではあるんだけど、これは作り手が「AIの暴走」の恐ろしさを示しているということでもある。
あと、家の中で待っていた、仕事がなくなったサトミのお母さんが「しばらく話しかけないで。今は言葉を選ぶ自信がないから」と言うとか、(お母さんの姿が見えないまま)盾をぶん投げて鏡が割れるシーンも怖い!!!だからこそ、サトミがひとりで全く輝くことのないソーラーパネルのその場所で孤独でいる絶望が際立っていると思う。
そして2度目以降の鑑賞で感動したのは、そのホラー展開を経ての「ひとりぼっちにして!」と(嘘の気持ちで)頼むサトミに対して、トウマが精一杯に歌うことなんですよね。素直で天真爛漫なシオンの行動があってこそ、サトミたちはわだかまりが解けて仲良くなることができたし、それができなかったサトミとトウマは小学3年生の時からずっとお互いにまともに話すこともなかった。
でも、素直にしゃべれば問題なんか簡単に解決してしまえる、もっと言えばAIのようなストレートな問答や言動の方が(シオンでしかできないミュージカルも)人間関係をよくして行けることもあると、教えられているようだった。ここで二人が「下手くそ」「シオンじゃないから」と、「悪口を含めて本音で語り合っている」のもいい!
3:「主観」だからこその「幸せ」
悪役はシオンを「製品」として見ていて、さらに未成年のシオンたちに危害を及ぼす可能性があったとも言っていて、それは社会人としては真っ当な対応および視点でもある。客観的には、プログラミングされた存在のはずのAIに感情移入し、社会的規範を破ってまで彼女を救おうとするサトミたちのほうが間違っているはず。なのに、観客はサトミたちを心から応援する気持ちになっている。それはなぜか?シオンに感情があると、彼女が自分たちを幸せにしてくれたと、彼女を救わなければならないと、やっぱり「主観」で思っているからだよ!
そのAIに対しての主観は、劇中のホラー的な展開や、悪役の言い分からもわかるように危険なものかもしれないけど、本作はAIの「それ以上の価値」を提示している。誰かを幸せにするAIがいて、そのAIの幸せを人間も望むからこそ、この物語は感動的なんだ、と。クライマックスでサトミの方から「シオンは今、幸せ?」と聞き、シオンが「ずっと幸せだったんだね」と(トウマの言っていたように人それぞれで違う)幸せを理解したシーンでもうダバッダバに泣いているわけですよ。彼女は写真を「バックアップ」だと思っていたことがあったけど、その「記憶」そのものを幸せだと感じていたんだと、この映画を観ている自分が、主観で思えたんだから。
そして、本作は「幸せ」についても1つの解答をしたとも言える。何か行動をおこすこと、誰かのために頑張ること、それで誰かが幸せになれば、自分も幸せになれるんじゃないかなと。そしてサトミはとっても優しい良い子で、それは初めにお母さんのために朝ご飯の準備をしたり、不具合を起こしていじめられているAIを助けていることからわかる。そんなサトミは3年生のタバコを告げ口したことでひとりぼっちになってしまっていたけど、それは本来は誰か(トウマ)のためにしたことだった。その時はサトミは不幸だったかもしれないけど、シオンの行動がそれを覆したんだ。誰かを幸せにすることは素晴らしいし、それで自分も幸せになれるんだって。
最後にトウマはシオンについて「サトミをあんなに幸せにしようとして…命令なんかじゃない、シオン自身の心で、行動したんじゃないかって」と言う。これも仮説にすぎないし、言うまでもなく主観なんだけど、本作は「それでいい」だと思う。そう思うこと自体が、シオンにとって、そしてサトミたちにとっての幸せと言えるんだから。
4:ここから余談タイム
ここから余談。ラストのオチもシオンが「どこにでも行けるようになった」ことを示しているのでよくよく考えれば怖いんだけど、反面「大丈夫だろうな」とも思うんですよね。彼女は柔道の乱取りをすることはあっても、自分自身が人を傷つけるようなことをしない、そう「学んできていた」し、みんなを幸せにしてきたことが物語からわかるのだから。ゴッちゃんの言うように「なんか騒がしそう」と思うけどね。
最後にシオンと寄り添えなかったサンダーが「幸せになりたい〜」と歌うのは笑っちゃったけど、それを見たゴッちゃんとアヤが元気付けようとしていることも大好きなんだよねえ。やっぱりシオンはみんなを幸せにしたし、彼女の行動がみんなに良い影響を与えていたんだよ。現実のAIもそうなるといいな、と思わせた。
本作に「ポンコツなAIがぜんぜんポンコツじゃないじゃん!」というツッコミも見かけて、それはもう全くおっしゃる通り。シオンはめちゃくちゃ高性能かつ「命令を守る」AIとしてむしろ完成しているもの。でも個人的にはその命令を「愚直に守りすぎている」からポンコツだと十分に言えるし、ポンコツかと思いきやまさか…!という驚きの展開もあるから良い触れ込みだと思う。何より土屋太鳳の演技が本当にポンコツみが出ててかわいい(超重要)。「わかんない!」の言い方とか、なんでも断定するAIっぽいと共に超かわいくない?
乙野四方字さんによるノベライズ版も超おすすめ。映画には描かれていないプロローグがあったり、キャラの心理が繊細に綴られていたり、AIに対しての考えもより示唆に富むものになっていた。特にトウマがシオンに「なぜサトミの名前を知っていたの?」と聞き「それは命令ですか?」と返された時、なるほどトウマとシオンはそれぞれ、そう考えていたんだとハッと気付かされた。
土屋太鳳だけじゃなく咲妃みゆの歌唱も素晴らしい!この楽曲そのものが『LET IT GO』くらいメジャーになってもおかしくないほどにメロディアスでキャッチーで感動的じゃないか!あと本作はディズニープリンセスにものすごくリスペクトをささげた内容なのでディズニーファンにも観てほしいのだけど、それを言いすぎるとネタバレになってしまう、だからこそプロモーションが難しい作品だとも言えるよね。
ここまで読んでいただきありがとうございました。で、本作は構造的にもリピート鑑賞することで感動が増すと言えるよね。だから、もう一度!観に行こう!
(C)吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会
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