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聞こえた振りをした

「同い年のめいって人が会場来てるらしいんだよね」

3月13日ファン同士の繋がり強いことで有名なロックバンドのライブのために横浜アリーナに来ていた。
グッズ販売のために始発で会場に向かい、全身をツアーのグッズに包んだあとはSNSで知り合ったファン友達と落ち合う。
グッズを身につけず開場の時間ギリギリにやって来る大人たちを見ては、数年後に自分もそうなっているとは想像もせず、あんな大人にはなりたく無いと思っていた。

一緒にライブに来ていた相方さとしも例に漏れず、ファン友達と落ち合おうとしていた。

Twitterで募集されていた同い年限定のライングループは度々オフ会が行われるぐらい仲が良く、全国各地にメンバーがいたのでライブで遠征するときに会えるのも面白かった。
今思えば高校2年生みんなどこかに誰にも知られない色に染まれる場所、
真っ白から始められる場所が心地よかった。
そこに「めい」というアカウント名の子がいた。

彼女が同じ横浜アリーナのライブに行ったと聞いたときは反射的にメッセージを送っていた。
今だったら会ったことも、顔もフルネームも知らない相手にメッセージを送るのは抵抗があるけれど、あの頃はそんな後先のことなんて考えずにメッセージを送っていた。

「さとしっておれの相方なんだけど知ってる?
 横アリのライブの時「めい」って子に会うって言ってたんだけど」

「え、知らない すごい偶然だね笑」
そんな人違いが神奈川と富山、すれ違うこともなかったはずの二人をすれ違わせてくれた。

3月27日から始まったラインが毎日続いて1年経つ時に互いに手紙を出すことになった。初めて目にした手書きの文字は彼女が小さな好きなことを崩れないように積み重ねて過ごしている人だと思わせてくれた。

彼女が修学旅行で東京に来るときは自由行動の時間に合わせて会いに行った。会ってとりあえず写真を一枚撮った瞬間に先生に見つかり3分ほど会って強制終了となった。いい笑い話だねと言ってくれた。

彼女は県内の専門学校に進学し、僕は都内の大学に進学した。
初めてラインをし始めてから4年間が経とうとしていた、大学2年生の春休みに彼女が就職する前に遊びに行くよと言い出した。

修学旅行の時に会おうと言い始めた時も今回も言い出したら止まらないところは何も変わってなかった。

なんだかんだまともに会うのは初めてだから顔がわからないことは
バスタ新宿についてから気づいた。
一泊二日、東京を案内しようとするとどこに連れて行けばいいのかわからなくなる。

もしかしたら、これが会うのは最初で最後になるかもしれない
そんなことは必死に気づかないふりをした。

交わることなく流れていた中に住んでいた魚が微かな流れを辿って交わっていたおとぎ話も大きな流れにのみこまれてしまう。

「次はおれが大学卒業する前に遊びに行くよ」
社会人と付き合っていて。もうそろそろ同棲すると言っていた君は
「富山なんて来てもすることないよ」と笑いながら言った。

それ以降毎日続いていたラインも少しずつ3日間、一週間、二週間と少しづつ間隔が開き始めた。間隔が開いて行くにつれ僕も彼女の名前が目に入らない日常に慣れていった。

今でもバスに乗る直前に結っていた髪を下ろして最後にまっすぐ降りた髪を
揺らしながら振り返った君を思い出す。
「じゃあね、ありがとう」

僕は「またね」と聞こえた振りをした。


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