猫記録2-③ チャー坊
そのお世話をしてくれている人たちは、僕の故郷の公園近辺で、野生ネコを観察し、去勢をし、餌やりをしながら見守っていてくれていた人たち。基本は何かあっても回復したら公園へ返す。ところが、僕があまりにも人間好きなので、どこかの家庭でかわいがってもらったほうが幸せなのでは、と考えたそうだ。しかも白血病のキャリアがあるとか。なんのことはわからないけど、良いものではないのだと思った。
その家族はすべてを理解してくれたうえで、喜んで受け入れてくれた。手放しで猫好きの様子だ。僕のことを、
「丸いなぁ、君は」
と何度も言う。今までこんなに丸い丸いと言われたことはなかったが、僕はきっと丸いのだろう。マルオなんて呼ばれるときもあった。
二人とも昼間は家にいなくて、一人のんびりと過ごすことができた。最初は公園時代の習慣から小さな音にも過剰に反応してしまい、大丈夫だから、家の中には誰も何も入ってこないよ、となだめられたりした。なるほど、家に住むということはそういうことなんだ。ただ、妹たちや他のみんなと遊ぶこと、緑の茂みの匂いを嗅ぐことはできない。木登りもしていた。
ベランダへ出たり、おもちゃで遊んだりしてもらい、ぐりぐりされ、幸せに過ごしていた。
やがてその家の女の子が帰ってきた。初めましてだ。その子も両親に違わず無類の猫好きのようだった。ぐりぐり具合が上手で、すぐに女の子と一緒に過ごすのが好きになった。大学へ入るまでの短い間だそうだ。
玄関前へは出かけさせてもらった。時にどこかへ行きたいとも思わなかったけれど、また違った空気を吸うことができておもしろい。通りすがりの犬たちとも会える。ただ電車の音は怖かった。刺激のない日常が僕には合っていたのだと思う。
一度だけ怖い思いをした。いつものようにマミーが外へ出かけるために開けたドアからいっしょに気づかれないように出たのはよいが、女の子はまだ寝ていて家の中へ入れてもらえなかった。誰かに出してもらうときはドアを少し開けておいてくれるので、好きな時に変えることができたのに、その時はドアが閉まったままだった。急に不安になって、線路の横の排水溝の中へ隠れた。電車が通るたびにすごい音がする。もう一歩も動けないと思った。
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