音楽みたいな、彼女の料理
パタパタ。トントン。
たまあに、ゴトり。
はじめて訪れた彼女のお家は、いつも彼女が纏っている笑顔のつづきみたいな場所でした。
好きなものをとにかく集めて、言葉よりその空気で見せて、なんかひとつひとつこだわってるようで、ごちゃっと置いてあるところが愛らしい。
「お昼は、オムライスにしよう。」
そう先週の日曜に決めて、わくわくとしていました。ふわふわのオムレツに、鮮やかなケチャップ。そこにスプーンを入れる瞬間を。
お家について、早速ご飯の準備。
玉ねぎ、鶏肉。ここまでは何事もなく進んでいたのですが、彼女はあることに気がつきました。
「あ、ケチャップないや。」
...軽い!
オムライス作るのにケチャップがないという事実に対しての驚きが、軽い。
彼女は思いついて、ケチャップの代わりにめんつゆご飯にすることしました。
まるで、洋楽を用意してたけど、今日は座敷だったから演歌で頼むよって言われた、バンドマンの気分です。
でもそこから、彼女は迷うことなく味付けをして、水菜を入れたり、鶏ガラを入れたりとどんどん進めていく。着実に彼女の目指す新しいオムライスに向かっていることがわかるのです。
その手さばきに感心して、思わず口を挟みました言いました。
「その迷いのない感じ、素敵だね。」
「うん、けっこう料理はいつも直感なんだよね。」
きっといつも彼女は直感を大切にしていて、その瞬間を愛しているんだと思います。だから彼女の周りには、新鮮で生まれたての愛らしいものが集まってくるのだと。そういう部分が、私は好きだし憧れてしまうのだと。
と、
そうは言っても、和風オムライス?の行方が気になるところです。
順調にご飯が炒まり、オムレツが焼かれる。ご飯に乗っけてみると、意外とオムライスとして見た目は成立していました。
そこに、突如としてかけられたモノ。
透明で、とろっと。赤い何かの入ったソース。
**それは、チリソースでした。 **
「オムライス作る気あるんかい。」
突っ込みつつ、、、
パクり。
ん?んんんん?
うんまいっ!!
ここはタイか🇹🇭??
オムライスでも和風オムライスでもなく、存在しないタイ料理が、口の中に広がりました。
名もない料理と、名もない音楽
彼女は、私にアコギを教えてくれていて、音楽って楽しいんだなってことを語らずして教えてくれています。
彼女のつくったオムライスは、彼女の教えてくれる音楽のようでした。
肩肘を張らずに、直感で、とにかく自分のわくわくを見つめて。
それでいいし、楽しいし、大好きだねって笑う。
そこにあるのは、
最初思っていた場所から、思ってもみなかった場所にたどり着く、底知れない楽しさと。
好きな瞬間を積み重ねたら、こんな風になりましたって、子どもみたいに誰かに渡すようなくすぐったい気持ちと。
新鮮なうちに、直感でつかんで、愛してあげるのがいいんだよって、彼女は言っているような気がします。
料理も、音楽もね。
言葉で、日々に小さな実りを。そんな気持ちで文章を綴っています。